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第53回 ─ ファニア


掲載: 2006/06/29

ソース:『bounce』誌 277号(2006/6/25)

時は70年代。グツグツ煮えたぎっていたラテン音楽にいろんな材料をバンバン投げ込んで、とびきりアツく仕上げた音楽がサルサ。それを語るのに欠かせないレーベルがファニアである。若いスターが名を連ね、活力に満ち溢れたファニアは当時のNYラテン社会を象徴していたのだ。いまこそその熱気を感じてほしい!

文/中野 タイジ



 64年にNYで設立されたファニアは、サルサの最大かつ最強のレーベル。ってことはポピュラー音楽界全体から見た最重要ラテン・レーベルでもあるってこと。ソウルにはモータウン、ジャズにはブルー・ノートがあるように、ファニアの歴史はサルサの歴史。

 歴史を紐解けば、50年代の空前のマンボ・ブームで世界的にポピュラー化したラテン音楽が、59年のキューバ革命でキューバとの国交が絶たれて以降、アメリカにほとんど入ってこなくなったのをきっかけに、NYはスパニッシュ・ハーレムあたりの中南米出身のミュージシャンが〈ならば!〉と自分たちでデスカルガ(ジャム・セッション)を繰り広げ、ロック、ソウル、ジャズを呑み込みながら行き着いた先が〈究極のミクスチャー・ラテン〉=サルサだったってわけ。何を隠そう、サルサってのはスペイン語で〈ソース/混ぜる〉って意味ですから! その混じり具合は大変なモンです。

 ジェイムズ・ブラウンらブラック・パワーによる〈ソウル to ファンク〉の流れが当時高まりつつあった公民権運動を背景にしているのと同じく、70年代のファニアの隆盛にはラテン系移民たちの社会進出への動きとの相互関係があった点も見逃せない。そういった民族的昂揚をバックに、ファニアは若手の大胆な起用や、数々のライヴを映画化(今回DVDボックスという形でリイシュー!! 詳しくは別項)するなどの複合的なプロモーション戦略を敷くことで、ストリートからオーヴァーグラウンドに至るまでの幅広い層からの支持を同時に獲得して、単なるレコード・レーベルの枠を越えた優秀なラテン系企業へと成長していった。こんなことも、ファニアがなぜ他のラテン系レーベルを差し置いて〈サルサ〉というネクスト・ステップを生み出し、その熱を全世界規模に押し広げていけたのかを物語っている。

 そんなファニアがアメリカ音楽界におけるラテン市場をほぼ独占していた黄金期の代表作が、多数リイシューされた。あらゆる世代/層に訴えかけ得るポテンシャル満載!なわけです。このページの〈匂い〉が気になったJB好き、ソウルやハウスが好きっていう君! 間違ってないぜ!!

文/中野 タイジ、南條 レオ

ラテンの誇りと情熱を刻み込んだ名作群 その1


JOE CUBA 『Bang! Bang! Push, Push, Push』(1966)
定番ソング“El Pito”の作曲者としても有名な彼の、超ゴキゲンなブーガルー・アルバム! 頻繁に登場するハンド・クラップや、暑苦しいホーンの代わりに使われているヴィブラフォンが最高に心地良い。有名曲“Bang Bang”で、さぁみんなもいっしょにピピッ! アァ〜!
(南條)



FANIA ALL STARS 『Live At Cheetah Vol.1』(1971)
サルサという音楽が爆発する瞬間を捉えた歴史的ドキュメント。サルサの代名詞、ファニア・オール・スターズはここから始まった! この熱気、この昂揚感。すべてのライヴ盤の頂点に君臨する一枚。ちなみにDVD「Our Latin Thing」はこのライヴの映画版!
(中野)



WILLIE COLON & RUBEN BLADES 『Siembra』(1978)
偉大な2人のスターによる大・大名盤にして、サルサ史上最大のヒット作。〈Siembra=種蒔き〉というタイトルどおり、後のミュージシャンに与えた影響も計り知れない、すべてが名曲というとんでもないアルバム。サルサという枠だけで語るのはもったいない。
(中野)



PETE RODRIGUEZ 『I Like It Like That』(1966)
アレグレ(後にファニアに買収された)を代表するピアニストの一人である彼が残した傑作ブーガルー・アルバム。タイトル曲以外すべてスペイン語だったりすることや、哀愁を帯びたコード進行あたりに、まさに誕生寸前のサルサの色が見え隠れしている一枚!
(南條)



EDDIE PALMIERI 『Vamonos Pa'l Monte』(1971)
昨年は来日公演も行った、いまも活躍中のラテン・ピアノの第一人者の名作。ラテン好きには超定番の“Re-volt/La Libertad Logico”のトゲのあるアレンジは彼ならでは。天才ピアニストでありながら、“Caminando”などでの絶妙なオルガンが〈奇才〉と言われる所以か?
(南條)



LARRY HARLOW 『Yo Soy Latino』(1982)
ブルックリン生まれのユダヤ人でありながらキューバに音楽留学していた経歴を持つ、ファニアきってのピアニスト/アレンジャー。フリー・ソウルの文脈でも語れそうな今作は、リカルド・マレーロあたりと並べて聴くとおもしろい。いま聴くべきサルサ。
(中野)



