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掲載: 2008/03/06
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希代のエンターテイナーにして、ヒップホップの未来を担うラッパー、サイプレス上野の月刊連載! 日本語ラップへの深〜い愛情を持つサイプレス上野と、この分野のオーソリティーとして知られるライター・東京ブロンクスの二人が、日本語ラップ名盤を肴にディープかつユルめのトークを繰り広げます。今回取り上げる作品は、バンド〈THE HELLO WORKS〉での活動も記憶に新しいスチャダラパーのアルバム『5th WHEEL 2 the COACH』。
文/東京ブロンクス
 | | 秘蔵のスチャダラ・グッズを手にホクホクのサイプレス上野 |
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●今月の名盤:スチャダラパー『5th WHEEL 2 the COACH』 BOSE、ANI、SHINCOの〈トリオ・ザ・キャップス〉、スチャダラパーが95年に発表した4枚目のフル・アルバム。B-BOY的サマー・クラシックとなった“サマージャム'95”ほか全12曲+ボーナス・トラックを収録。07年に〈Standard of 90'sシリーズ〉の一枚として紙ジャケで復刻発売された。(bounce.com編集部)
ブロンクス 『5th WHEEL 2 the COACH』は、“今夜はブギーバック”ヒット後初のフル・アルバムで、先行シングルとして“ドゥビドゥWhat?”が出てたよね。
上野 “ドゥビドゥWhat?”は、俺らは好きだけど、ちょっとドープ過ぎるんじゃないかって感じでしたよね。
| | 小沢健二との“今夜はブギーバック(smooth rap)”を収録したミニ・アルバム『スチャダラ外伝』 |
ブロンクス あれは、“ブギーバック”からスチャダラに入ったようなB-BOY未満のキッズには不評だったよね。よく意味がわかんないっていう。
上野 確かにポップではなかった。こないだ宇多丸さんのラジオのゲストがスチャダラだったんだけど、本人たちも“ドゥビドゥWhat?”は何言ってるのかわかんないところが重要だった、とか言ってて(笑)。そのときは“ブギーバック”みたいなものを作る気がなかったって。
ブロンクス やっぱりそうなんだ。このアルバムはスチャダラの中でも一番B-BOY度数が高いアルバムだよね。
上野 高いっすね。急激にそうなっていった感じでしたね。
ブロンクス いま思うと、LB*1の盛り上がりとは別に、〈さんピン〉*2へと至るようなヒップホップ・ブームも意識してたんだろうね。 *1 LB NATION。スチャダラパーらを中心とするヒップホップ的コミュニティー。TOKYO NO.1 SOUL SET、かせきさいだぁ≡などが所属。 *2 さんピンCAMP。ECD主催で96年に行われたヒップホップ・イベント。当時のアンダーグラウンドな日本語ラップ・シーンを代表するアーティストが多数出演した。
上野 それは絶対あったでしょう。実際ドカーンと来ましたもんね。ジャケもポスターとかも超かっこよかった。
ブロンクス ポスターは俺も上ちょ(上野)も、二人とも実家の部屋に貼ってあるっていう(笑)。
上野 万人が好きになる曲って“サマージャム '95”くらいっすかね。
ブロンクス まあ“ノーベルやんちゃDE賞”とか“南極物語”とかポップに聴ける曲もあるけど、何よりあのビートがすごいよね。それまではビートでもふざけてるところがあったけど、これはラップでふざけててもビートはくそタイト、みたいな。
上野 そうっすね。そこがそれまでと違った。この前はゴンチチとかスカパラが参加したり、生の方向に流れたから、その反動なのかもしれないけど。
ブロンクス それを言い表してるのが中に書いてある「1にビート、2にベース、3、4がなくて5に余談」っていうコピー。格好良いこと言うなぁ!
上野 あとティンバのブーツがジャケットに写ってたり。そこもすごいB-BOY度数の高さを表してますよね。
ブロンクス クレイグ・マックにも通じる魚眼写真っていう。
 | | 魚眼ミラーで『5th〜』のジャケっぽく撮影してみました |
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上野 (爆笑)。魚眼強めすよね!
