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第52回 ─ ローパドープ


掲載: 2006/06/01

ソース:『bounce』誌 276号(2006/5/25)

ミュージック・シーンをリードしてきた〈人種のるつぼ〉は、いまも音楽のメルティング・ポットだ! NYを拠点に、オルタナティヴ(?)なジャズ……だけじゃないさまざまな音楽を発信しているレーベル、それがローパドープ。歴史はまだまだ浅いものの、すでに確固たる支持を得ているこの信頼すべきブランドの歩みを、豊富に取り揃えられた名作の数々と共に振り返ってみよう!!

文/大石 始、佐藤 英輔、出嶌 孝次



 何をもってそう呼ぶのかはさておき、リアルなものとそうでないものの区別ははっきりさせよう。アンディ・ハーウィッツによって99年に設立されたローパドープは、リアル・ミュージックを世に問い続けるNYのインディペンデント・ジャズ・レーベル(とあえて呼ぶ)だ。そもそもは大メジャーのコロムビアでマルサリス兄弟などのA&Rを担当していたアンディが、メジャーから拒否されたDJロジックの作品を世に出すために設立したレーベルであり、折しもジャム・バンドのムーヴメントが一気に成長した時期の船出だった。

 レーベルの第1弾作品として『Project Logic』でデビューしたロジックを看板とし、ジョン・メデスキー(メデスキー・マーティン&ウッド)が設立に助力していたこともあって当初はジャム・バンド専科的な色合いも濃かったが、フィラデルフィア・エクスペリメントやセックス・モブ、移籍組のダーティ・ダズン・ブラス・バンドやチャーリー・ハンターなど、所属アーティストのヴァラエティーは年を追うごとにどんどん拡大。現在ではメデスキーを中心としたセイクリッド・スティール作品などで広義のアメリカン・ルーツ・ミュージックを掘り下げつつ、〈ジャズ〉からの越境を恐れないことでジャズ・レーベルとしての信頼度も上げている。

 なお、アンディはかの〈ニッティング・ファクトリー〉のスタッフだったこともあるという。NYの真ん中で進取の〈ジャズ〉を鳴らした場に育まれた彼のセンスはいまも健在なのだ。(出嶌孝次)



DJ LOGIC
『The Anomaly』
(2001)

 〈NY地下自由音楽シーンの主任DJ〉てな感もあるワザ師、ロジックのセカンド・アルバム。プロジェクト・ロジックという5人組自己バンドによるライヴ的な演奏に加え、豪華ゲスト陣とのセッションも。ターンテーブルが刺激的な飛び道具であると同時に、見事な接着剤や溶解剤であることも示している。(佐藤)


THE PHILADELPHIA EXPERIMENT
『The Philadelphia Experiment』
(2001)

 アンディ・ハーウィッツの出身地でもあるフィリーの実験ジャズ・トリオ。ルーツのクエストラヴ、当時は若手出世株だったクリスチャン・マクブライド、重鎮のユリ・ケインが集まり、カタリストにサン・ラーという地縁を重視したカヴァーも披露しつつ、個々の成分を巧みに融和させた名盤!(出嶌)


THE WORD
『The Word』
(2001)

 メデスキー・マーティン&ウッドのジョン・メデスキーを首謀者に、ノース・ミシシッピ・オールスターズやロバート・ランドルフを迎えて制作されたゴスペル作品。中心を担うのは、普段にも増してソウルフルな匂いを放つメデスキーのオルガンとランドルフの熱いスティール・ギター。ゴスペルデリックなジャムが強烈!!(大石)


KING BRITT
『The Philadelphia Experiment Remixed』
(2002)

 同郷のキング・ブリットが総監督を務めたフィラデルフィア・エクスペリメントのリミックス集。オバ・ファンケ名義も併用したキング自身、ランディ・ワトソン・エクスペリエンス(クエストラヴ&ジェイムズ・ポイザー)やヴィクター・デュプレーらの仕事ぶりが想像以上に多彩で楽しめます。(出嶌)


SCRATCH
『The Embodiment Of Instrumentation』
(2002)

