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ヴィム・ヴェンダースが映画「ソウル・オブ・マン」で描くブルースの魂

掲載: 2004/09/16

ソース: 『bounce』誌 257号(2004/8/25)

文/村尾 泰郎

生誕100周年を迎えて再燃するブルース

2003年/アメリカ 監督/ヴィム・ヴェンダース  出演/スキップ・ジェイムス、JB・ルノアー、ベック、イーグル・アイ・チェリー、ルー・リード、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン他 東京・ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ他、全国公開予定(配給/日活)
 ブルースはアメリカが生んだ大いなる神話だ。だからそれがいつ始まったか、明確にするのは難しい。でも、歴史を重んじるアメリカは、2003年2月1日からの1年間を〈イヤー・オブ・ザ・ブルース〉と宣言。ブルースが100歳になる誕生日を祝った。ちなみに100年前になにがあったかというと、こういうことだ。1903年、ミュージシャンのWC・ハンディは、たまたま立ち寄ったミシシッピ州デトワイラーの駅で、これまでに聴いたことのない音楽を耳にする。黒人ギタリストがポケットナイフを使って弾いていた風変わりな曲。彼はその曲をさっそく楽譜に起こしたが、それが初めて公式に記録された〈ブルース〉だった──ってやっぱり神話ですね、これ。

 で、それから101年後の今年。エアロスミスが彼らのルーツであるブルースのカヴァー・アルバム『Honkin' On Bobo』を、エリック・クラプトンがブルース界のレジェンド、ロバート・ジョンソンのトリビュート・アルバム『Me And Mr.Johnson』をリリース。彼らのほかにも、ケヴ・モ、Gラヴをはじめとする〈曾孫〉たちの新作が次々とリリースされている。そして、そんななかでマーティン・スコセッシ総指揮のプロジェクト、〈THE BLUES Movie Project〉が日本でも公開されることが決定。その詳細は別コラムに譲るが、このプロジェクトのなかでも話題の一本といえるのが、ヴィム・ヴェンダーズ監督作品「ソウル・オブ・マン」なのである。

 ▼文中に登場した作品を紹介。
エアロスミス『Honkin' On Bobo』(Columbia)
エリック・クラプトンによるロバート・ジョンソンのトリビュート・アルバム『Me And Mr.Johnson』(Reprise)

「ソウル・オブ・マン」と3人のブルースマン

「スコセッシからブルースについての映画を作るという話を聞いて、彼といろいろ話し合ってみたんだ。そして私は自分のブルース・ヒーローたちの音楽について描いてみたいと思った」(ヴィム・ヴェンダーズ:以下同)。

 世界的な大ヒットとなった「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」ではキューバ音楽を取り上げたヴェンダース。彼が今回、ブルースの魅力を解き明かす案内係に選んだのは、スキップ・ジェイムスとJB・ルノアーだった。ブルースの情念を繊細なギタープレイで聴かせたスキップと、軽快なロッキン・ブルースが愛嬌たっぷりのルノアー。何年も彼らの音楽を聴き続けてきたヴェンダースは、彼らがどんな人間で、どんな人生を送ったのか何も知らなかったことに気付き、本編の題材に選んだという(「だからこそ、私にとっても彼らについて学ぶいい機会だった」)。

 さらにヴェンダースは、映画の語り部として、もうひとりのブルース・シンガーを登場させた。彼の名はブラインド・ウィリー・ジョンソン。生前の写真が一枚も残されていないという謎に包まれたブルースマンだ。

  「ブラインド・ウィリー・ジョンソンの“Dark Was The Night”は20世紀を代表する名曲として、ヴォイジャー号に乗せられて宇宙に打ち上げられたんだ。私はこの曲が好きで、〈パリ、テキサス〉の撮影中、仮のサントラとしてこの曲をずっと流していた」。

 宇宙の漆黒に木霊するブルース。映画はそんなイメージ・シーンでスタートする。ナレーションを務めるのはブラインド・ウィリー・ジョンソン……といっても彼はすでに亡くなっているため、役者のローレンス・フィッシュバーンが担当。彼が演じるジョンソンの再現ドラマから始まり、やがてそれはスキップ・ジェイムスの、JB・ルノアーの、異なった時代を生きたブルースマンたちのドラマへ橋渡しされていく。そして、それぞれの物語の間に挿入されていくのが、現在活躍するアーティストによるカヴァー・パフォーマンスだ。マーク・リーボーによる“Dark Was The Night”から始まって、ボニー・レイット、ルシンダ・ウィリアムス、ニック・ケイヴ、ブルース・エクスプロージョン、そして映画「オー・ブラザー」の音楽を監修したTボーン・バーネットなど、数々のアーティストが偉大なる先人たちに敬意を表した。