WILLIE COLON 『El Malo』(1967)
ラテン界きっての大スターである彼が、17歳にして完成させたデビュー作にして大傑作。トロンボーンという楽器の利点を活かした彼独自の重心の低いサウンドは、当時大流行していたブーガルー系の楽曲との相性も◎なだけに、ロック・ファンにこそ聴いてほしい!
(中野)



LOUIE RAMIREZ 『Ali Baba』(1972)
〈ラテンの名盤〉と呼ばれるアルバムを選べばかなりの確率で顔を出す、マルチ・プレイヤー兼アレンジャーによる大傑作パーティー・アルバム。多くのカヴァーを生んだ“Cachita”、ブーガルー版〈ダンス天国〉の“I Dig Rhythm”以外にもずらりと名曲が並ぶ。捨て曲なしの大推薦盤。
(中野)

文/中野 タイジ、南條 レオ

ラテンの誇りと情熱を刻み込んだ名作群 その2


RUBEN BLADES 『Bohemio Y Poeta』
後に故郷のパナマで政党の党首にまで登り詰めたインテリの、初期の代表曲を集めたベスト盤。彼のテナー・ヴォイスこそサルサが持つ〈人間臭さ〉の極みか。ベストということで、彼の作曲家としての稀有な才能も堪能できる一枚。男も惚れる男とは、こんな男です。
(中野)



RAY BARRETTO 『Acid』(1967)
先日逝去した大巨匠。これは〈ハード・ハンズ〉という異名のとおり、ハードコアなブーガルー“Soul Drummers”“Acid”などのフロア・キラー満載で若い世代にも知られる名盤。ファニアのコンガ奏者といえば、やはりこの人。晩年のラテン・ジャズ作品も素晴らしい。
(中野)



ROBERTO ROENA 『Y Su Apollo Sounds』(1973)
コルティーホ〜ファニア・オール・スターズのボンゴ&カウベル奏者(元はダンサーだった彼の最高にイカしたダンスはDVDでチェック!)が組んだ自身のバンドでの作品。“Ponte Duro”はファニア・オール・スターズの名演でも有名! 白熱のボンゴ・ソロを聴け!
(南條)



JOE BATAAN 『Riot!』(1968)
〈サルソウルのドン〉として知られる彼も、実はファニア出身! これはデビューから3作目で、あの甘〜いハスキー・ヴォイスはすでに健在だが、サルソウル時代に比べてラテン色が濃いサウンドはファニアならでは。ソウル・ファンにはお馴染みの“Ordinary Guy”の別テイクも収録!
(南條)



ISMAEL MIRANDA 『Asi Se Compone Un Son』(1973)
15歳でラリー・ハーロウ楽団に入って以降、エクトル・ラボーと並びファニアの看板歌手を張り続け、〈美少年〉と呼ばれたイスマエル・ミランダ初のリーダー作。かっちりした演奏とハイトーン・ヴォイスは、プエルトリカンの生んだNYサルサの一つの頂点。
(中野)



LEBRON BROTHERS 『Salsa Y Control』(1970)
〈ラテン版ジャクソン5〉とも言われる、元祖ニューヨリカンのレブロン5兄弟による最大のヒット作。ドゥワップやリズム&ブルースの影響が随所に見られる本作は、まさにサイケデリック・ラテン。エコーの具合が時代の空気をビンビンに感じさせる。
(中野)



HECTOR LAVOE 『Comedia』(1978)
不世出の天才ヴォーカリストにして〈もっとも愛された男〉の、NYサルサを極めた奇跡の一枚。甥であるルイ・ヴェガのネタ使いで有名な“Tiempos Pasados”や、不朽の名曲“El Cantante”などでの洗練を尽くしたアレンジが美しい。前作『De Ti Depende』と共に、外せない金字塔。
(中野)

文/南條 レオ

サルサの神髄は視覚でも味わうべし!!

 ファニア・オール・スターズ栄光の歴史を収めた4枚組DVDボックスがついに登場! 内容は、71年にマンハッタンの小さなクラブ、チーターで行われ、後に〈サルサ誕生の瞬間〉と言われた伝説のライヴを映像化した「Our Latin Thing」。そのわずか2年後の73年、サルサ・ブーム真っ只中に4万人を集めたNYヤンキー・スタジアムでの熱狂のライヴに加え、それまでのアメリカにおけるラテン文化がわかる貴重な映像も散りばめられたドキュメンタリー「Salsa The Film」。そして、74年にザイールはキンシャサで行われたモハメド・アリの世界タイトルマッチ記念イヴェントに、ジェイムズ・ブラウンと共にアメリカ代表として出演し、みずからの音楽的ルーツでもあるアフリカの人々(8万人)を徐々に興奮の坩堝に巻き込んでいく様が最高にイカしてる、その名も「Live In Africa」。そして最後に、94年の再結成ライヴの模様を収めた「Live In Puerto Rico」。

 まさに集大成と言える内容だが、注目すべき点は再結成ライヴ以外はすべてリアルタイムで発表されたものだということ。まだプロモ・クリップなどが世の中に広まる前から、ファニアは音楽を伝える手段として映像を採り入れていたってことなんですな。
DVDボックス「The Complete Fania All Stars Movie Collection」(Vampisoul)

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