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掲載: 2003/12/26
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今回の「CDは株券ではない〜菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想」は、SPANK HAPPY『Vendôme, la sick KAISEKI』をリリースしたばかりの菊地成孔が、2003年のシングル・チャート30位を見ながら今年1年の日本音楽界はどういう状況だったのかを振り返る年末特別企画。ますます深刻化する〈CD不況〉を打ち破るカギはここにある。かも?
文/ヤング係長
――まず、今年のシングル・チャートを見てもらえますか。一番売れたシングルがSMAP“世界に一つだけの花”で、これが200万枚を超えていて、2位以降は福山雅治、宇多田ヒカル、森山直太朗、RUIと続くんですけど、他のシングルでミリオンを超えているものがないんですよ。
| | 今年最も売れたシングル。SMAP“世界に一つだけの花” |
うわー、すごい(笑)。2位以下が100万枚行ってないんだ。えらい世の中になったね。やっぱり株券にしないとだめだ(笑)。アルバムのほうがミリオンが多いんでしょ?
――そうですね。アルバムはCHEMISTRY、浜崎あゆみ、B'z、桑田佳祐、BoAなど、100万枚を超えているものが合計で7枚あります。
これを見てもわかるのが、シングルCDは何年か前と比べると圧倒的に売れていないということだよね。じゃあ、なぜシングルが売れないのか、それを考えてみよう。
――効率が悪いからでしょうか? アルバムに比べると、値段の割に収録曲が少ないとか。
| | 2002年9月発売ながら、今年爆発的ヒットを飛ばした綾小路きみまろの漫談CD『綾小路きみまろ 爆笑スーパーライブ第1集!』 |
誰でも指摘することだけど、俺ぐらいの世代の人間が若かった、つまり邦楽は全部歌謡曲だった時代には、シングルにはシングルにしかないアウラ(オーラ)があったんだけど、今のシングルCDにはそのアウラがないわけでさ。極端な話をすれば、昔はアルバムを買っても、聴きたい曲が西城秀樹の“ヤングマン”しかないという時代があった。今は時代がすっかり変わっちゃって、綾小路きみまろですらアルバムで力を発揮する時代だからね(笑)。
――確かに、綾小路きみまろのアルバムはチャート13位に入っています。
| | 2003年5月発売、はなわのお笑いパンク・シングル“佐賀県” |
この人のキャラからいけば、昔はシングルが一曲売れるようなタイプだったんだよ。バラクーダの“日本全国酒飲み音頭”とかさ(笑)。EAST END×YURIの“DA.YO.NE”ってあったでしょ? あそこまで続いている。今だとはなわの“佐賀県”とかね。でも、そういうものがチャート上位に上がってこれなくなってきてるよね。〈面白い〉という理由だけで、それがどういうアーティストかも知らないのにシングルが大ヒットを飛ばす。そういう現象が古き良き日本にはあった、でも今はそうじゃなくなってるよね。綾小路きみまろの例に顕著なように(笑)。
――シングルの売上が下がっていることと直接的な関係があるのかどうかわからないのですが、去年くらいから音楽DVDの売上が上がってきているんですよ。ハロー!プロジェクト関連のアイテムなんかは結構DVDでリリースされているみたいで。
あのね、モーニング娘。に関しては、ここで我々が軽率なことを口にするわけにはいかないんだ。モーヲタという消費メディアの人たちが存在していて、彼らは偏執的にモーニング娘。周辺の情報を集めるわけだ。だから、うっかりしたことは口にできないんだよ。でも、彼女たちのことを良く知らない人間の一人として言わせてもらえば(笑)、俺ぐらいの世代にとって、彼女たちの持つ〈娯楽性〉はクレイジーキャッツを思い起こさせるんだ。
――女の子が持つ魅力というのは……。
| | モーニング娘。の現在までの最新DVDシングル“Go Girl 〜恋のヴィクトリー” |
そりゃあるさ、もちろん。そりゃ矢口は可愛いさ(笑)。でもね、アイドル集団ということで、おニャン子クラブの系譜で彼女たちを見たりするのは間違っている。モーニング娘。はエンターテイメントとして巨大すぎるんだ。つまり、国民的娯楽に耐えうるものなんだよね。
彼女たちは「めちゃイケ」に出るでしょ? あの番組は毎回映画みたいな作りになっているんだけど、あれを見ていると、クレイジーキャッツが主演で、半年に一度やっていた映画とか、そういうものの記憶に近いんだよ。全員に魅力があって全員が面白い。全員にちゃんと見せ場があって、非常に有能なタレント集団による良くできた娯楽である。日本人はそういうものを求めていたわけ、70年代までは。娘。は、クレージーキャッツの記憶を刺激するんだよね。俺にとって(笑)。
まだ1枚も見てないからわからないんだけど、おそらくこのDVDもただのアイドルのイメージビデオではなく、きっと素晴らしい充実したプログラムになってると俺は思うわけ。それに、DVDってのは、そもそもヲタクの為のメディアだからさ。ヲタじゃない人にとって、あれは単に入り組んでて面倒くさい物なんだから(笑)。だから、娘。のそれなんて、売れてしかるべき最大の物なんじゃないの? それで、こういうDVDの音楽商売はいつごろから始まったの?
