 |

掲載: 2007/06/28
ソース:『bounce』誌 288号(2007/6/25) |
文/河野 貴仁、出嶌 孝次
盛岡にある一軒のレコード・ショップ――そこに〈ブラック・カルチャー好き〉が集まり、Jazzy Sportが生まれた。Jazzy Sportとはミュージシャンやダンサー、デザイナー、ライターなどから成るクルーの総称であり、またレーベルやフットサル・チームの名称でもある。
筆者が知る限り、その活動が広く認知されるようになったのは2003年、宇田川町に2号店がオープンしてからで、それから同クルーは都内を中心に頻繁にパーティーを開いたり、海外アクトと積極的に交流したり、GAGLEやgrooveman Spot、cro-magnon、raythoughtら所属アーティストが次々に意欲作を放ったり、目覚ましい発展を遂げると共にJazzy Sport=〈信頼のブランド〉というイメージを固めていった。クルーの代表的存在であるMasaya Fantasista(Breakthrough/Tettroy BLK)以下が持つ、ブラック・ミュージック全般に対する愛。その愛を絶対的な価値として規定したうえで、彼らはそこに咲く創造性をグルーヴに転化し、どんどん世に送り出しているのだ。そういう信条と行為がストイックであるがゆえ、黒く洗練されたその音楽性に多くの人が魅了されているのだろう。 (河野貴仁) |
MAHYA とろけるほど心地良い、スウィートでメロウな名作が到着!!
R&B的な邦楽が盛んに登場してきていた2000年にデビューを果たし、2002年の名作『また、さようなら』を最後に活動を終了したSOUL LOVERS。途中からソロ・プロジェクトとなった同ユニットでヴォーカリストを務めたMAHYA。その後は故郷の北海道に居を移してマイペースな活動を送り、出産も経験。音盤上ではDJ Mitsu the BeatsやGAGLE、grooveman Spotといった友人たちの作品におけるわずかな客演で酔わせてくれるのみだったのだが、今回登場したMAHYAとしてのファースト・アルバム『INNER EXPLOSION』で、ようやくその歌唱に思う存分触れることができる。
| | MAHYAのファースト・アルバム『INNER EXPLOSION』(PLANETGROOVE) |
彼女はコブシを回したり、饒舌なフェイクを聴かせたり、不用意に炸裂したりしない。ただ、楽曲に立ちこめた濃密な空気に乗るだけである。だから、彼女の歌は胸を撃ち抜いたりはしないで、身体中をゆっくり浸してくるのだ。とりわけ、甘いものが口先で溶けているような“Love Birds”や“Essense Of Love”でのウィスパリング歌唱には、身も心もとろけてしまう。表題どおりの“Good Vibes”、2000ブラック風のコズミックな“Nobody Like Me”などドープで幻想的なトラックの大半を醸造したのはMasaya Fantasistaとgrooveman Spotのコンビ=Tettroy BLK。他にもMitsu the Beatsやマーク・ド・クライヴロウが参加しているが、そのすべてが心地良くて恐れ入った。大仰に美辞麗句を並べ立てるのが恥ずかしくなるような、そっと慈しむように愛聴したい作品だ。 (出嶌孝次)
 | | SOUL LOVERSの2002年作『また、さようなら』(RE-WIND) |
| |
| | grooveman Spot a.k.a. DJ KOU-Gの2006年作『ETERNAL DEVELOPMENT』(PLANETGROOVE) |
| | マーク・ド・クライヴロウの2004年作『Tide's Arising』(ABB) |
|
GAGLE またしても最高傑作を作り上げた、若き匠たち
Jazzy Sportの根幹を支えるグループと言っていいだろうGAGLE。メンバーはMCのHunger、その実兄でトラックメイカーのDJ Mitsu the Beats、スクラッチなどを担当するDJ Mu-Rという3人で、基本的にライヴ時はHungerを中心に、Mitsu the BeatsがサイドMCを、Mu-RがバックDJを受け持つ。〈仙台から世界にPR〉する彼らがこのたび完成させた3枚目のフル・アルバム『3 PEAT』でも、Mitsu the Beatsがジャジーに躍動するビートを制作し、そこにヒップホップ濃度をグンと高めるMu-Rのスクラッチが挿入され、さらにHungerの独特な〈滑舌ラップ〉が展開される……という構図は変わらない。とはいえ、メンバー各人が諸々のリミックス・ワーク/客演仕事/ミックステープ制作などを経て格段にスキルアップし、そうして磨かれた個性が三位一体にシンクロした結果、今作は〈キャリア最高傑作〉と呼ぶべき出来映えになった。なかでもHungerのラップは、自問自答を繰り返すなかで言葉遊びの域を軽やかに超越し、情緒豊かなものへと進化。その様子は作中に詰め込まれたリリックの至るところで、ハッキリ聴いて取れる。そのように今作は〈黒フェッショナル〉な3人の素晴らしきチームプレイの結晶に違いない。が、一方で彼ら自身がリスペクトしているのであろう外部アーティストのパワーも取り込んでおり、grooveman Spotに有坂美香(Reggae Disco Rockers)、COMA-CHIらJazzy Sportの同胞から、DABO〜MUMMY-D〜三宅洋平(犬式)などまで、多彩なメンツが全力で好演(後援)を果たし、この傑作を華やかに彩っている。新鋭プロデューサー集団のSUPER SMOKY SOULが制作した黒い霧を発散するような“スパイダイサクセン”のトラックも、今作の妖しくヴィヴィッドなアクセントだ。 (河野貴仁)
| | GAGLEのニュー・アルバム『3 PEAT』(コロムビア) |
| | GAGLEの2005年作『BIG BANG THEORY』(コロムビア) |
