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掲載: 2006/07/06
ソース:『bounce』誌 0号(//) |
さまざまな音楽ジャンルを丁寧に教えてくれる誌上講座が開講! 皆さん、急いでご着席ください!!
文/田中 幹也 I ソフト・ロックの成り立ちと特徴
流麗なコーラスやオシャレなアレンジなど、曖昧なイメージが先行しがちな〈ソフト・ロック〉という音楽をきちんと定義するとなると、これがかなり難しい。そもそも〈ソフト・ロック〉という言葉自体は日本で生まれたもので、欧米では〈サンシャイン・ポップ〉〈ソフト・ポップ〉などと呼ばれているが、いずれにせよこのカテゴライズは極めて感覚的なものだ。本講では〈60年代中〜後半のUSを中心に隆盛したスタジオ・ワークに特化したポップスの総称〉といささか強引に定義することで、話を進めていきたいと思う。
当時のUSポピュラー音楽界は、フィル・スペクターやビートルズによる実験精神に富んだ音作りや、バート・バカラックの洗練されたサウンドがヒットを飛ばすという新時代に突入していた。そして、それらに触発されるように気鋭プロデューサーはこぞってスタジオに籠もり、ドゥワップやサーフ・ロック、フォーク・ロックなど、それまで流行っていた音楽に野心的なアレンジを施したのだ。その結果生まれた甘美で優雅な進化型ポップスを、私たちは〈ソフト・ロック〉と呼んでいるわけである。カート・ベッチャー(ミレニウム)やロジャー・ニコルズ、ワーナーのレニー・ワロンカーといった優秀なプロデューサーの下で数多くのバンドが成功し、ソフト・ロックの代名詞的なレーベル=A&Mは、ジャズやボサノヴァ、ソウル・シーンとも共鳴しながら良質な作品を多数送り出すことで躍進していった。このように、ソフト・ロックは世界各地に飛び火して60年代末まで発展を続けるのだが、70年代に突入するとロックの多様化の波によってその勢力は次第に衰退していくのである。 |
II それでは実際に聴いてみよう!
HARPERS BIZARRE 『Feelin' Groovy』 Warner Bros.(1967)
日本で初めて〈ソフト・ロック〉という言葉が使われたのは、本作の帯にある〈ソフト・ロックの王者〉というフレーズだった。レニー・ワロンカーによる指揮のもと、ヴァン・ダイク・パークスやランディ・ニューマンが腕を振るった〈バーバンク・サウンド〉の名品だ。
ROGER NICHOLS & THE SMALL CIRCLE OF FRIENDS 『Roger Nichols & the Small Circle of Friends』 A&M(1967)
これぞソフト・ロックのバイブル! 超名曲“Love So Fine”に、ビートルズやキャロル・キングの洒脱なカヴァーなど、〈渋谷系〉の原型とも取れるサウンドがこれでもかと詰まっている。
SERGIO MENDES & BRASIL '66 『Fool On The Hill』 A&M(1968)
ソフト・ロックの発展にはブラジル音楽も欠かせない。その最大の功労者がセルジオ・メンデスだ。ビートルズやサイモン&ガーファンクルの楽曲をA&M印の優雅なサウンドに乗せてカヴァーし、ブラジル音楽との相性の良さを体現してみせた。
THE FREE DESIGN 『Kites Are Fun』 Light In The Attic(1967)
デビュー作ながら、流麗な男女コーラスに気品溢れる緻密なアレンジなど、世間がソフト・ロックに対して抱くイメージにもっとも近いサウンドが溢れ、驚異のクォリティーで展開されている。プロデュースはイージー・リスニング界の奇才、イノック・ライト。
THE MILLENNIUM 『Begin』 Columbia(1968)
数ある60'sポップ作品の中でもサウンドの革新性においてはNo.1! 風通し抜群なメロディーの素晴らしさもさることながら、何と言っても中心人物のカート・ベッチャーが8トラック・レコーダー2台を駆使して作り上げたドリーミーにして斬新な音響世界が衝撃的だ。
HERB ALPERT & THE TIJUANA BRASS 『Herb Alpert's Ninth』 A&M/Shout! Factory(1967)
A&Mの創始者でもあるトランペット奏者、ハーブ・アルパートがビートルズやロジャー・ニコルズのカヴァーに挑んだ後期の作品。ジャズとポップスの橋渡し役として彼がソフト・ロック界に与えた影響は絶大。 |
