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第19回 ─ [特別講座]BRUCE SPRINGSTEEN AND THE E STREET BAND


掲載: 2007/10/25

ソース:『bounce』誌 292号(2007/10/25)

スプリングスティーンの新作に合わせて、今月は緊急補習を開講だ!

文/ダイサク・ジョビン

I ブルース・スプリングスティーン・アンド・ジ・Eストリート・バンドの特徴

 今日は危険なロックを君たちに伝授しよう。お題は〈ブルース・スプリングスティーンとEストリート・バンド〉だ。〈落ち着いちゃったヴェテランには興味ない〉だと? 確かに90年代のボスはフォーク作品ばかりを発表していたけど、ニュー・アルバム『Magic』は最高にロックしているんだよ。どうして今作がヤバイかというと、それは〈Eストリート・バンドとガッツリ組んだ作品〉だからなんだ。

 そもそもバンドのメンバーは、ニュージャージーのアズベリーパークという狭い街でウロウロしているチンピラだった。音楽しかやることがないわけ。要は遊び仲間なんだけど、そんな彼らの結束力はハンパじゃない。連中は移民の子孫で、人種の壁はなく、男も女もいる。非常に珍しいことなんだけど、重要なポイントだな。デビュー時にボスは条件として〈バック・バンドを地元の奴らにやらせるなら契約する〉って言ったんだ。仲間意識と郷土愛に溢れるスプリングスティーンらしいエピソードだろ? で、なぜ彼らが最強のバンドかというと、ボスの詞世界や歌をもっとも効果的に表現するにはどうすればいいかを考え抜いてアレンジしているからなんだ。各々がプレイヤビリティーを発揮してエゴを出すって発想じゃない。一個の塊であって、その大きさと凄まじさが……(熱血トークが30分以上続く)。

 気を取り直して、このバンドには特徴がある。キーボードが2人いて、サックスや女性コーラスもいて……そのとおり! ロック・バンドとしては異質の編成だ。でも、それでロックンロールをやっている。ドラムが真ん中にあってサックスと鍵盤を映えさせるのは、完全にリズム&ブルースだよな。彼らの音は〈パンク・ソウル〉と形容されることもある。50〜60年代の黒人音楽のスタイルを踏襲していて、でも当時そんな時代遅れなことは誰もやっていなかったからユニークなんだよ。結局は良き伝統主義者なわけだ。

 Eストリート・バンドと組んでないボスの作品は駄作が多い。良い曲もあるし、悪くはないんだけど……比べてしまうとね。やっぱりお金で一流のプレイヤーを集めても〈Magic〉は起こらない。深い友情や信頼関係があってこそ起こる〈Magic〉。それを実現できるのがEストリート・バンドなんだ。
ブルース・スプリングスティーンのニュー・アルバム『Magic』(Columbia/ソニー)


▼バンド・メンバーの作品を紹介。
パティ・スキャルファの2007年作『Play It As It Lays』(Columbia/ソニー)
クラレンス・クレモンズのライヴ盤『Live In Asbury Park Vol.II』(Valley)


II では、実際に聴いてみよう


『The Wild, The Innocent & The E Street Shuffle』 Columbia(1973)
デビュー作は〈第二のボブ・ディラン〉を作ろうとするレーベルの意向があって、ハンパな出来だったんだ。そのフラストレーションから生まれたのがこの2作目。Eストリート・バンドの原点だ。これを聴けば彼らがとんでもない音楽的素養を持っていたことが理解できると思う。ロックンロールの最高峰と言われているけど、誰にも似ていないカオスがすでに完成しているんだ。ジャズとかファンクとかソウルとかがゴチャ混ぜになっていて……ヒドすぎる。リスナーを無視した最高の作品だな。



『Born To Run』 Columbia(1975)
ロックンロールの超名盤みたいに言われてるけど、ロックンロール・ナンバーはあまりない。当時レコードは売れないけどライヴに定評のあった彼らが、ステージの熱をどう伝えようか悩んだ末に、映画を作るようにひとつの物語を練り上げていったんだ。青春の輝きをそのまま封じ込めた一枚。



『Darkness On The Edge Of Town』 Columbia(1978)
前作『Born To Run』と同じようなものを出せば一生食っていけるのに、ボスは暗くてヘヴィーなアルバムを作ったんだ。1曲ずつが独立した短編小説みたいになっていて、いわゆるスプリングスティーンのスタイルが完成された。物語を音で聴く、みたいな感じかな。