 ローパドープのフィリー・アプローチ第2弾となったのが、ルーツの口芸人として名を馳せたスクラッチによる今作。主役のアクロバティックなヒューマン・ビートボックスをメインに、同郷のジル・スコットやビラルらがそのノドを聴かせる。生音にこだわった音作りがこのレーベルらしいね。(大石)


THE YOHIMBE BROTHERS
『Front End Lifter』
(2002)

 NYダウンタウン界隈での活動も盛んなヴァーノン・リード(元リヴィング・カラー)とDJロジックが組んだアヴァンギャルドなブラック・ロック盤。ヴァーノンのメタリックなギターが舞えば、ロジックもキレキレのスクラッチで応戦。その凄まじさにはプリンス・ポールとスリック・リックの参加も霞むほどだ。(大石)


VARIOUS ARTISTS
『None But The Righteous : The Master Of Sacred Steel』
(2002)

 別掲のワードから発展した形として、ジョン・メデスキーの選曲で出されたセイクリッド・スティールもののコンピ。3曲が取り上げられたキャンベル・ブラザーズを筆頭に、ゴスペルのイメージをガラリと変えるロッキッシュなギター・ジャムが展開されている。(大石)


CHARLIE HUNTER QUINTET
『Right Now Move』
(2003)

 ギターとベースの音をいっしょに出す変則8弦ギター(ローランド・カーク奏法とオルガン・ジャズ音から導き出したもの)の使い手、チャーリー・ハンターのブルー・ノートから移籍しての10枚目。自己トリオにトロンボーンとハーモニカ奏者を加えた編成で、やんわりと酔狂さを求めた一作だ。妙なクールネスもあり。(佐藤)




THE DETROIT EXPERIMENT
『The Detroit Experiment』
 Planet-E/Ropeadope(2003)

 〈Experiment〉企画の第2弾。仕切り役のカール・クレイグが、トライブの首領=マーカス・ベルグレイヴからアンプ・フィドラーまで、演奏力を主眼に参加メンツを束ね、デトロイトの〈ジャズ〉史を一本に繋いだ意義深い作品。いつか〈NYエクスペリメント〉も聴きたいね。(出嶌)


MIKE GORDON
『Inside In』
(2003)

 フィッシュのベーシスト、マイク・ゴードンのソロ。「Outside Out」という自身の映画用のいろんな人が関与した楽曲を、再度みずからが自在に構築したアルバム。ゆったりしているのにファンキーで、どことなく浮世離れしたイイ感じの佇まいが浮上してくる。淡々とカッ飛んだ、もうひとつの、合衆国のボーダレス音楽。(佐藤)


SEX MOB
『Dime Grind Palace』
(2003)

 広角型ペット奏者、スティーヴン・バーンスタイン(ラウンジ・リザーズからフィータスまで)の諧謔バンド(それは何より名前に出ている)の5作目。ノスタルジックな軸と現代的な軸が自在に交錯し、批評的でもあるヒップな騙し絵的表現。それは真っ当なカッ飛びジャズ流儀を持つからこその産物なのだ。(佐藤)


SKERIK'S SYNCOPATED TAINT SEPTET
『Skerik's Syncopated Taint Septet』
(2003)

 ポンガなどの異端バンドに参加しながら、数々の客演でインプロヴァイズド・ミュージックの異才として活躍するサックス奏者、スケリック。彼が率いる7人組での本作は、ジャズ、ニューオーリンズ、ヒップホップなどをシニカルに混ぜ合わせた、前代未聞のチャンプルー音楽集だ。(大石)


ANTIBALAS
『Who Is This America?』
(2004)

 フェラ・クティが生み出したアフロビート表現の醍醐味と精神性を、いまのNYという環境のなかで仁王立ちさせようとする大所帯バンド。これは、ニンジャ・チューンから移籍しての通算3作目。ブラス音やビート、そして英語での肉声が、アメリカという枠を打ち破ろうと痛快に跳ねる。(佐藤)


CRITTERS BUGGIN
『Stampede』
(2004)