THE ASSOCIATION 『Birthday』 Warner Bros.(1968)
数々のヒット曲を放ったソフト・ロックの代名詞的なバンドが、4作目にして辿り着いた音楽的頂点の記録。ため息が出るほど美しいハーモニーとポップなメロディー、そしてボーンズ・ハウのプロデュースによる夢見心地サウンドには誰もが心奪われるに違いない。
SALT WATER TAFFY 『Finders Keepers』 Buddha(1968)
大人気のタイトル曲をはじめ、ポップに弾けるメロディーをバブルガム風やソウル風、サイケ風など、多彩な味付けで楽しませてくれる愉快な一枚。洗練された中にも無邪気さが見え隠れする本作には、〈サンシャイン・ポップ〉という言葉がよく似合う。
THE FOUR KING COUSINS 『Introducing...』 Capitol/El(1968)
ジャケットからしてキマっている女性コーラスものの逸品。定番であるビートルズやバート・バカラックのカヴァーはもちろん、ビーチ・ボーイズの“God Only Knows”やロジャー・ニコルズまでを麗しいハーモニーで聴かせてくれるのだからたまらない。
THE BEACH BOYS 『Friends』 Capitol(1968)
ロック史に燦然と輝く名盤『Pet Sounds』の2年後に発表された本作は、ブライアン・ウィルソン主導の徹底したサウンド主義から脱却した、ビーチ・ボーイズ史上もっともソフト・ロック的な魅力溢れる一枚に仕上がっている。リラックスした浮遊感が実に心地良い。
THE MUTUAL UNDERSTANDING 『In Wonderland』 Nimbus 9(1968)
2005年に初CD化されたカナダ産ソフト・ロックの激レア盤にして、〈超〉がつくほどの秀作。洗練を極めたゴージャスなサウンドや美しすぎるハーモニーなど、ここまで理想的なソフト・ロック像を体現しているグループもそうはいない。全員必聴!
THE 5TH DIMENSION 『The Magic Garden』 Buddha/Sony BMG(1968)
〈ソウルmeetsソフト・ロック〉の代表的なアルバムがこれ。ジミー・ウェッブが全面的に制作に関与した本作は、華麗なストリングスの中で弾けるポップなメロディーとスウィートなソウル・フィーリングが絶妙に溶け合った魅惑の一枚だ。 |
III その後の流れと、現在の音楽シーンに見るソフト・ロックの影響力
不遇の70年代を過ごしたソフト・ロックだが、90年代に差し掛かると空前のブームが訪れる。それもここ日本でだ。別項で紹介されているロジャー・ニコルズの作品が世界で初めてCD化されたのをきっかけにソフト・ロック作品のCD化ブームが起こり(トラットリアがフリー・デザインの作品をリイシューしたりもした)、ほどなくしてピチカート・ファイヴやコーネリアスといった、いわゆる〈渋谷系〉のアーティストが大ブレイクを果たしたのである。彼らがソフト・ロックからの影響を公言し、そのサウンドを大々的に採り入れたことで、それらはハイセンスな音楽として一躍脚光を浴びたというわけだ。
その一方で、海外での再評価は遅れたが、それでもハイ・ラマズのようなバンドがソフト・ロックイズムを脈々と継承しているし、シカゴ音響派の鬼才、ジム・オルークも『Eureka』で同ジャンルの美しさを世に問うた。今年に入ってからも、元ジェリーフィッシュのロジャー・ジョセフ・マニングJrが徹底的にスタジオ・ワークにこだわった素晴らしいソロ・アルバムを発表するなど、ソフト・ロックの影響下にある作品を発見することはたやすい。また、昨年から良質な作品が相継いでリイシューされており、本格的なブーム再燃の予感がするのは気のせいだけではないはずだ。
▼ 関連盤を紹介。
| | ピチカート・ファイヴの94年作『オーヴァードーズ』(columbia*readymade) |
| | コーネリアスの94年作『FIRST QUESTION AWARD』(トラットリア) |
| | ジム・オルークの99年作『Eureka』(Drag City) |
| | ロジャー・ジョセフ・マニングJrの2006年作『Solid State Warrior』(Roger Joseph Manning Jr.) |
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