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第62回 ─ 来日記念特別企画! カエターノ・ヴェローゾのラディカル人生ゲーム!!


掲載: 2005/05/19

ソース:『bounce』誌 264号(2005/4/25)

文/bounce編集部

どこまでも完成しないポップ・カメレオン……カエターノ・ヴェローゾが久々の来日!!

 ブラジル音楽の最高峰に位置するシンガー・ソングライター、カエターノ・ヴェローゾがもうすぐ日本にやってきます(8年ぶり3度目!)。キャリア40年あまり。ブラジルにおけるロック黎明期から現在に至るまで多大な影響力を持ち続けながらも、トップの座に安住することなく常にアンテナを張り巡らせて、鋭い目つきと深い洞察力で社会を切り取って歌にしてきたこの大ヴェテランの創造力はいまだ天井知らず。特に50歳を越えてからここ10年間の〈新作が常に最高傑作〉という快進撃には本当に驚かされるばかりです。そんなカエターノのハイブリッドなサンドのひとつの秘密は、まるでスポンジのような抜群の吸収力にあります。時代の空気を敏感に嗅ぎ取り、誰も気付かなかったような〈目から鱗〉的視点によって〈ラディカル・スタンダート〉ともいうべき名作をいくつも残してきました。久々の来日を記念して、そんな彼の化学反応の歴史を改めて検証してみましょう。せっかくやるなら楽しくやらなくちゃ!ということで、bounceは彼の歩みを人生ゲーム(風)にしてみましたよ。ただし、本当の人生はゲームのように簡単にはやり直しがきかないので、くれぐれもご注意を!!



嗚呼、青春のボサノヴァ18切符でいざ出発!
ガル・コスタとの共同名義による67年作『Domingo』(Philips)

ブラジル北東部の小さな街で生まれ育ったカエターノ青年は絵画や哲学、そして映画(フェリーニやゴダール)に心酔。大学卒業後は地元の新聞社で映画のコラムを書き将来は映画監督をめざしていたが、同郷の先輩であるジョアン・ジルベルトのボサノヴァを耳にしたこと、盟友ジルベルト・ジルに出会ったことで音楽の道へ。デビュー・アルバムとなった本作はこれまた同郷の後輩、ガル・コスタとの共演盤となった。


いきなり途中下車、サイケの森で迷子に
68年作『Caetano Veloso』(Philips)

ボサノヴァ(ジョアン)崇拝者丸出しだった↑から半年足らずで、ロックにシフト・チェンジ! 脳天気なラテン、ルードなパンクぶりが結果として〈アヴァンギャルド〉な趣き。軍事政権の圧力に嫌気が差して反政府ソング〈禁止することを禁止する〉を絶唱。ムタンチスのサイケな演奏も手伝って、大ブーイングを浴びてしまう。


〈熱情主義〉について、朝まで討論会の日々
ジルベルト・ジル、ムタンチスらと共に参加した68年のコンピ『Tropicalia Ou Panis Et Circencis』(Philips)

ジルベルト・ジル、ムタンチス、トン・ゼーといった異才奇才が大集合してトロピカリズモ運動に精を出す。ブラジル版〈サージェント・ペパーズ〉とも評されるこのアルバムは、世界中のカウンター・カルチャーにも激しくリンク。カエターノはラテンの名曲をリッチにカヴァーして温故知新。


1回休み。ロンドンへ亡命
71年作『Caetano Veloso』(Philips)

ジルベルト・ジルと共に当局から危険分子として睨まれていたため(投獄も経験)、ロンドンへ亡命。〈この街はとってもラヴリー/僕の両目は空飛ぶ円盤を探している〉という、ちょっとアブない歌詞の“London London”ほか、妹マリア・ベターニアの名前を冠した曲などもあり、もしかしてホームシック?


声の実験に明け暮れる
72年作『Araca Azul』(Philips)

ブラジルに帰国。長男モレーノ君(のちにモレーノ+2として活躍)の誕生ソングがコンクリート・ポエムとボサノヴァの異種交配によるものだったり、まるで「ウルトラQ」のオープニングみたいなナンバーもあったり、かなり才気走っていたこの頃。ビキニ姿で〈青い果実〉を囓りながら何を見ていたの?


