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第12回 ─ 永遠のウィルソン・ピケット


掲載: 2006/03/02

ソース:『bounce』誌 273号(2006/2/25)

またひとり、あまりにも偉大なソウル・シンガーが天に召された……

文/林 剛



〈ナァ〜ナナナナ〜、ナナナ、ナァナナナナナナ〜、ナナナナ〜♪〉……誰もが一度は耳にしたことがあるこのフレーズ。そう、〈ダンス天国〉の邦題で知られる“Land Of 1000 Dances”の一節だ。歌うはウィルソン・ピケット。ファッツ・ドミノも作者として名を連ねるクリス・ケナーのオリジナルを激情迸る豪快な歌唱でオレ流に歌い倒し、みずからの十八番にしてしまった男。言葉に濁点をつけるように歌い叫び、汗臭く男臭いソウル・シンガーのイメージを広く世間に伝えたのがこの人、この曲だったと言っていい。サム・クックやオーティス・レディングらと並び称され、〈Wicked(悪戯っぽくて実力がある)〉の愛称でも親しまれたソウル・ミュージックの巨匠。であると同時にピケットは、後にも先にも類を見ない唯一無二の存在だった。映画「ソウル・サヴァイヴァー」のなかで近年の彼はこのように話している。

  「(俺の歌唱は)誰にもマネできない……大声だけじゃダメなんだ。ジェイムズ・ブラウンとオレとでは歌い方が違うんだ」──無遠慮とも言える〈オレ様〉な言動……それがロック方面のリスナーたちからも共感を得た理由なのかもしれない。だが、そんな豪傑も今年1月19日、心臓発作で天に召された。64歳だった。

 ウィルソン・ピケットは41年、アラバマ州プラットヴィル生まれ。10代半ば頃にデトロイトへ移住し、いくつかのグループを経て、60年頃にはエディ・フロイドやサー・マック・ライスらがいたファルコンズに加入。62年にヒットした“I Found A Love”はピケットの野放図なまでの激唱が響き渡る名曲として知られている(バック演奏はオハイオ・プレイヤーズの前身バンド)。その後ファルコンズを脱退したピケットは、62年からソロで再出発。ロイド・プライスが主宰するダブル・Lから数曲のヒットを飛ばすが、快進撃が始まるのは64年、アトランティックに入社してからのこと。65年の“In The Midnight Hour”を皮切りに、“634-5789”や前述の“Land Of 1000 Dances”“Mustang Sally”“Funky Broadway”……と、スタックスやマッスル・ショールズなどのミュージシャンを起用しながら激しく歌い暴れ、無骨に愛を語れば、他人のヒット曲を次々とオレ流に変えてもいった。70年代に入るとギャンブル&ハフの元でフィラデルフィア録音も経験。ふたたびマッスル・ショールズに赴いて録音した“Don't Knock My Love”も久々にR&Bチャート1位となるなど、黄金時代は72年にアトランティックを離脱するまで続いた。なお、ガーナでの音楽祭を記録した映画「ソウル・トゥ・ソウル/魂の詩」では、その頃のピケットの勇姿を観ることができる。

 RCA移籍以降、80年代後半までは、自主レーベルのウィキッド、EMI、モータウンなどを渡り歩いたピケット。聴くべき曲も少なくないが、それでもアトランティック時代に比べればヒットは激減した。そんなピケットが10年近くの眠りから覚め、映画「ブルース・ブラザーズ 2000」への出演に続いてリリースしたのが、結果的に生前最後のアルバムとなった『It's Harder Now』(99年)だった。先に挙げた映画「ソウル・サヴァイヴァー」での発言は、実はちょうどこのアルバム制作中のもの。自信満々に〈第2の黄金期が始まるぜ!〉とでも言いたげな表情に、その7年後他界してしまうなどと誰が予測したであろう。実際、身体を患う2004年末までは精力的にツアーをこなしていたとも聞く。まさにソウル・サヴァイヴァー。強い者だけが生き残れる世界でピケットは生き続けた。〈まだ死んじゃいないぜ!〉――亡くなった今もそんな声がどこからか聞こえてきそうだ。ウィルソン・ピケットのソウルを葬り去ることなんて、到底できやしない。
▼ピケットの勇姿が拝めるDVDを紹介。
「ソウル・サヴァイヴァー」(ポニーキャニオン)
「ソウル・トゥ・ソウル/魂の詩」(ワーナー・ホーム・ビデオ)
「ブルース・ブラザーズ 2000 コレクターズ・エディション」(ソニー・ピクチャーズ)


文/林 剛

ESSENTIALS 
永遠に熱い名盤たち



『If You Need Me : Early Years』 Acrobat  アトランティックとの契約以前、ロイド・プライス主宰のダブル・Lからリリースしていた62〜63年頃の楽曲を集めた初期録音集。R&Bチャート7位となった“It's Too Late”やソロモン・バークも歌った表題曲などのシングル・ヒットが収録されている。この頃はまだ〈バラードを歌うソウル・シンガー〉といったイメージが強く、バック演奏もおとなしいが、ピケットの歌は十分にディープでハードだ。