――去年くらいから本格的に波に乗り出した感じではないかと。
まだ未開の地だな。黎明期だね。チャートに話を戻そうか。まず、この(当日編集部が用意した)シングル・チャート30位までの曲の中に、知ってる曲が何曲あるか数えてみよう。そらで歌える曲ね。編集部はどのくらい知ってるの?
――えーと、……7曲ですね(笑)。
俺は……4曲だな。編集部、連載陣含めてチャート30位までにランクインしている曲をほとんど知らないという状態なわけだ(笑)。これもよく言われるのが、山口百恵の“プレイバック Part 2”は70万枚しか売れてなかったのに、国民全員が歌えた。という話で、この状況の推移を完全に間違いなく説明できる奴は居ないと思うけど、とにかく様々な理由によってそうなったと。 |
――とりあえず(笑)、去年の元ちとせがチャート1位をとったあたりから、奄美や沖縄のアーティストが続々とチャートに入ってきているようなんですけど。
| | 奄美出身の元ちとせ、8月に発売されたシングル“いつか風になる日” |
すっかり沖縄が〈癒し〉、あるいはそれ以上の、霊的なヒエラルヒーつうかな。なんだかそういうことになってしまったね。沖縄は、たとえばイタリアにおけるバチカン市国みたいなもので、日本の中にあるけど、まだわが国であると思われていないわけだ。いい意味でだよ。沖縄はポリネシアであって、一つの秘境、魔境なわけだよ。
例えば、元ちとせが東北出身だったら困るわけじゃない(笑)。でも、宇多田ヒカルはニューヨーク出身じゃなくてもいいわけでしょ? そう考えると、沖縄出身のアーティストの多くの歌は、アメリカでいうところのタウン・ミュージックなわけだ。生まれた土地がアイデンティティになりえる音楽、という意味で。「オラ東京さ行くだ〜」っていうのが東北のタウン・ミュージックであるという極端な例を除けば(笑)、チャート・アクションを起こせる日本のタウン・ミュージックは沖縄からしか生まれないんじゃないかな。
――オレンジ・レンジやHY、モンゴル800なんかは、沖縄という土地の持つ歴史の流れを汲んだ音楽、という感じがしないんですけど、やっぱり沖縄と関係はあるんでしょうか?
| | 今年デビューした沖縄ロック・バンド。オレンジ・レンジの3枚目のシングル“ビバ★ロック” |
そりゃ関係あるよ。米軍基地があるような街に育ったのに、彼らの視線には米軍基地があまり入ってないんだ。オレンジ・レンジがシングルのイントロで米兵のランニング・トレーニングのかけ声を使っていたでしょ。あんなに軽く米軍を扱えるのも、それを証明しているんだと思う。ところが、実際のところは外側では今、米軍基地をどうするのか? という大きな問題が渦巻いていて、それが彼らの大胆不敵さとか無邪気さに外圧をかけはじめている。という複雑に倒錯した事情がある。アメリカ、沖縄、米軍、日本を巡る問題が今転換期にきているからね。20年前だったら、「国家は親米、沖縄は反米」でよかった。でも今、国家は親米か反米かで悩んでいるし、沖縄の人間はもう慣れちゃって、アメリカを異物として捉えることができなくなっている。そういう逆転した倒錯が起こっているんだよね。そんな中で出てくる〈無邪気な若い沖縄ロック〉っていうのは、なにか歪んだ形に見えざるを得ないと俺は感じるけどね。
――なるほど。CRYSTAL KAYやmelody.など、バイリンガルの女性R&Bシンガーっていうのも最近のチャートに良く顔を出していますよね。
この連載の3回目でも書いたけど、ニュー・ライト・エキゾチックね。BoAもそうだよね。ちょっと韓国の顔をしているからいい。そういうエキゾチックな顔立ちでバイリンガルの女性を支持する傾向っていうのは、アグネス・チャン、テレサ・テン、アン・ルイスといったオールド・ハード・エキゾチックから脈々と続いているね。
| | ニュー・ライト・エキゾチックの代表格? クリスタル・ケイの“Can't Be Stopped” |
日本の女の子の中にあるキャリア志向、スキル志向には、なぜか英語が入っているんだよ(笑)。ここがとっても重要なんだけど、英語が話せるととにかく凄く偉いわけ。バイリンガルであることが凄い価値になってくるんだ。70年代にもバイリンガルの人はいた。でも、彼女たちは日本語がなまっているということで劣等と思われていた。でも今それは劣等を意味しないでしょう。これほど英語が喋れることを若い女の子たちが尊敬する時代はないと思う。そういったスキル志向、上昇志向みたいな、言ってみれば前向きな考えを持つ女の子たちがセクシー、キュート、ストロング、ビクトリー、ファイトなほうに流れてR&Bに傾倒していくというのは全く不思議ではないね。
――では、バイリンガルでR&B志向な女の子が今のチャートに入ってくるというのは必然であると?