ブロンクス 俺らも曲がり角のミラーがあると、このジャケみたいに写真撮ってたもん。魚眼のミラーを部屋に置いて「俺の部屋も魚眼で見るとかっけえ」って思ってた(笑)。
上野 それすげえわかる! 俺も魚眼好きですもん。いま思うとあのジャケに影響受けてんのか。プロモ・クリップ撮る時も、やたら魚眼がやりたくて。アー写も「魚眼で撮った方が良くない?」とか。
| | ファーサイドの魚眼ジャケ・アルバム『Labcabincalifornia』 |
ブロンクス B-BOYの魚眼好きってあったよね(笑)。ファーサイドのジャケとか。そういやこの作品ってメジャー配給だよね?
上野 そうすね。東芝EMI(現EMIミュージック・ジャパン)に移って一発目だった。これって確かめちゃくちゃ売れたんですよね。雷とか、ハードコアなヒップホップが好きなやつもみんな買ってたもんな。
ブロンクス このアルバム辺りで「パチロク」読者とかオリーブ少女みたいな、あまりヒップホップじゃないファンを振り切りにかかったのかな。
上野 B-BOYにぶつける! みたいな。
ブロンクス それをキャッチしちゃって俺は、スチャダラが行ってたってだけで桑沢(デザイン研究所)に行った男だから(笑)。
上野 (爆笑)。
ブロンクス 俺は被害者だからね。スチャダラがビデオで「〈ラップ部〉がある」って言ってたから入学したら、B-BOYすらひとりもいないっていう。
上野 素晴らしいなあ。
ブロンクス まあスチャダラが行ってた当時の桑沢だってそんな感じだったんだろうけどね。上ちょは〈大LBまつり〉*3行ったの? *3 96年に行われたLB NATION総出演イベント。奇しくも〈さんピンCAMP〉の1週間後に同じ場所で開催された。
上野 行ってないんすよ……。それが心残りで。その頃はバロメーター的に〈さんピン〉に偏ってたんすよね。
ブロンクス それは仕様がないよね。
上野 俺はスチャダラがすげえ好きだし、渋公のライヴとかも行ってたのに、っていう。〈さんピン〉にBOSEさんが来てて「あ、BOSEだ」とか言ってたのに、翌週の〈大LBまつり〉は、月曜からテストだって理由で行かなかったのが情けなさ過ぎて。いまだに後悔してる。
ブロンクス 〈大LBまつり〉のチケットの方が高くなかった? 俺は、それが決め手だったような気がするんだよな。
上野 あーフライヤー持ってるんだけど、持ってこなかったなあ……。
ブロンクス あのフライヤーもかっこいいよね。フェイズ2(Phase2)を意識したスケシン(スケートシング)仕事。そういうオシャレなところは普通のB-BOYとかより全然早かったよね。 |
 | | 当時、ボーズ氏が被っていたものと同じキャップ。「サイズがちっちゃくて中を切って無理やり被った(笑)」(上野) |
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上野 『5th〜』のツアーに行った時に、女の子の多さにマジでびびった。グッズ売り場とかすご過ぎて。
ブロンクス それなのに、そういうファンも〈ドラえもん工場〉*4とか言ってディスっちゃう(笑)。やっぱそう考えると、『5th〜』はミーハーなファンを引き離しにかかってるよね。 *4 『5th WHEEL 2 the COACH』収録“From喜怒哀楽”中のフレーズ。
上野 「BOSE君、なんか今回おかしくない?」とかって言われるような。
ブロンクス スチャダラが、バリバリに王子様だった時期のオザケンと「オールナイトニッポン」をやったことがあったんだけど、そこでスチャダラがクラシックな曲をかける〈Doowutchyalike〉てコーナーをやってて。ひたすらゴリゴリのヒップホップを紹介してて熱かったな。
上野 あーそれは聞いてなかったなあ。
ブロンクス まあ、それも桑沢のオリーブ少女だった女の子にテープをもらって聞いてたんだけどさ(笑)。
上野 愛憎入り混じってるなあ(笑)。
| | 小西康陽が選曲した〈渋谷系〉コンピ『bossa nova 1991 shibuya scene retrospective』 |
ブロンクス いや、当時は別に〈渋谷系〉って言葉に恥ずかしさを感じてなかったから、自分はB-BOYで渋谷系だと思ってたんだよね。俺らは渋谷系をスチャダラ中心に見てたから。コーネリアスとか小沢健二もサンプリング的というか、ベックみたいな感じで捉えてたし。でも振り返ってみると、渋谷系の格好ってフレンチな感じでB-BOYではないよね。オリーブ少女とカジヒデキもどき、みたいな。