 

『In The Midnight Hour』 Atlantic(1966) 出世作となった表題曲を含むアトランティックからのファースト・アルバム。ドン・コヴェイと共作した“I'm Gonna Cry(Cry Baby)”やタミ・リンの客演曲“Come Home Baby”も素晴らしいが、表題曲などを共作したスティーヴ・クロッパーらスタックスのミュージシャンを従えて録音したメンフィス・ソウル曲が圧巻だ。まさにオーティス・レディングの好敵手。真夜中にこんな激唱されたら飛び起きますけど。



 

『The Sound Of Wilson Pickett』 Atlantic(1967) 前年の“Land Of 1000 Dances”に続いてR&Bチャート1位をマークした傑作ダンス・チューン“Funky Broadway”(ダイク&ザ・ブレイザーズのカヴァー)も収めた4作目。マッスル・ショールズでの録音作でグルーヴィーなサザン・ソウル曲が続出、コテコテに歌い倒す。盟友ボビー・ウォマックが3曲を提供したほか、ファルコンズ時代の名曲“I Found A Love”の再演やラスカルズのカヴァーも収録。



 

『I'm In Love』 Atlantic(1968) ダンスづいていたピケットがソウル・バラードに重点を置いて作ったアルバムがこれ。表題曲や“Jealous Love”など4曲がこれまたボビー・ウォマックの作で、ギターも演奏しているとあってボビー色はかなり強い。一方では恩人のロイド・プライスやドン・コヴェイの曲を取り上げ、サム・クック“Bring It On Home To Me”のカヴァーにも挑戦。ブルージーな激唱で男の哀愁を語るピケットにまんまと泣かされる。



 

『Wilson Pickett In Philadelphia 』 Atlantic(1970) ギャンブル&ハフ制作のもとシグマ・サウンド・スタジオで録音した〈フィリー詣で〉盤。演奏/アレンジは(後の)MFSBの面々で、都会的なフィリー・サウンドをバックにピケットのエネルギッシュな歌声が炸裂する。ジャジーな“Don't Let The Green Grass Fool You”やブルージー&ファンキーな“Engine Number 9”などのヒット曲を収録。野蛮さに洗練を加えたようなソウルネスが渦巻く快作だ。



 

『It's Harder Now』 Bullseye/Rounder(1999) およそ10年のブランクを経て発表した最終オリジナル・アルバム。ロック畑で著名なギタリストのジョン・ティヴェンを中心に〈ブルーアイド〉な面々がオール人力演奏したこれは、全盛期のピケットをイメージしながら彼をネクスト・ステップへと導く意欲作となった。ピケットのギラついた歌唱も健在で、とりわけダン・ペンがソングライトに関与したソウル賛歌“Soul Survivor”は痛快極まりない。

文/出嶌 孝次

ソウル・リイシューは今年も豊作!!

 新しい年を迎えようと、過去に残された音源の素晴らしさはそこに在り続ける……とか気取ったところで、今月も定番から激レア音源までリイシュー作品を紹介しよう。最初はサム・クックを3タイトル。まず、ベスト盤『The Best Of Sam Cooke』は“You Send Me”のようなド定番からオリジナル・アルバム未収録の名曲“Bring It On Home To Me”(上掲のピケットも歌った)までを収めた便利なスタンダード集。続く『One Night Stand! Live At The Harlem Square Club』は、黒人の観衆を前にレコードとはまったく異なる荒々しい歌声を披露した63年録音のライヴ盤で、〈黒すぎる〉との理由で85年まで世に出なかった音楽史上屈指の伝説盤! 残る『Night Beat』もゴスペルやブルースをスマートに昇華した逸品だ。なお、以前紹介したアル・グリーンのファースト・アルバム『Back Up Train』もこのたび日本盤化された。お次はレアもので、マニア垂涎のシングル3枚を70年代に残して消えた謎のシンガー=ダロンドーの音源をまとめた『Let My People Go』がラヴン・ヘイトから登場。昨年のコンピ『Giles Peterson Digs America』で脚光を浴びた人だが、ブルージーでジャズやラテンの要素をまぶした音楽性はお洒落アイテム扱い禁止!! 最後はこれまたレアなヴォーカル・グループ、ステージ・コーチの『Playing Games』。80年代ファンクが並ぶなかに激甘なバラードが挿入された、甘党にオススメのお宝盤ですよ。
サム・クックのベスト盤『The Best Of Sam Cooke』(RCA/BMG JAPAN)
サム・クックのライヴ盤『One Night Stand! Live At The Harlem Square Club』(RCA/BMG JAPAN)
サム・クックの63年作『Night Beat』(RCA/BMG JAPAN)


アル・グリーンの68年作『Back Up Train』(Hot Line/Arista/BMG JAPAN)
ダロンドーの編集盤『Let My People Go』(Luv N' Haight/Ubiquity/HOSTESS)
ステージ・コーチの84年作『Playing Games』(United Sound/DIZZARE)

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Tracked on 2006年10月30日 17時11分

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