 |

掲載: 2008/03/06
ソース:『bounce』誌 296号(2008/2/25) |
さまざまな音楽ジャンルを丁寧に教えてくれる誌上講座が開講! 皆さん、急いでご着席ください!!
文/出嶌 孝次 I クラブ・ジャズの成り立ちと特徴
さて、今日の講義は〈クラブ・ジャズ〉。何気なく濫用されてる言葉だけど、最近諸君のレポートを読むとどうも偏った認識が多くて、先生は課題提出のたびに気になってたんだ。だから少々まどろっこしい講義になるけど、基本は簡単。クラブ・ジャズとは、〈ダンス・ミュージックとしてのジャズと、ジャズの影響下にあるダンス・ミュージックを並列に捉えるマナーやアティテュードや視点や解釈〉のことだな。長い? まあ、注意すべきは〈クラブ・ジャズ〉なる明確な音楽が存在するわけじゃないってこと。〈ジャズ〉という単語が付くからって、〈クラブ・ジャズ=クラバーが好む亜流のジャズ〉と解釈するのも大いなる勘違いだ。アシッド・ジャズと同様に、クラブ・ジャズもジャズ愛好家的な視点とはまったく異なる音楽の捉え方だからね。
じゃあ、その〈マナーやアティテュードや視点や解釈〉はどこから生まれてきたのか、っていう話。発端はジャズに踊るための音楽としての価値を与えた80年代ロンドンの〈ジャズ・ダンス〉ムーヴメントということになるね。やがてパトリック・フォージやジャイルズ・ピーターソンらのDJ陣がジャズ以外の音楽も〈ジャズ〉の名の下にプレイするようになって、その坩堝がアシッド・ジャズを生み出すんだけど、根底には〈評価されなかったものに別の評価軸から光を当てる〉というレア・グルーヴの視点もあった。で、基本的にはそれらの延長線上にありつつ、現在進行形のクラブ音楽に対してもより視野を広げることで生まれたのが、クラブ・ジャズという視点だと言えるね。だから、いわゆるジャズはもちろん、フューチャー・ジャズ、エレクトロニカ、ハウス、ブロークン・ビーツ、ヒップホップなど(の一部)がそこにはあるわけだ。用語だらけでノートを取るだけでも大変だろうから……具体的に聴いてみようか。 |
II それでは実際に聴いてみよう! その1
THE FIVE CORNERS QUINTET 『Chasin' The Jazz Gone By』 Ricky-Tick(2005) ヘルシンキの5人組で、ハード・バップ〜ラテン・ジャズをモチーフにした機能性重視のダイナミックなライヴ・サウンドがDJ陣に絶賛されたんだ。ユッカ・エスコラやテッポ・マキネンら構成員の活躍も含めて現行シーンの立役者だと言えるかな。
INNERZONE ORCHESTRA 『Programmed』 Planet-E(1999) デトロイト・テクノ界隈も広義のクラブ・ジャズ地図を織り成す一要素だ。カール・クレイグが仕切った本作は、プログラミングと生音の過激な拮抗ぶりがヤバい名盤。カールはこの後デトロイト・エクスペリメントでトライブら地元のジャズ遺産にもアプローチしているよ。
JAZZANOVA 『In Between』 JCR/Compost(2002) 90年代にベルリンでフューチャー・ジャズ/クロスオーヴァーを推進した大御所ユニットの初アルバム。エレクトロニカ寄りな初期の音から、ここではブロークン・ビーツ+ネオ・ソウル的な作りに移行しているけど、それはそのままクラブ・ジャズの解釈を広げることになったんだ。
KOOP 『Waltz For Koop』 JCR/Compost(2001) ユキミ・ナガノをフィーチャーした表題曲がジャイルズ・ピーターソンらの支持を受けて、クラブ・ジャズ文脈における北欧アクトへの注目度をアップさせた2作目だ。次作『Koop Islands』では60年代ジャズからスウィングにまで遡る優美なレトロ・サウンドへと移行しているね。
『Kyoto Jazz Massive』 フォーライフ(1994) アシッド・ジャズ時代に生まれた〈クラブ・ジャズ〉提唱者のコンピ。4ビートのジャズやDJ KRUSHのジャズ・ヒップホップ、マスターズ・アット・ワークのハウスなどを近しいヴァイブによって融和させることで、結果的にクラブ・ジャズの振り幅を実証していたことが重要なんだ。
NICOLA CONTE 『Other Directions』 Blue Note(2004) イタリアのスキーマでジェラルド・フリジナと並んで腕を振るってきたDJが、ラウンジーなボッサ路線からピアノを活かした端正な作りにシフトした金字塔。モダン・ジャズ回帰の気運を作り出し、昨今のヨーロピアン・ジャズ隆盛の基礎となった作品のひとつでもあるね。
|
II それでは実際に聴いてみよう! その2
NOSTALGIA 77 『Everything Under The Sun』 Tru Thoughts(2007) 英国ジャズの伝統を更新するベネディック・ラムディンのプロジェクトで、オクテットではアフロ寄りのグルーヴも披露しているけど、この最新作はモーダルな雰囲気の歌モノが主体。クラブ・ジャズ視点のリスニング・ジャズ……って言うと矛盾してるかな?
