 |

掲載: 2007/08/16
ソース:『bounce』誌 289号(2007/7/25) |
文/坂口 修一郎 環境音楽ブームを巻き起こした、風変わりな楽団の軌跡
ペンギン・カフェ・オーケストラとは、70〜80年代を通じて世界的に広く人気を博したミニマル・サロン・ミュージック・グループである。現在もTVCMなどに使われて高い人気を持つ彼らだが、このたびベスト盤とトリビュート盤が同時にリリースされることとなった。2000年代の耳で聴いてもなお刺激的なアイデアに満ちたこのグループは、70年代初頭にイギリスで結成、アンビエント(環境)音楽という概念を提唱して当時のリスナーに新鮮な衝撃を与えていたブライアン・イーノ主宰のレーベル、オブスキュアから76年にデビューを飾っている。その音楽は、ヴァイオリン、オーボエ、ヴィオラ、チェロ、ウクレレ、ホーンをはじめ、アコーディオンやハーモニウムなどといった、ユニークな楽器編成で奏でられるアコースティックなアンビエント/ミニマル・ミュージックであった。 現代音楽とリンクする要素を多分に持ちつつも決して難解ではなく、さまざまな民族音楽のエッセンスや、どこかユーモラスでイージーリスニングとしても十分機能するポップさを持つ不思議な音楽性。そんな彼らの音楽は、80年代に入ると環境音楽がブームになりつつあったこともあってTVCMやBGMとして使われるようになり、半人半ペンギンの独特なイメージと共に日本でも大きく注目を集めることとなる。そもそも中心人物であるサイモン・ジェフィーズは、かつて京都の竜安寺で修行しながら暮らしていた経験があり、活動の初期から日本との関わりは深かった。特に坂本龍一や矢野顕子とのコラボレーションは活発で、お互いの作品やライヴに参加し合い、共同で楽曲を制作するなど非常に親密な関係を築いていた。
そのサイモン・ジェフィーズが脳腫瘍のため48歳の若さでこの世を去り、グループが活動を停止してから早くも10年以上が経つ。しかし彼らが残した美しいアコースティック・サウンドと卓越したコンセプトは、現在でも後に続くアーティストに直接間接を問わず大きな影響を与え続けている。
| | 8月8日にリリースされる、ペンギン・カフェ・オーケストラのベスト盤『PENGUIN CAFE ORCHESTRA -best-』(333/commmons) |
| | アンビエント(環境)音楽を提唱したブライアン・イーノの75年作『Discreet Music』(Obscu-re/EG/Virgin) |
| | サイモン・ジェフィーズが参加した坂本龍一の84年作『音楽図鑑』(ミディ) |
|
文/坂口 修一郎 ペンギン楽団が軽やかに奏でる、快適な元祖カフェ・ミュージック盤
『Music From Penguin Cafe』 Obscure/EG/Virgin(1976) 記念すべきファースト・アルバム。冒頭曲“Penguin Cafe Sin-gle”は、サイモンが京都での修行中に居候していた友人宅で書かれたもの。録音中にメンバーの紹介でイーノと出会い、今作がリリースされることになった。
『Penguin Cafe Orchestra』 EG/Virgin(1982) さまざまな演奏活動や映画音楽への参加を経て発表された2作目。電話のプッシュ音をそのまま使った“Telephone And Rubber Band”など実験精神が随所に表れた快作で、この翌年の初来日公演では坂本龍一とのコラボも実現。
『Broadcasting From Home』 EG/Virgin(1984) 坂本龍一、矢野顕子とのコラボから生まれた楽曲のペンギン・カフェ版アレンジである“HEARTWIND(心風)”や、京都の道端で見つけた楽器=ハーモニウムで作曲された“Music For A Found Harmonium”などを収録。
『Signs Of Life』 EG/Virgin(1987) ロイヤル・バレエ団の公演でリアレンジした自作曲を演奏するなど、活動の域を広げるなかで発表された4作目。今作のハイライトはやはり、最近もコンピューター・メーカーのTVCMに使われて話題を呼んだ“Perpetuum Mobile”だろう。
『Union Cafe』 Zopf(1993) オリジナルとしては最後となる作品。ジョン・ケージに捧げた“Cage Dead”は彼の代表曲と同じ長さの4分33秒で、〈C・A・G・E〉の音階の中でピアノが〈D・E・A・D〉の音を弾くという順序と法則に則って作られた、非常にコンセプチュアルな曲。
『Concert Program』 Zopf(1995) 94年にロンドンで行われたコンサートを収録したライヴ・アルバム。観客の拍手などを一切カットしているため、さながら全曲新録のベスト・アルバムのような内容となっている。サイモン・ジェフィーズが亡くなる前の最後のプロデュース作品。 |
|  |  |
文/ダイサク・ジョビン トリビュート盤のプロデューサーが語る、ペンギン音楽の魅力
| | MOOSE HILLの2006年作『DESERT HOUSE』(TONE TONE) |
ベスト盤と同時リリースされるトリビュート盤『PENGUIN CAFE ORCHESTRA -tribute-』。自身も参加し、プロデュースを手掛けたのが、ボサノヴァ・デュオのnaomi&goroやサントラ制作などで活躍する伊藤ゴロー。昨年、MOOSE HILL名義でリリースしたソロ作『DESERT HOUSE』では、ペンギン・カフェ・オーケストラにも通じる弦楽器主体で映画音楽的な、アカデミックすぎずポップすぎずといった風通しのいい音楽を聴かせてくれた。 「全然意識はしてなかったけど、ペンギン・カフェの音楽にある〈何とも言えない何か〉――聴き込む感じでもない〈どっちつかずな感じ〉の影響はあるかもしれない」。
さて、トリビュート盤のきっかけは何だったのだろうか?
「ここ数年ひとりでやってるアーティストがたくさんいて、彼らの音楽を聴いているとペンギンに通じるものがあって。さらに教授をはじめ、当時彼らと交流があった人たちにもやってもらえたらスゴくおもしろいだろうな、ってずっと思ってた」。
| | 8月8日にリリースされる、ペンギン・カフェ・オーケストラのトリビュート盤『PENGUIN CAFE ORCHESTRA -tribute-』(333/commmons) |
数多くのペンギン・ファンのなかから「早い者勝ち」で決まったという今作の参加アーティストは、坂本龍一+高田漣、高橋幸宏、HAAS(a.k.a.高野寛)といった最近その活動に大きな注目が集まるHASYMO(Human Audio Sponge〜YMO。残念ながら細野晴臣はスケジュールの都合で不参加)周辺をはじめ、嶺川貴子、KAMA AINA、高木正勝など、独自のセンスを持つエレクトロニカ〜インスト・ミュージックを奏でる音楽家たち(全12組)で、どの楽曲も個性的で愛情溢れるカヴァーとなっている。また、「悩むのがイヤだったから発表年代順にした」という曲順ならびに収録曲は、ベスト盤もトリビュート盤もまったく同じという構成もおもしろい。最後に、現在も数多くのアーティストにインスピレーションを与え続けている彼らの魅力について、音楽家としての視点から語ってもらおう。
「名前やアートワークも含めてその存在自体にスゴく惹かれるっていうのがいちばんだけど、どの曲も個性的だからまさにアイデアの宝庫。日常にあるものを楽器として使っちゃうっていうアイデアにも勇気づけられるし、自分で何か見つけて自分で何かやればいいんだってところに立ち返ることもできる。無理に計算しなくても自分の音楽になる――それでいいんだって、いつも彼らの音楽を聴いて確認してるかな」。 |
|  |  |
この記事を flogに追加
この記事をはてなブックマークに追加
|