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第107回 ─ 冨田ラボが音の魔法をかけたライヴDVDで、〈あの一夜〉が甦る……


掲載: 2006/12/14

ソース:『bounce』誌 282号(2006/11/25)

文/桑原 シロー



 〈は〜、ありがたい〉と、ご来光を拝むような気持ちで、ステージに向かって手を合わせていた。あの夜、SHIBUYA-AXでの冨田ラボによる初ライヴのことだ。豪華を絵に描いたような顔ぶれによるたった1度きりのプレミアム・ライヴ、寿司詰め状態の会場で聴いた桃源郷的なサウンドはいまだに生々しく耳に残っているが、私はいま、ふたたび手を合わせている……その夜のライヴの模様を収めたDVD「Tomita Lab Concert」がリリースされたからだ。

  「我ながら〈よくやったな〉って、いまは客観的になってて。なんかやり逃げの感覚に近いよね。いや、べつに逃げてないけど(笑)」と冨田は笑う。ライヴは今年3月に行われたが、ミックス・ダウン作業開始は8月――彼は、ライヴ会場の空気をパッケージしただけの単なる記録作品を作ることを避けた。

  「音場の作り方もスタジオ・レコーディングっぽくなってるかも。演奏のディテールが楽しめるもの、そしてステージ上で僕が感じていたこと、聴こえていた音を再現しようって意識だったんだよね」。
冨田ラボのDVD「Tomita Lab Concert」(ソニー)

 ライヴ録音とは思えないほどのハイクォリティーなサウンドが素晴らしい。アルバムで聴かせるあの完璧な音のパノラマがここでも展開されているのだ。そして、彼の朴訥としたMCもおもしろい。演奏のスゴさとの落差に、会場からは笑いが起こったほど。

  「何が初めてってMCが初だからね(笑)。でも緊張とかはなくて、わりと普段どおりにしゃべってましたよ。いつもスタジオで〈とりあえず終わったけど1回聴いてみて〉ってしゃべってるテンションと同じだ、って金原(千恵子)さんに言われたけど(笑)」。

 まぁ、彼がハイタッチしている光景なぞ、想像できないわけだが……。で、さらにおもしろかったのは、彼のMCを聞いていると、会場がまるで彼の部屋のように見えてきたこと。このライヴは、彼が好きなレコードをとっかえひっかえしている場なのではないか、と想像を膨らませたりしたのだった。しかしながら、演奏中も彼の息がまったく上がらなかったのが不思議で……。

  「そもそもあんまり汗をかかないけどね(笑)。あ、それでもかいてたほうだけど。すごく盛り上がってたんですよ、ギター激しく弾いて。でも15秒ぐらいで息が整う。そういえば僕、あんまり息切れしている人のライヴは観に行かないかも。死ぬほどのソロを弾き終えた後、ぼそりと〈サンキュー〉って言って次の曲を始めるような人のが多いかな(笑)」。

 訊けば彼自身、ライヴ体験が極端に少ないということだ。

  「時間の使い方としてライヴに行くっていう考えがなくて。それより演奏するほう、宅録するほうが好きでさ。でも若い頃、良いライヴを観た後とかは悔しかったな。アイデアが沸いてきて、自分でやりたくなってしょうがなかった。それがもどかしいからライヴへ行かない時期もあった」。

  「でもライヴをやるのは好きなんだ」と彼は念を押した。このDVDはそんな素晴らしいパフォーマンスを拝見するソフトでもあるけれど、さまざまな要素のなかから浮かび上がってくるのは、彼のコンポーザーとしての稀有な才能である。本作は〈冨田恵一ソングブック〉でもあるのだ。完成された、時の移り変わりに耐え得る強いメロディーをこの先もずっと作り続けてくれるはず……TV画面を見つめながら冨田ラボの未来を考えて、ふと自然に〈ありがとう〉という言葉が口をついて出た。そしてまた、彼の顔に向かってすぐに手を合わせたのでした。
▼冨田ラボの作品。
2003年作『Shipbuilding』(東芝EMI)
2006年作『Shiplaunching』(ソニー)


文/編集部

「Tomita Lab Concert」に馳せ参じた、腕利きのプレイヤーを紹介!!

 ステージ第2部のスタートを告げる“Blue II”で聴かせるスリルとユーモアを織り交ぜたセッションが象徴するように、ジャズをこよなく愛する冨田恵一が率いるバンドは、プレイヤーだって超豪華! まずバンドの屋台骨でもあるベースの鈴木正人は、UAをはじめゲスト陣も多彩な初ソロ作でも話題を集めています。また、冨田ラボの音世界を華やかに彩るストリングスを率いる金原千恵子はクラブ・シーンでの支持も厚く、自身の作品ではヴァイオリンとダンス・ミュージックを高い次元で融合させたサウンドが印象的です。さらに、ソリッド・ブラスのリーダーとしても知られるトロンボーン奏者で、アレンジャーとしても活躍している村田陽一も参加! 最新作では、アントニオ・カルロス・ジョビンから自身が在籍していたJAGATARAまで、振り幅の広い楽曲のカヴァーを披露しています。
鈴木正人の2006年作『UNFIXED MUSIC』(intoxicate)
金原千恵子の2006年作『STRINGS OF LIFE』(GRAND GALL-ERY)
村田陽一の2003年作『ABSOLUTE TIMES』(ビクター)

文/編集部

一夜限りのライヴを彩った、日本屈指のヴォーカリストたちを紹介!!

 曲間でオーディエンスがどよめいたら、それはゲスト・ヴォーカリストがステージに登場した合図――ここではライヴに登場したヴォーカリストたちをご紹介。まずは“耐え難くも甘い季節”で大らかな歌声を聴かせる畠山美由紀。続いてベスト盤を発表したばかりのCHEMISTRYは、“ずっと読みかけの夏”を清涼感溢れるハーモニーで歌い上げます。また、冨田ラボとは初の合体となる武田カオリ(Tica)は、“しあわせのBlue”“道”で原曲とは一味違った繊細なニュアンスを披露。さらに第1部のトリとして登場した高橋幸宏と大貫妙子の“プラシーボ・セシボン”では、滋味に溢れた洒脱なデュエットを堪能できます。続く第2部では、冒頭から実力派R&BデュオのSOULHEADがグルーヴィーな“Like A Queen”を歌いこなし、田中拡邦(MAMALAID RAG)にバトンタッチ。しっとりとした歌声に酔いしれていると、冨田恵一がプロデュースしたりと何かと縁の深いキリンジが登場。そして終盤を彩るのは、自慢のスキャットを聴かせるSaigenji、そしてm-floファミリーの一員として初のアルバムが待ち遠しいRyohei、さらにアンコールではハナレグミ……と、この文字数では語り尽くせない豪華メンツなのです!
畠山美由紀の2006年作『リフレクション』(rhythm zone)
CHEMISTRYのベスト盤『ALL THE BEST』(DefSTAR)
Ticaの2004年作『MINING FOR GOLD』(intoxicate)
高橋幸宏の2006年作『BLUE MOON BLUE』(東芝EMI)


大貫妙子の2005年作『One Fine Day』(BMG JAPAN)
12月6日にリリースされるSOULHEADのニュー・シングル“キミノキセキ/いつまでも…”(ソニー)
MAMALAID RAGの2006年作『MAMALAID RAG 2』(ソニー)
キリンジの2006年作『DODECAGON』(コロムビア)


Saigenjiの2006年作『Music Eater』(東芝EMI)
Ryoheiの最新シングル“you said...”(rhythm zone)

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