PHAROAH SANDERS 『Love Will Find A Way』 Arista/Solid(1977) 過去の音源であろうと、機能性という審美眼を持って公平に接するのが〈クラブ・ジャズ〉なんだ。本作のメロウな表題曲がジャズDJの定番となっているファラオなど、この文脈で得られるリスペクトは、いわゆるジャズ界での序列とかとは関係ないんだよね。
REEL PEOPLE 『Second Guess』 Papa(2003) “Spiritual”などジャズ〜ハウスDJに愛されたソウルフルな名曲で知られるロンドン出身のコンビ。昨年の次作ではUKソウルと呼べるスタイルを標榜していたし、サウンド的には他の文脈で評価されるものも多いけど、クラブ・ジャズはそういうセグメントを俯瞰しているんだよね。
ST GERMAIN 『Tourist』 Blue Note(2000) フランスのFコミュニケーションズで活躍したディープ・ハウス職人のブルー・ノート盤で、当時〈ニュー・ジャズ〉とも呼ばれた一群を代表する名作。ギターにアーネスト・ラングリンを迎えた“Montego Bay Spleen”など、ダビーなダウンテンポやハウスと生音の共存が聴きモノなんだ。
『Truby Trio - DJ-Kicks』 !K7(2001) ドイツ産フューチャー・ジャズの要人、ライナー・トゥルービーが率いるトリオのミックスCD。オリジナル作も良いけど、コンジュアから始まる本作で〈クラブ・ジャズ〉という視点の自由さを知ってほしいね。なお、クリスチャン・プロマーはドラムレッスン名義で生ジャズに挑戦中だ。
TWO BANKS OF FOUR 『City Watching』 Sirkus/Pヴァイン(2000) 元ガリアーノのロブ・ギャラガーとディマスが、演奏者たちの閃きと繊細なプログラミングを融合させんと試みた処女作。モンゴ・サンタマリア“Afro Blue”を取り上げるセンスも流石だ。もっと有機的なスピリチュアル志向を強めるこの後の2作品も超名盤だからね!
|
III 現在のシーンにおけるクラブ・ジャズの動き
さて、ここまで説明してきたように、折々のクラブ・ミュージックも昔のジャズも等価で捉えながら発展してきた〈クラブ・ジャズ〉はもちろん現在進行形のもので、ここ数年の傾向では〈ジャズへの接近〉が目立っているね。クラブ側を出所とするDJやクリエイターがミュージシャンと絡むなどして旧来のジャズへもどんどん視野を広げ、逆にミュージシャン側にもクラブ・ジャズとして機能する生ジャズを作る人が増えてきたっていうことだ。最近では主に後者を指してニュー・ジャズと括ることも多いね(サン・ジェルマンの項で触れたニュー・ジャズとは別……ややこしい!)。本当ならその界隈で盛り上がるヨーロピアン・(ニュー・)ジャズの話をもっとすべきだけど、それはまた今度。一方、シーンの元締めたる沖野修也(Kyoto Jazz Massive)がいる日本は先進的で、ファラオ・サンダースとの共演も実現させたSLEEP WALKER、ロウ・フュージョンやフリースタイルからもリリースのあるquasimodeらが、旧来のジャズ・ファンをも魅了しつつある。須永辰緒は〈夜ジャズ〉などで日本の古典にもクラブ・ジャズの対象を広げていたし、ブルー・ノートの音源をクラブ・ジャズ解釈する企画も日本主導のモノが多いよね。海外勢ではヒップホップ世代の鍵盤奏者たるロバート・グラスパーや、オーセンティックな歌い手のホセ・ジェイムズといった逸材もいる。ただ、ここまで範疇が広がると、安易に〈クラブ・ジャズ〉と括るだけじゃ逆に何の説明もできないところにまで来たので……今後は〈クラブ・ジャズ〉の濫用は禁止だぞ! ▼関連盤を紹介。
| | 2008年のコンピ『Neu Jazz』(Sonar Kollektiv) |
| | SLEEP WALKERの2006年作『THE VOYAGE』(Village Again) |
| | quasimodeの2006年作『oneself-LIKENESS』(インパートメント) |
| | ロバート・グラスパーの2007年作『In My Element』(Blue Note) |
| | ホセ・ジェイムズの2008年作『The Dreamer』(Brownswood) |
|

 ・The Five Corners Quintet/CHASIN’ THE JAZZ GONE BY ・Koop/WALTZ FOR KOOP 〜ALTERNATIVE TAKES ・Nicola Conte/アザー・ディレクションズ [CCCD]
この記事を flogに追加
この記事をはてなブックマークに追加
|