  「ハイライトのひとつがベックだった。彼はスキップ・ジェイムスの“I'm So Glad”と“Cypress Grove Blues”を演ってくれたんだが、毎回違うギター、違ったリズムで、二度と同じようにアレンジすることはなかった。ルー・リードの演奏も楽しかったね。彼はプレイのあいだ、ずっと微笑んでいたよ。バンド全員が至福に包まれていて、撮影はワンテイクで済んだ。ルーが微笑みながら演奏している光景を撮ることができてとても光栄だ」。

 そういった新しい解釈の演奏と対になる形で鮮烈に記憶に残るのが、生前に撮影されたルノアーの貴重なパフォーマンス映像だ。リヴィングのソファーにどっかり腰を下ろし、リラックスした表情のルノアーがギターを爪弾き歌う姿は、なによりも雄弁にブルースという歌、生き方、感じ方を全身で感じさせてくれる。なかでも“Voodoo Music”を演奏中に外で雷がゴロゴロ鳴り出すあたり、まるでブルースという神話に対する新しい注釈のようで鳥肌が立ってしまう。

 そういえばヴェンダースは、この映画のナレーションであるブラインド・ウィリー・ジョンソンの声を〈宇宙の声〉と説明した。そして、「(スキップ・ジェイムスは)観客の遙か彼方に向かって演奏していた」と熱っぽく映画の中で語っていたのは、彼の生前最後のマネージャー。ここに描かれたブルースはコズミックで人懐っこい。まるでキラキラ輝く男の星座。その輝きを「ソウル・オブ・マン」と呼ぶなら、こんなにピッタリなタイトルはないだろう。クロスロードから宇宙へ、ブルースは旅を続ける。

 ▼「ソウル・オブ・マン」に出演したアーティストの作品を一部紹介。
マーク・リーボーの99年作『Yo! I Killed Your God』(Tzadik)
ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズの85年作『The First Born Is Dead』(Mute)
Born Is Dead』(Mute)、ベックの95年作『One Foot In Grave』(K)

文/bounce編集部

〈THE BLUES Movie Project〉って?

 2003年に全米公開され、大きな話題を集めた〈THE BLUES Movie Project〉。マーティン・スコセッシが監修したこのプロジェクトは、合計7本の映画からなる壮大なブルース一大絵巻ともいえるものです。スコセッシ本人が監督を手掛け、ブルースの起源を求めて西アフリカへと旅する「フィール・ライク・ゴーイング・ホーム」、ローリング・ストーンズらのインタヴューを通してイギリスのロック・バンドとブルースの関わりを探る「レッド、ホワイト&ブルース」のほか、チャックDやコモンも登場してヒップホップのルーツに言及する「ゴッドファーザー&サン」など、どれも興味深いテーマのものばかり。ブルースが与えたさまざまな影響を、豪華アーティストたちの証言やパフォーマンスを通して探っていこうとするこのシリーズ、どれも必見です。「ソウル・オブ・マン」を皮切りに順次公開される予定とのことなので、bounceでも随時ご紹介していきますよ! なお、公開情報などは〈www.blues-movie.com〉まで。

 ▼関連本/盤を紹介。
評論家によるエッセイなどを収めたオフィシャル・ブック「ザ・ブルース」(白夜書房)
サントラ『Feel Like Going Home』(Columbia)
サントラ『Red, White & Blues』(Columbia)

文/吉田 淳

映画「ソウル・オブ・マン」をより楽しむための4枚


THE SOUL OF A MAN 『Soundtrack』 Columbia
ヴィム・ヴェンダース監督のフェイヴァリット・ブルースマンであるブラインド・ウィリー・ジョンソン、スキップ・ジェイムス、JB・ルノアーに焦点をあてた「ソウル・オブ・マン」のサントラ。3人のオリジナル曲と、映画にも登場するベック、ブルース・エクスプロージョン、ボニ−・レイットらが料理した3人のカヴァー曲を収録。ブルースとはかくもかっこ良い音楽なり。



 

SKIP JAMES 『King of the Blues』 Pヴァイン 
ミシシッピ・デルタ・ブルースの伝説的巨人のひとり、スキップ・ジェイムス。ファルセットを交えた独特の歌声とギターで、あのロバート・ジョンソンにも影響を与えている。今作は1931年に録音された全18曲を収録した編集盤で、クリームのカヴァーで有名な“I'm So Glad”も収録されている。その後スキップは60年代に〈再発見〉され、秀逸な録音を残した。



 