ジェンダーが逆転したんだよ。女の子は無能で、踊りが稚拙で、インタビューでも訥弁だけど、声が良くてとっても可愛い。男はスキルがあって、なんでもできちゃう。そういうものがオールド・ジェンダリックだとしたら、これはもう完全に逆転した。
| | ハワイ育ちの新ディーヴァ。melody.の"Crystal Love” |
今、アイドルっていのは可愛いだけじゃなくて、いかにスキルを持っているのか、というのが重要になっている。20世紀末にコギャルっていたでしょ? ジェンダーの転倒っていうのは倒錯だからさ、あれは倒錯しかけの過程で出てきた病的な症状だよね。今見てもあれは病気でしょ(笑)。今は女の子たちがいろいろな仕事をしてみたいと思っている。可能性を試したいと思っている。スキルを上げようと思っている。
で、男の子は批評をやり続け、批評によってリヴィドーを昇華させようとするあまりネットに引きこもっちゃってるわけだ(笑)。その傾向がチャートにも影響しているね。2003年現在において、男のアイドルこそがアイドルだよ(笑)。 |
――チャートでは、175Rが18位にランク・インしています。若い子たちの間では、こういった〈青春パンク〉と呼ばれているバンドが人気だったりしますが、青春はジェンダーの転倒とは関係ないのでしょうか?
| | 青春パンク系バンドとして知られる175Rのシングル“手紙” |
青春はもっと下部構造の話だからさ。14歳から16歳くらいにかけて体に変化があって、性欲が出てきたけど社会的には全く無力で、だけど自我の独立がある。という生殺しのような状況なわけじゃない? そういうエネルギーが発散されて泣いたり喧嘩したりっていうのは変わらないんだよ。それが失われるような国家が出てきたら終わりでしょ(笑)。
――不景気が長引いていたり戦争が起こったりという時代で、不安感が根底にあるわけじゃないですか。チャート1位の“世界に一つだけの花”、11位の中島みゆき“地上の星”なんかもそれに当たると思うんですけど、応援ソングのようなものが支持されていますよね。
| | 90年代の〈がんばれソング〉のはしりと言われている大事MANブラザーズバンド“それが大事” |
〈がんばれソング〉は、90年代にもブームはあったと思うし、そもそもヒットチャートってのはどれだけ国民を応援したか? という力比べなわけでしょ。「ナンバー・ワンじゃなくて、オンリー・ワンなんだ」って、そりゃあ元気も出るよ(笑)、俺はさ、90年代最大の流行語は「大丈夫」だと思っているんだ。例えば、電話したとき、相手に「今大丈夫ですか?」って聞くでしょ? レストランに行けば「お水のお代わりいかがですか?」とか「料理はお口に召しましたか?」っていうのが全部「大丈夫ですか?」になっている。そして、それが違和感なく定着してしまっている。相当大丈夫じゃないんだよ、この国は(笑)。あと一押ししたらとんでもないことになるっていう危機感ね。それを、「大丈夫」という言葉を日常生活の中に張り巡らすことによってブロックしているわけ。がんばれソングの中にはおそらく、不安を吹き飛ばす内容の歌詞だったり、実際に「大丈夫」って言っている歌詞も多いでしょう。聴いてないからわかんないけど(笑)。
不安の吹き飛ばし方にもいろいろある。レイヴみたいに大音量で音楽を鳴らしたり、趣味のいいものを観察したりね。でも、そんな時間は長続きはしないんだ。〈大音量の音楽〉も〈趣味のいいもの〉もない時間の中でも不安はない。というタフさを持ったときに人間の自我は強くなるのかもしれない。でも、そんな時はこないんだよ。高度経済成長期だって、あれ戦争の後で、みんな大丈夫じゃなかったんだからさ(笑)。焼け野原から、金属のタワーだらけの街を作るっていうのはまさしくレイヴなわけじゃない、復興レイヴ(笑)。
| | Dragon Ashが2003年にリリースしたシングル“morrow” |