『The River』 Columbia(1980)
ダークな前作から一転、陽気なリズム&ブルースばかりを2枚組に詰め込んだ作品。しかも、スタジオ・ライヴっぽく録音したから、勢いの良さが凄いの何のって! ライヴとレコーディング作品は違うと気付いたボスが意識して作ったのが『Born To Run』なんだけど、一方でやっぱりライヴ・バンドとして愛されているわけだから、〈ならばリスニング用のもので、それをやってやろうじゃないか!〉と思ったんだろうね。リズムは走るわ、チューニングは合ってないわ、間違えるわ……でもメンバーはそんなことお構いナシ。ロックンロールはそういうことじゃないんだよ、ゴキゲンならいいじゃないか、と。アメリカでの評価も高いし、ファンの間でもコレをベストに挙げる人が非常に多い。バンドのキラキラ感がもっとも出ているアルバムだ。



『Born In The U.S.A.』 Columbia(1984)
映画的なストーリーにロックンロールという手法を使ってダイナミックなサウンドを作るという彼ららしい楽曲と、深刻な社会問題に真っ向から挑んだ詞をギュッと1曲に封じ込めることができて、しかも全収録曲でそれを実現させてしまったお化けアルバム。しかし、ドラムが真ん中という基本は変わらない。ロックンロールってビートだし、ダンス・ミュージックなんだよ。ギリギリのところで抑制している音がもっとも破壊力を持っているということが、ここでの演奏を聴けばわかるはず。全編に渡って音はスカスカで、みんな何ひとつ難しいことはやっていない。それなのに物凄くロックンロール。ロックンロールはスカスカな音楽です、と本作が証明したんだ。



『Live/1975-85』 Columbia
〈Eストリート・バンドって何?〉と思ったら、このライヴ・アルバムを聴けばいい。これを聴いてしまうと、Eストリート・バンドの凄まじさや、ライヴでの演奏がスタジオ作品では再現できないこともわかる。リリース当時はレコード5枚組だったんだけど、このヴォリュームを一気に聴けるか聴けないかで、真のロック好きかそうでないかを見極められる。つまり踏み絵としても重宝する作品なんだよ。とにかく客がずっとうるさい。みんな歌うしね。でも、それもひっくるめてロックンロールなんだ。何度聴いても痺れるよ。



『Live In New York City』 Columbia(2002)
14年ぶりにバンドが集結。NYでギニア人の留学生が5人の警察官に撃たれて死亡した事件を元にした“American Skin”を、同じNYで演奏したことが意義深い。ボスは不条理なことに我慢できないんだね。それでふたたびEストリート・バンドの音が必要になったんじゃないかな。



『The Rising』 Columbia(2002)
このレコーディング中に〈9.11〉が起こってしまった。で、こういう人だからほぼ曲を書き換えて発表したんだ。バックはもちろんEストリート・バンドが演奏しているんだけど、本作にはバンド特有のキラキラ青春ロックな香りがしない。ルーツ・ミュージック寄りで、ヘヴィーな仕上がりだ。


III ブルース・スプリングスティーン・アンド・ジ・Eストリート・バンドのお手本バンドとライヴァル・バンド

 最後に、Eストリート・バンドが手本にしたグループを紹介しておこう。まずはエルヴィス・プレスリー。彼のバックは鉄壁と言われていたし、雛形だな。ロックンロールはピンの歌手がいて、歌が中心なんだ。で、その歌を最大限に引き出すバック・バンドがいてこそ成立していた。ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツやバディ・ホリー&ザ・クリケッツをはじめ、チャック・ベリーやエディ・コクランもみんなそう。それが雛形なんだけど、リズム&ブルースやソウル・バンドも忘れちゃいけない。よく言われているのは、最強のバック・バンドはブッカー・T&ザ・MG'sかEストリート・バンドのどっちかだってこと。それはビートルズのようなロック・バンドって意味じゃなくて、ピン芸人をもっとも活かすプレイヤー集団としてだよ。

 ちなみに、同時代でEストリート・バンドとタメを張るのは、クレイジー・ホースだ。ニール・ヤングはボスと同様に良い意味で独裁者。彼のような個性の強いシンガーを活かせるのはクレイジー・ホースだけなんだ。あとは、イアン・デューリー&ザ・ブロック・ヘッズもヤバイ。ファンクやロックンロール、リズム&ブルースを混ぜたものが実はいちばんイカしたパンクだってことを彼らは体現してるので要チェックだ。セックス・ピストルズだけがパンクじゃないぞ! とはいえ、これらはワルの音楽だから口に合わない人もいるだろう。本当のロックなんて知らないほうが幸せかもしれない。本物を聴いてしまうと、いまロックと言われているもののほとんどが全然ロックしてないってことが証明されてしまうからね。
▼関連盤を紹介。
エルヴィス・プレスリーの56年作『Elvis Presley』(RCA)
ブッカー・T&ザMG'sのベスト盤『The Very Best Of Booker T.& The MG's』(Rhino)
ニール・ヤング&クレイジー・ホースの79年作『Live Rust』(Reprise)
イアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズの79年作『Do It Yourself』(Demon/Edsel)




Bruce Springsteen/ザ・ライジング

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