上野 確かにそこは全然違ったね(笑)。「カジくん」とか言ってる女、いっぱいいたもんなあ。当時そういう子と付き合ってました。
ブロンクス (爆笑)。
上野 俺はスチャダラが好きって言ってて、相手はカジくんが好き、みたいな。当時はそういう女の子が好きだったのかなあ……。
ブロンクス 当時からそういう子の中にもかわいい子いたもんね。
上野 いましたよね。でもそういう子はその中でもモテちゃうからね。
ブロンクス そういや桑沢に行ってるような男はみんなタイトでフェミっぽい格好でさ。こいつらとはつるめねえって思ってるのに俺も学校の女の子とカフェとか行っちゃって。
上野 それは否めないっすね(笑)。
ブロンクス スチャダラは裏原系ブランドとWネームでTシャツとか作ってたよね。
上野 ボーズさんが履いてたナイキのエアミッションとか、すげえかっこよかったもんな。
ブロンクス まあそういう色んな方面を気にしてたから、このアルバムが出来たんだろうね。俺は“From喜怒哀楽”が一番好きだったな。
上野 “From喜怒哀楽”は、それこそオリーブ少女が聴いても全然わかんないって感じですよね。
ブロンクス あと、このアルバムって言ったらナオヒロックじゃん!
上野 そうだそうだ。このアルバムにナオヒロさんが参加してて、それとまったく同じことを俺らのアルバムでもやってもらったっていう(笑)。
 | | ナオヒロック&スズキスムースのシングル“Everybody Loves The Sunshine”。残念ながら廃盤 |
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ブロンクス ナオヒロック&スズキスムースは、当時のヒップホップ状況の中でも、かなりおかしいシングルを出してたよね(笑)。
上野 あのリリースは完全に悪ノリでしたよね(笑)。シャカゾンビのシングルとほぼ同時期に出て、シャカは大型新人みたいな扱いだったけど、ナオヒロさんのは全然相手にされてなくて。でも、その後ファンキーDLが同じネタを使ったから再評価、みたいな。とことんツイてない(笑)。
ブロンクス 当時のラップで韻すら踏んでないってのは相当珍しいよね。でも上ちょのアルバムのやつもそうだけど、ナオヒロさんは一発フリースタイルをやらせるとすごいよね。スチャダラの10周年ライヴの時かなあ、フリースタイルで「昼間の渋谷は俺のエリア」って言っててマジやられた(笑)。
上野 そのフレーズはヤバい(笑)。レコーディングの時も、ナオヒロさんの瞬発力はやっぱすごいなあって思いましたね。ほぼ一発録り。で、レコーディング終わったら速攻で帰った(笑)。
 | | 『5th WHEEL 2 the COACH』の特典グッズだったランチ・ボックス。「1回、本当に弁当詰めて使ったな〜」(上野)。 |
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ブロンクス このアルバムってシングルが3枚も切られてるんだよね。
上野 “ドゥビドゥWhat?”と“From 喜怒哀楽”、“サマージャム'95”。
ブロンクス それも短冊シングル(笑)。いまどき3枚もシングル切るヒップホップ・アルバムなんてないよね。
上野 “サマージャム'95”はダイアモンドDがリミックスやってましたからね。
ブロンクス それだけのヒット作ってことだよね。
上野 “サマージャム'95”聴くと、野球の部活の帰りに、すげえ走らされまくって、辛かった頃を思いだすんすよねえ。夏が来る、みたいな。
ブロンクス 思い出と共にっていう。この年から始まって、一体何百本の〈サマージャム'○○〉ってテープが作られたんだろうっていう。
上野 ユウさん(YOU THE ROCK★)も「“サマージャム'95”やべえぞ」って言ってて。
ブロンクス 「あっ、こっちの人もいいって言ってくれるんだ」って思ったよね。勝手に喜んじゃって。
上野 「ユウさんも認めてくれた!」って(笑)。マジで失礼な話だけど。 |
 | | 今月のスナップ……ではなく、スチャダラのライヴ会場でのファッション・スナップに取り上げられた上野氏19歳。 |