それが終わっちゃってさ、祭りが終わっちゃったんだよね。そういう意味ではね、今年のシングル・チャートの傾向は、渋谷系とかさ、芸能界以外の非歌謡ビジネスが完全に撤退してしまっているというのが大きい。ということは、ビッグ・ビジネスが動いているんだよね。つまり、音楽ジャンルとしてではない〈パンクなもの〉がないんだ。Dragon Ashはかなりいいところまで行ったと思うんだけど、今年はシングル・チャート30位内からは抜けちゃってるしね。
――〈パンクなもの〉を支持していた人たちはどこに行ったんでしょうか?
渋谷系のファンだった人、フィッシュマンズのファンだった人、Dragon Ashのファンだった人、キングギドラのファンだった人。この人たちに通じているのは、全部日本の文化がそれによって変わると思っていたということだよね。
でも、元に戻った。変わらなかったんだよ。だから、彼らは全員挫折しているわけ。相当な人数の挫折した人々が、この国のレコード屋では何を買ったらいいのか悩んでいるはずだよ。彼らが抱いていた、「この国の文化は変わって、彼らにとって素晴らしいものだけが残るだろう」。極端に言うと、「日本が外国になる。そうならなくても、いい日本がやってくるはずだ」と考えたときに彼らは理想主義者だったし、変革主義者だったし、オプティミストだったんだよね。そういう人たちの夢は砕けた。具体的に言っちゃえば、9・11以降砕けた。夢が砕けた人たちの行き場はどこにあるのか? っていうのが2003年の総括といえば総括だからさ。しかし、こうやって振り返ると、90年代は特筆すべき時代だったのかもしれないね。
――では、そろそろ今年の総括をお願いします。
だから、今のチャートに足りないものは外国だね。チャート上位はみんな日本、あるいは東京のことを歌っているわけだし。でも外国は、90年代に消費してしまっているし、9・11以降の態度が保留になってるから、元に戻るには時間がかかるでしょう。だから、違った形の外国が出てくることはあるかもね。ハワイのダークサイドだったり、ゴスなところのヨーロッパだったり、フィフティーズのアメリカなんだけど凄いヒールでデヴィッド・リンチみたいなものだったりとかね。
――なんか、どれも病んでいるような気がするのですが……。
そう、全部病んでるよ。90年代に消費された欧米文化はまるで病んでいないディズニーランドみたいなものだったわけだから。今、ファッション・ショーを見ると、もうゴスゴスなのよ(笑)。歴史的な病に対して個人の病でアゲインストするという、よくある歴史がとるパターンに文化がなりつつあるんだ。もし、この連載が好評で来年まで続いて、2004年の総括をしたときに、ひょっとしたらチャートの中にディズニー的な外国が入ってきているかもしれない。でも、2003年は楽しい外国はひとまず終わり。それよりも目の前の日本、ということになっているよね。「ファンシーとヤンキーは日本の心だ」という、故・ナンシー関の明言通り。少なくとも2003年はそうだったと。記録というのは良いね(笑)。
※インタビュー中のシングル・チャートは、オリコン株式会社から発売された「Best of WO」のデータを使用しました。
▼菊地成孔関連作品を紹介
| | 9月25日に発売されたDATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENのセカンド・アルバム『Structure et force』 |
| | 6月に発売されたDCPRGのライヴ盤『MUSICAL FROM CHAOS』 |
| | 12月3日に発売されたSPANK HAPPYのセカンド・アルバム『Vendôme, la sick KAISEKI』 |
| | 菊地成孔feat.岩澤瞳名義で来年1月に発売されるシングル“普通の恋” |
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 ・菊地成孔 オフィシャルサイト
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