| | DABOの2007年作『DABO Presents B.M.W. Vol1 -BABY MARIO WORLD-』(BABY MARIO/東芝EMI) |
 | | 犬式の2005年作『Life is Beatful』(provincia) |
| |
| | SUPER SMOKY SOULの2007年作『CYCLING』(CIRCULATIONS) |
|
cro-magnon 官能のコズミック・フュージョン
かつてLoop Junktionのメンバーとして活動した3人が結成した、コズミックでファンタスティックな風合いのインストゥルメンタルを紡ぐフュージョン・グループ、cro-magnon。〈ジャイルズ・ピーターソンのお墨付き〉という惹句が現在どれほど有効かは知らないが、とにかく彼らが昨年のデビュー・アルバム『cro-magnon』で描いた〈黒光りする三角比〉は国境を越えて支持されたのだ。それから約1年、ここに2枚目のアルバム『Great Triangle』が完成した。先ほどその音像を〈コズミックでファンタスティック〉と表現したけど、もちろんその言葉だけでは不十分で、このトリオはヒップホップ/ジャズ/ソウル/ファンク/ハウスなどアーバン・ミュージック全般の旨味成分が濃縮されたグルーヴを煌びやかに叩き出してくる。ツンツンツンと禁欲的なビート・アプローチで心のヒダをじれったく刺激したかと思えば、ズンズンドコドコ!とスパークする野性的なビート感で、聴き手のハートをムンズとワシ掴み。まるで〈三浅一深〉のような、媚薬にまみれた生々しいリズム感覚で、聴き手を官能の高みへと連れていくのだ。また、タブゾンビ&元晴(SOIL & “PIMP”SESSIONS)や盟友の有坂美香らゲスト陣のパフォーマンスは、主役の3人が繰り出すダンサブルなグルーヴをより強固にするだけでなく、より広い耳に訴求できる華やかなポピュラリティーをそのサウンドスケープに与えている。とにかく、これも必聴盤だ。 (河野貴仁)
| | cro-magnonのニュー・アルバム『Great Triangle』(ラストラム) |
| | cro-magnonの2006年作『cro-magnon』(SWINGMAN/NMNL) |
| | SOIL &“PIMP”SESSIONSの2007年作『PIMPOINT』(ビクター) |
|
GAGLE & JAZZY SPORT TOP TEAM 『Pound for Pound』 コロムビア(2006) Jazzy Sport渋谷店の3周年を記念して編まれたコンピ。道楽で音楽をやってるんじゃない!という意気込みのもと、〈ジャジスポ・オールスターズ〉と言えるメンツ+αが、モサモサと生い茂った漆黒のグルーヴを披露する。これもマスト! (河野)
Reggae Disco Rockers 『MELODIES』 flower(2007) 本頁で紹介している諸作から、YOYO-CやHOME GROWNといったレゲエ勢、MAKAIやJazztronikなどのハウス系まで、多方面から引っ張りだこの有坂美香。彼女が在籍するRDRのこの最新作でも光彩と陰影に富んだ歌声が無性に快い。ソロ作も待ち遠しいのだが……。 (出嶌)
COMA-CHI 『DAY BEFORE BLUE』 Da. Me.Records(2006) 昨年の和製ヒップホップを代表するこの傑作で〈期待の女傑〉という評価を定着させたMC。最近になってJazzy Sport入りを果たした彼女は、GAGLEの新作にも登場したばかり。自主レーベルの24区や、TARO SOULと組んだユニットでの活動も楽しみだ。 (出嶌)
raythought 『raythought』 KSR(2006) Jazzy Sportの縁の下の力持ち的な存在だったraythoughtだけど、同クルーの主要メンバーがワンサカ集まったこのデビュー盤によって、ラッパーとしての株価は急上昇。ガッシリした体躯から繰り出される黒帯級の美技フロウに、どんなリスナーもイチコロだ! (河野)
RICH MEDINA 『Connecting The Dots』 Kindred Spirits/Jazzy Sport(2006) カウント・ベースDなど、海外作品のリリースも積極的に手掛けるJazzy Sportだが、フィリーのマルチ詩人が送り出した今作もそのひとつ。蒙昧感の強いメロウなソウル世界はクルーの流儀そのまんま。日本盤にはTettroy BLKのリミックスを収録。 (出嶌)
SAMON KAWAMURA 『Translations』 Four(2007) これはJazzy Sportがディストリビューションを手掛ける作品で、ティル・ブレナーの『Blue Eyed Soul』(2002年)をプロデュースしていたトラックメイカーのファースト・アルバムだ。J・ディラの遺伝子を受け継ぐビート捌きと、独特のスモーキーな音像に頬が緩む。極上! (出嶌)
grooveman Spot a.k.a. DJ KOU-G 『Re:ETERNAL DEVELOPMENT [Silver Star]』 PLANETGROOVE(2007) ENBULLで活動する一方、ソロ・アーティストとしてのキャラも確立した彼のリミックス盤。特にcro-magnon製の“Rude Fantastic”がアトモスフェリックで良い。同発の〈Gold Star〉にも当然注目すべき。 (出嶌)
Breakthrough 『BREAKTHROUGH』 NeOSITE/キューン(2005) DJ JIN、DSK、Masaya Fantasistaの同名イヴェントから生まれた男闘呼組。PUSHIMにアンプ・フィドラー、RIP SLYME、アフロノートてな参加陣をひと繋がりに聴かせる術はこの3人ならでは。RHYMESTERを休止中のJINにはゴツいソロ作も期待したい。 (出嶌)
|
この記事を flogに追加
この記事をはてなブックマークに追加
|