 一時期はジャム・バンド系のプレイヤーが多数住んでいたシアトルから世に出た(現在は各人が各地に離れて居住)、マット・チェンバレンやスケリックらによるオールスター的な4人組だ。ポスト・プロダクションにも凝った、胸騒ぎ感覚と妙なストーリー性たっぷりのインスト曲が詰まっている。(佐藤)


THE DIRTY DOZEN BRASS BAND
『Funeral For A Friend』
(2004)

 ジョン・メデスキーやDJロジックと過去の作品で絡んだ縁か、ニューオーリンズが誇る名バンドの今作もローパドープからのリリース。伝統と革新の融合をフレッシュに提示している。そういう意味で実にこのレーベルらしいアルバムだとも思える、21世紀流のニューオーリンズ・ファンク作品だ。(大石)




TIN HAT TRIO
『Book Of Silk』
(2004)

 ギター、アコーディオン、ヴァイオリンによって緊張感漲るチェンバー・ミュージックを構築するトリオの4作目にして傑作。ジーナ・パーキンスらも参加し、息を呑む静謐感とコミカルなムードが奇妙に交差する。後を引く聴き心地は、過去作で共演したトム・ウェイツにも通じるもの。(大石)


BENEVENTO/RUSSO DUO
『Best Reason To Buy The Sun』
(2005)

 マイク・ゴードンといっしょにツアーして本国で知名度を得た、NY基盤のキーボーディストとドラマーのデュオ。NY地下ジャズ・ファンクとシカゴ系ポスト・ロック、ジャム・バンド的喧騒感覚の巧みな掛け合わせ。本作の制作はベックのサポートでも知られるジョーイ・ワロンカー。
(佐藤)


THE CAMPBELL BROTHERS
『Can You Feel It?』
(2005)

 セイクリッド・スティールに心酔するジョン・メデスキーが、ワードの再現とばかりにプロデュースを担当。ロバート・ランドルフの師匠筋にあたるヴェテラン・バンドをジャム・バンド文脈からディレクションした格好となる本作では、濃厚でありながらも多彩な新世代のゴスペル世界が演出されている。(大石)


SISTER GERTRUDE MORGAN
『King Britt Presents Sister Gertrude Morgan』
(2005)

 ニューオーリンズの女性伝導師が69年に録った歌とタンバリンだけのロウな音源を、キング・ブリットがポリリズミックに再構築。黒い昂揚感を備えた絶唱がヴードゥーの泥にまみれたアシッド・ロックに乗って響き渡る。G・ラヴのブルース・ハープも印象的なゴスペル再発見盤です。(出嶌)


BOBBY PREVITTE
『The Coalition Of The Willing』
(2006)

 作曲や編曲もイケるNYボーダレス音楽界の敏腕ドラマー、ボビー・プレヴィットのローパドープ移籍作。参加者はNYダウンタウン系とジャム・バンド系の選抜群で、プレヴィットは彼らを巧みに配置しながら、他に類を見ない、サイケな〈私の考えるジャズ・ロック〉盤を創出している。これはお見事!(佐藤)


CHARLIE HUNTER TRIO
『Copperopolis』
(2006)

 いまやローパドープを代表する存在となった8弦ギターの魔術師。ハモンド・オルガンのような音色を奏でながらベース・パートも鳴らす大道芸的プレイが売りのテクニシャンだが、2004年の『Friends Seen And Unseen』に続くこの最新作はグッとロック寄りに。持ち味であるグルーヴィーなプレイが前面に出た充実作。(大石)


CHRISTIAN McBRIDE
『Live At Tonic』
 Ropeadope/Pヴァイン(2006)

 俊英ベーシストによる、NYのクラブにおけるライヴの模様を収めた3枚組。注目はゲスト陣で、チャーリー・ハンターやDJロジック、スクラッチといったローパドープ勢や、エリック・クラズノー(ソウライヴ)らが参加。現在の同レーベルを象徴するファットなジャズ・ファンク盤だ。(大石)