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ブロンクス あと、これも言っておかなきゃいけない。当時はANIのラップはマジでヤバいって言われてた。「Fine」誌の〈好きなラッパー・ランキング〉で2位に入ってたし。
上野 いま思うとすげえ不思議なランキングだったよね(笑)。フリーキー・フロウってところで評価されてたんだろうね。
ブロンクス ANIは日本でも屈指のスペル・バウンド*5野郎だった。「A to the NI お静かに」とか「いーな、いーな、I.N.A逆にANI」とか。 *5 単語をアルファベットに分解してライムする技法。
上野 「A to the NI」はやられたな(笑)。
ブロンクス オリーブ少女はBOSEファンで……。
上野 B-BOYはANI、みたいな。顔もいいですよね。B-BOY面って言うか(笑)。
ブロンクス 上ちょはLB系の先輩達にも可愛がられてるよね。後継者でしょ、毎回言ってるけど(笑)。
上野 まあスチャダラと違うのは、俺らは女の子の客が一向に増えないっていう。これは深刻な問題ですよ。
ブロンクス オリーブ少女はどこいったんだろうね。
上野 まあそういう人にたまに好かれたりもするんすけど……。前に付き合ってた人もそういう、年上でスチャダラ好きでかわいいもの好き、みたいな。
| | TOKYO NO.1 SOUL SETの96年作『Jr.』(紙ジャケ復刻盤) |
ブロンクス 別にオリーブに親近感があったわけじゃないんだよ。ただ、ソウルセットとかフィッシュマンズとか、真心(ブラザーズ)とか、ヒップホップ以外で聴くものが、そういう人たちと被ってるんだよね。
上野 そうっすね。やっぱフィッシュマンズとか聴いてる女と遊んでたからなあ。
ブロンクス そういう人達って渋谷系と言いつつ、遊びに行くのは下北なんだよね。スリッツとか。
上野 そうっすねえ。ヒップホップっていうよりサブカル的なコミュニティーだった。
ブロンクス 渋谷系で一番売れてたオザケンの『LIFE』でも100万枚行くか行かないかくらいでしょう。当時は500万枚とかのCDセールスがあった時代で、そう考えると渋谷系も絶対サブ・カルチャーだよね。あ、重要な事を忘れてた! この頃のスチャダラは3人で歌詞書いてたんだよね。
上野 そういうやり方は他にないっすよね。だから相当洗練されてるし、ハンパなく作りこまれてる。リリックのテーマとかも全然ぶれないし。
ブロンクス コンセプトを立てて曲を作るってところは本当にずば抜けてるよね。このアルバムはヒップホップ的にも、スチャダラの中でも、すごい普遍的な作品なのは間違いないよね。
上野 いまでも全然聴いてる。“サマージャム'95”を聴かない夏はないからね。
ブロンクス ただ、〈“サマージャム'95”が入ってるアルバム〉って片付けられちゃうのは違うよね。
上野 そうだね。もっと色んな要素が入った、バランスのいいアルバム。あと、普遍的過ぎて言うことがないってのもあるよね。ユウさんの『THE SOUNDTRACK '96』とかライムスの『EGOTOPIA』とかはその時代の空気をすごい感じさせるアルバムじゃないですか。
ブロンクス 確かに。常に聴いてきたから特にこの頃の記憶と結びついてないかもしれない。
上野 ただ良く聴くアルバムとして存在してるっていう。普通の人にとってのサザンの曲とかに近いかも。
ブロンクス スチャダラが一番バランス感覚が良かった時期の一枚ってことだね。他のラッパーが乗りたくても乗れない時代の波に乗っかってたし。
上野 かつ、手のひらで時代を転がしてる感じがした。
ブロンクス ……まとまんないねえ(笑)? じゃあ最後は無理やりリリック大喜利で締めようか。「結局 南極 今日は」?
上野 「連想不足……」。これ失礼じゃない? いや好き過ぎてって意味でね……。
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 ・サイプレス上野とロベルト吉野 オフィシャルサイト ・東京ブロンクス所属〈SDP(Sag Down Posse)〉オフィシャルサイト
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