今週末はカーニヴァルで3連休!!
77年作『Muitos Carnavais...』(Philips)

ビートルズにどっぷりハマって『Let It Be』のジャケをパロったり、かと思えばナイジェリアに渡ったのが引き金となり(?)、リオ郊外のゲットーで起こったファンク・ムーヴメントにも傾倒。でも、やっぱりカーニヴァル好きやねん!と毎年律儀にカーニヴァル・ソングもリリース。これはそのシングルを集めたものだ。


バイーアに里帰りしてリフレッシュ!!
79年作『Cinema Transcendental』(Philips)

長年の映画監督への夢があきらめきれず……ってわけではないだろうけど、シネマライクな楽曲がズラリと並ぶのがこちら。シンプルながら味のある音を出しているバンド、オウトラ・バンダ・ダ・テーハには現在NY在住のソングライター、ヴィニシウス・カントゥアリアもドラマーとして在籍していた。




NY出張その1 〜弾き語り編
86年作『Caetano Veloso』(Nonesuch)

公演先でのNYでフラリと録音した(ほぼ)弾き語りアルバム。マイケル・ジャクソンの“Billie Jean”やビートルズ“Elenor Rigby”のメドレーなどをボッサ・アレンジで気ままに歌い綴ったスッピンぶりがリアル。ちなみに、この時のコーディネーター兼通訳として彼を空港まで迎えに行ったのはアート・リンゼイ。


NY出張その2 〜バンド編
89年作『Estrangeiro』(Philips)

↑の出会いをキッカケにすっかりアミーゴになったアート絡みで、アンビシャス・ラヴァーズのプロデュースによる今作をリリース。当時、頭角を現してきた打楽器奏者カルリーニョス・ブラウンの参加も特筆。ディスコ・ラップにリンガラ風レゲエに……と多くのロック・ファンがこのパラドキシカルな迷路の中で立ち尽くすことに。


南米周遊の旅。粋な男はラテンがお好き
94年作『Fina Estampa』(Philips)

邦題は〈粋な男〉。レパートリーはラテンの名曲で固められているが、それが単なる懐メロ趣味の道楽でないことは、チェロ奏者、ジャキス・モレレンバウムの豊潤&鋭利なアレンジが物語っている。以降、オリジナル・アルバム→ライヴ盤というお馴染みのリリース・サイクルが定着し、幾多の謎解きに付き合うハメに。


読書週間。ためになる本をたくさん読む
97年作『Livro』(Mercury)

アフロ・バイーアのパーカッションがドカドカ鳴りまくり、その上をギターとストリングスがどこまでも優雅にメロディーの輪郭を描いていく。ドラムンベース(しかも人力!)もサンバも室内楽もすべて同一線上、というか丸呑みしてしまう尽きない食欲から生まれたカエターノ新時代のマスターピース。


イタリアでフェリー二に捧げたライヴ、プライスレス
99年作『Omaggio A Federico E Giulietta』(Mercury)

97年10月にイタリアのサンマリノで行った、憧れのフェデリコ・フェリーニとジュリエッタ・マシーナに捧げたトリビュート・コンサートの模様を収録したライヴ盤。大好きなミュージカル・ナンバーなどを極上のスマイルで歌う姿が目に浮かぶ。ジャケットに使われているのはカエターノが86年に初めて監督した映画「O Cinema Farado」からのワンカット。


息子の友達が大勢遊びに来る
2000年作『Noites Do Norte』(Mercury)

映画「オルフェ」のサントラを手掛けたカエターノは、ラッパーを交えたカーニヴァル・ソングを作り周囲をアッと言わせたが、本作もその延長線上にあるかのようなクロい仕上がり。ジョルジ・ベン“Zumbi”のカヴァーや、ブレイクビーツ感覚たっぷりのドラムの音などに立ちこめるのはストリートの猥雑な匂い。息子モレーノ、カシン、ドメニコほか新世代勢も奮闘。


To Be Continued...
2004年作『A Foreign Sound』(Emarcy/Nonesuch)

還暦を迎えてもいまだ衰えない創作意欲は、この英語カヴァー・アルバムにも言えること。ポール・アンカにスティーヴィー・ワンダー、DNA(“Detached”を寸分の狂いもなく完コピ!)にニルヴァーナ“Come As You Are”まで……って、そういえばこの人生ゲーム、ゴールはどこなの?


文/bounce編集部

GONTITI & 畠山美由起による、カエターノに関する(よもやま)トーク・セッションを敢行!!


コーネリアスやsaigenji、堀込高樹(キリンジ)ら自他共に認める12組のカエターノ・フリークたちが、お気に入りのカエターノ・ナンバーを1曲ずつ選んだ豪華な来日記念盤『Caetano Lovers』が登場! 今回は同コンピの選曲陣を代表して、近年のカエターノ・サウンドの鍵を握るジャキス・モレレンバウムとの交流も深いGONTITIの両名と、カエターノに負けず劣らず幅広い音楽活動を展開している畠山美由紀が気の向くままにカエターノ談義を敢行。プレイヤー/シンガー、男性/女性……いろんな視点から彼の魅力を探っていきましょう。さて、どんな話が飛び出すやら?