文/松永誠一郎

待望のニュー・アルバムをリリースするDJロジック

 DJロジックの通算3枚目となる待望の新作『Zen Of Logic』が、前作『The Anomary』から実に5年のブランクを経て届けられた。当の本人は「単に忙しかったんだ」と話す。

  「新しいアイデアを集め、いろんなアーティストと共演してインスピレーションを得たり、ソロ・アルバムに向けてサウンドを研究していたんだ」。

  その5年の間に、ロジックはジャンルやカテゴリーを超えた知名度を得ている。例えば、ジョン・メイヤーとセッションして意気投合し、彼の全米ツアーに誘われた際には、メイヤー+マルーン5+DJロジックのジョイントも実現した。また、〈ボナルー・ミュージック・フェスティヴァル〉ではジャック・ジョンソンと共演。元リヴィング・カラーのヴァーノン・リードとはサイド・プロジェクトとなるヨヒンベ・ブラザーズを結成した。他にもカール・デンソン、ソウライヴ、デイヴ・マシューズ・バンド、クリス・ホイットリー、ウォレス・ルーニー、クリスチャン・マクブライド、さらに日本ではKANKAWAが自身のグループに招くなど、その共演歴は錚々たるものだ。

  「みんなは、異なるテクスチャーや異なるヴァイブを求めて俺をバンドに誘うんだよ。通常、サウンドには失われた要素があって、彼らは俺にそれを埋めてほしいと思っているんだ」。

 スクラッチだけでなく、空間メイキングに長けているのが彼の強味。スクラッチとエフェクトで効果的に隙間を埋めるのだ。このたびの『Zen Of Logic』にはジョン・メデスキー、チャーリー・ハンター、ディアントニ・パークス、メルヴィン・ギブス、いまNYで注目されているタブラ奏者のスファーラなど、NYローカルの仲間たちが参加。サウンドは、ARPやモーグなどヴィンテージのキーボードが1曲ごとに使い分けられているのが興味深い。

  「ヴィンテージ・キーボードを使うというのは俺のアイデアだ。サウンドにオーガニックさが欲しかったんだよ」。

 楽曲ごとにテクスチャーを変えながら、ヒップホップ、ジャズ、ポエトリー・リーディング、アフロビート、さらにはタブラやウード(アラブ楽器)も聴こえる西洋を突き抜けたサウンドなど、さまざまな要素が重層的に展開される『Zen Of Logic』に注目だ。
6月2日にリリースされるDJロジックのニュー・アルバム『Zen Of Logic』(Ropeadope/Pヴァイン)

文/出嶌 孝次

dj klockがローパドープからUSデビュー決定!!

 いきなり「ローパドープの作品は聴いたことがありませんでした」と語るのはdj klock。しかしながら、そんな彼にローパドープが全米リリースをオファーしてきたのだというから……何というか実にローパドープらしい。klock自身も「音的にはあまり接点がないと感じていたので、最初は意外でした」と話してくれたが、ローパドープはこれまでにも(レーベル・カラーに準じているとはにわかに言い難い)ジャザノヴァやジャネイロ・ジャレルをライセンスしてUSリリースしてきたという実績がある。klockの場合は、彼が最初のUSツアーで訪れたブルックリンでのプレイをライヴ録音したミックステープ『direction of rainbow』(2004年)を聴いたレーベル側からコンタクトがあったそうだ。

  「『rainbow ep』をちょうど作っている時だったので、その音を送ったら凄く気に入ってくれて、次のアルバムをリリースしようということになったんです」。

 その〈次のアルバム〉こそ、〈虹三部作〉後のファースト・ステップとなるこのたびのニュー・アルバム『san』である。ローパドープが自身の音を気に入ったポイントを、klock自身は「自分のDJや曲の〈演奏的〉なところだと思います」と分析するが、実際に『san』ではピアノやフルートなど生楽器のパーツとの柔らかな共存ぶりが印象的だ。この後にはDJロジックとのツアーも検討されている彼のUSでの奮闘を、日本では一足早く聴ける『san』を味わいながら楽しみに待つとしよう。
dj klockのニュー・アルバム『san』(clockwise)。ローパドープからのUS盤は9月予定!

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