BLIND WILLIE JOHNSON 『Dark Was The Night』 Columbia
テキサス出身で、ゴスペルを弾き語る盲目のギター・エヴァンジェリストとして活動していたブラインド・ウィリー・ジョンソン。ダークでひしゃげたエモーショナルなヴォーカル、ナイフを用いた幽玄なるスライド・ギターは当時からズバ抜けていた。録音を残したのは27年〜30年のわずか3年ばかりだが、その影響力は凄まじいものがある。



 

J.B. LENOIR 『Martin Scorsese Presents The Blues -J.B. Lenoir』 MCA
ミシシッピで生まれ、その後シカゴで活動していた知られざるブルースの巨人、JB・ルノアー。まるで女性と聴き間違えてしまいそうな高めの歌声と、ロッキンなブルース・サウンドとの組み合わせが実にユニーク。個性派が集っていた当時のシカゴにおいても、その存在は一際輝いていた。今作は、チェッカー音源を中心としたベスト盤。

文/秋山 尚子

ブルース100年の重要トピックを振り返ってみましょう!!

1900

1887年 
チャーリー・パットンが生まれる

1888年 
レッド・ベリーが生まれる

1902年 
スキップ・ジェイムスとサン・ハウスが生まれる

1903年 
WC・ハンディが史上初めてブルースを楽譜化


1910

1910年 
ハウリン・ウルフが生まれる

1911年 
ロバート・ジョンソンが生まれる

1918年 
エルモア・ジェイムスが生まれる

1920

1925年 
BB・キングが生まれる

1929〜34年 
チャーリー・パットンが録音。その後、34年に逝去

1929年 
JB・ルノアーが生まれる

1930

1934年 
オーティス・ラッシュが生まれる

1936年 
バディ・ガイが生まれる

1936〜37年 
ロバート・ジョンソンが計5回のレコーディングを行い、別テイクも含めて全41トラックを録音する。その後、38年に毒殺される


ロバート・ジョンソンの編集盤『The Complete Recordings』(CBS)


1940

1941〜42年 
サン・ハウスが国会図書館用に録音を行う

1946年 
ジャンプ・ブルースの雄、ルイ・ジョーダンが“Choo-Choo Ch' Boogie”を大ヒットさせる

1948年 
マディ・ウォーターズがシカゴでの録音を開始。このころシカゴ・ブルースが誕生したとされる。50年代以降はシカゴがブルースの中心に

1949年 
BB・キングが初録音。51年には“Three O'Clock Blues”が大ヒット


バディ・ガイの編集盤『I Was Walkin Throuth The Woods』(Chess/MCA)


1950

1951年 
ケブ・モが生まれる

1958年 
バディ・ガイがデビュー。60年代に入るとそのアグレッシヴなギター・プレイが人気を集める

1958年 
イギリスでブルース・ブームが起こる


ライトニン・ホプキンスの60年作『Mojo Hand』(Universe/Comet)


1960

1960年 
ライトニン・ホプキンスが『Mojo Hand』をリリース。ふたたびカントリー・ブルースに注目が集まる

1963年 
エルモア・ジェイムスが心臓発作のために死去

1964年 
ローウェル・フルソン“Tramp”が大ヒットを記録

1967年 
JB・ルノアーが死去

1969年 
マジック・サムが死去

1970

1971年 
ハウンド・ドッグ・テイラーを世に送り出すため、ブルース・イグロアがアリゲイターを設立。同年、ハウンド・ドッグ・テイラー・アンド・ザ・ハウス・ロッカーズがデビュー

1971年 
日本初の本格的戦前ブルース・コンピ『RCAブルースの古典』がリリース

1974年 
ジェイムス・コットン・バンドがファンク・ブルースの名盤『100% Cotton』をリリース

1975年 
ハウンド・ドッグ・テイラーが死去

1976年 
ハウリン・ウルフが死去

1978年 
BB・キングとアルバート・キングが来日公演を行う


ハウンド・ドッグ・テイラー・アンド・ザ・ハウス・ロッカーズの71年作『Hound Dog Taylor And The House Rockers』(Alligator)


1980

1980年 
ロバート・クレイ・バンドが『Who's Been Talkin'』でデビュー。〈新世代ブルースマン〉の登場として大きな話題を集める

1990

1994年 
老舗レーベル、オーケーが復活

1994年 
ケブ・モがデビューを飾る

1996年 
ジョニー・ギター・ワトソンが日本公演のステージ上で倒れ、そのまま逝去


ロバート・クレイ・バンドの80年作『Who's Been Talkin'』(Mercury)


2000

2001年 
ジョン・リー・フッカーが死去

 2003年 
ブルース誕生から100年!!

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