 チチ松村「カエターノって、すごく歌のうまい人だよね。やっぱり、声ばっかり聴いてしまうなぁ」

 畠山美由紀「また歳をとってからは、一段と艶やかで伸びやかで……」

 ゴンザレス三上「若い頃は思考が先行している感じ。最新作『A Foreign Sound』でも、ストリングスから激しい曲までいろいろやってるじゃないですか。でも、若い時は屈折の仕方がもっと激しいから、一筋縄ではいかない感じがおもしろいですよね」

 松村「僕たちが知っているカエターノって一部分でね。昔からすごく前衛的なこともやっているし、その全部を聴いている人なら、また違った見え方がするんでしょうね」

 畠山「でも作品がいっぱいありすぎて、全部聴くのは大変!」
カエターノ・ヴェローゾのスペシャル・コンピ『Caetano Lovers』(ユニバーサル)。文中で登場した以外に、Ann Sally、大沢伸一らも選曲に参加!!

三上「〈粋な男〉(『Fina Estampa』の邦題)あたりから、わりと一般的にも聴かれやすくなったというか。声が前面に出てきて、歌のうまさに気付いたっていう人は多いでしょうね」

 畠山「あのキーの感じとかも不思議なんだよなぁ。けっこう内省的な、〈絶対にヒットしないだろうな〉っていう曲も好きで。ヒップホップとはまた違うけど、そういう新しいことにチャレンジする姿勢にもグッときますね」

 松村「カエターノは新しモノ好きやからね。いろんなことに色気を示す人ですから」

 三上「で、人とは違う、ちょっと変わった解釈でやってみる。顔は若い頃よりいまのほうがいいかなぁ。昔はイマイチ掴みきれないというか……」

 松村「映画にもよう出とるし。〈トーク・トゥ・ハー〉とか〈フリーダ・カーロ〉とか」

 畠山「映画好きなんですよね」

 松村「うん、フェリーニに捧げるライヴもやってるし。すごいジャケットあるよね、海パンで股間を大写し!みたいな」

 畠山「(笑)そういうの、いっぱいありますよねぇ。国外退去みたいになったり。ヘヴィーな体験してるんですよ、絶対」

 三上「あの当時のブラジルはメチャクチャだったみたいですよね。ハワイのハーブ・オータさんの話によると、楽器を税関で全部没収されたらしいんです。それで、お金を払ったら〈じゃあ、演奏中だけ貸してやろう〉みたいな」

 松村「そんな荒れた政治情勢のなかで、こんな豊かな音楽をできるのが不思議ですよね。犬でも雑種は強いと言われてますけど、ブラジルはいろんな人種の人たちが集まっているわけで。だからこそ、おもしろい音楽が生まれるというのはありますよね」

 三上「今回のコンピで僕らが選んだのは、彼がジョアン・ジルベルトにインスパイアされてカヴァーした“Na Baixa Do Sapateiro”。ジョアンとカエターノの両方を楽しんでもらおうかなと思って。それと作曲者のアリ・バホーゾを含めると3世代に跨がった曲なんです」

 畠山「なるほど〜。私は“So In Love”を選びました。彼にいちばん共感できるのは、自国以外の曲もどんどん歌うところ。〈なぜ英語の歌を唄うの?〉ってよく言われるんですね。理由はいろいろあるけど、そうやってどんどん進化していきたいんです」

 松村「やっぱりそこですよね、うん」

 GONTITI
ゴンザレス三上(写真・右)とチチ松村(写真・左)によるインストゥルメンタル・アコースティック・ギター・デュオ。TVCMや映画など、さまざまなシーンで愛される美しいメロディーの数々は〈地球一番快適音楽〉と評される。ジャケは、ジャキス・モレレンバウムも参加した2004年作『XO』(Leafage/ポニーキャニオン)



 畠山美由紀
Port of NotesやDouble Famousのヴォーカリストとして活躍する傍ら、2001年よりソロでも活動開始。その圧倒的な存在感のある歌声が話題となり、他アーティストの作品へのゲスト参加も数多い。ジャケは、2003年リリースの最新オリジナル・アルバム『WILD AND GENTLE』(chordiary/東芝EMI)

文/中安 亜都子

カエターノ・ヴェローゾが語る〈声〉と〈歌〉の幸福な関係とは?


いまやブラジル音楽の枠を超えて、世界レヴェルのアーティストとして君臨するカエターノ・ヴェローゾ。その超越した音楽性や、迷宮のような歌詞の世界について語られることが多いが、やはりカエターノの魅力は麗しの歌声にある。はじめに歌ありき。音楽の〈基本の基〉ともいえる〈歌う〉ということについて、彼はどのような考えを持っているのだろう。

  「歌うこと? 何よりもまず楽しい。僕は好きだ。歌うことによって自分のなかのいろいろなことを解決できるし、自分と世界との関係も解決できる。そして楽しい。自分がたったひとつの曲しか知らなくて、それをまあまあ歌えたら、僕はそれでいい気分だ。歌うことは本当の喜びを与えてくれる」。

 なんともシンプルで、かつ奥深いコメントだ。稀代の美声ともいえる彼の歌声は、ある瞬間ゾクゾクするような妖しさも湛えているが、同時にポジティヴなエネルギーも感じさせる。さらには夕暮れの涼風のような繊細な味わいもあり、その魅力は多面的だ。美声だがそれだけじゃない、彼の音楽の濃度や、アーティストとしての磁力が反映された歌声なのだ。

 ところで、〈声は最高の楽器〉とはよく言われることだが、彼は声についてどんな考えを持っているのだろうか。
〈声〉をテーマにしたカエターノ・ヴェローゾのベスト・アルバム『Caetano Sings』(ユニバーサル)

「人間の声というのは、人が存在するという事実が持つさまざまな局面のなかでも、いちばん興味深いものだよね。なぜなら、この局面はほとんど非物質的で、しかもその人の人間性をもっとも強く表す範囲だからだ。声によって人間は、人を人とする言葉、言語を創造した。声はそれに直接関わるものだから、声を楽器として使った時に、それが最高の楽器になるのだろう。だから誰かが上手に歌えば、その人の存在の強さや深みが現れる瞬間もある」。

 う〜〜ん、なんとも哲学的な言葉だが、よく考えると言っていることはとてもシンプル。〈言葉の魔術師〉といわれるカエターノだが、言葉のトリックに陥らずに納得の真実がきちんと語られる。歌うことや声についてこんな明晰な認識があるから、彼の音楽は超越したものでありながらも聴き手にストレートに響くのかもしれない。

 さて、8年ぶりの来日公演も決まり、いちファンとしてはライヴを目の当たりにするのが待ち遠しいところ。これで3度目の来日を果たすことになるが、ここで過去の来日公演を振り返ってみよう。まず、初来日は90年。前年に『Estrangeiro』をリリースし、タイトル曲を含めてアルバムから全曲が演奏された。レコーディングにも参加しているカルリーニョス・ブラウンがメンバーとして同行、オープニングはカルリーニョス作曲の“Meia-Lua Inteira”で口火を切った。彼のキレのいいパーカッションが地鳴りのように鳴り響き、そこに千変万化の万華鏡のように拡がるカエターノ・ワールド。その片鱗に触れることができたのが、忘れがたい。

 2回目は97年。チェリスト/アレンジャーのジャキス・モレレンバウムのプロデュースによる『Fina Estampa』のナンバーを中心にしたこの時のライヴは、ジャキスのチェロと流麗なストリングスをバックに、クラシックな香り豊かなラテン・スタンダードを披露。髪をオールバックに撫で付け、ヴェルヴェットのスーツ姿も艶やかなカエターノは、さながらラテンの伊達男。ラテンの名曲のあいだに“Haiti”“O Leaozinho”といった彼自身のスタンダードも歌い、自身の音楽地図を鮮やかに描いてみせた。そして、来るべき3度目の来日について彼はこう話す。

  「プログラムは完全に最新アルバム『A Foreign Sound』のライヴというわけではない。日本へはもう何年も行っていないので、他の曲もたくさん歌いたいと思っているんだ」。

 カエターノ、現在62歳。その衰えない創造のエネルギーの源は?との問いに対しては、自信に満ちた答えが返ってきた。

  「衰えないエネルギーの源? さぁ……。僕は、75歳でも世界最高の歌手だったフランク・シナトラを聴いて育った。コール・ポーターがミュージカル〈キス・ミー・ケイト〉の音楽を書き下ろしたのが67歳の時だ。これは、彼の生涯最高の作品と言ってもいい。当時、彼らはいまの僕よりも年上だったにもかかわらず、人生でもっとも素晴らしい曲を書いている。僕はそういう人々の音楽に親しんできた。だから僕が例外だとは思わない。僕はまだ生きているし、ミック・ジャガーは生きている。ボブ・ディラン、ジルベルト・ジルは生きているし、ミルトン・ナシメント、シコ・ブアルキは生きているけど、ジョン・レノンは死んだ、と思うだけだ」。

 あっぱれカエターノ。彼はこれから最高潮を迎える。
▼文中に登場するアーティストをの作品を紹介。
カルリーニョス・ブラウンの2003年作『E Carlito Marron』(BMG Spain)
フランク・シナトラのベスト・アルバム『My Way The Best Of Frank Sinatra』(Reprise)

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