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第5回 ─ ECD『ホームシック』〜シーンきってのアウトサイダーが辿った道程


掲載: 2008/04/03
更新: 2008/04/07

希代のエンターテイナーにして、ヒップホップの未来を担うラッパー、サイプレス上野の月刊連載! 日本語ラップへの深〜い愛情を持つサイプレス上野と、この分野のオーソリティーとして知られるライター・東京ブロンクスの二人が、日本語ラップ名盤を肴にディープかつユルめのトークを繰り広げます。今回取り上げるのは、ECDのサード・アルバム『ホームシック』。ゲストにはライターの磯部涼氏が登場です。

文/東京ブロンクス



ECD君シール(本文参照)越しに世間を眺めるサイプレス上野


 
●今月の名盤:ECD『ホームシック』

シーンきってのオールドスクーラー、ECDの3作目にしてエイベックス移籍後初のアルバム。TWIGYとYOU THE ROCK★をフィーチャーし、当時のアンダーグラウンドな日本語ラップ・シーンのアンセムとなった“MASS対CORE”など全10曲を収録。(bounce.com編集部)

 
ブロンクス 今日はこのコーナー始まって以来のゲストを呼んじゃってます。ECDに詳しいライターの磯部涼先生に遊びに来てもらいました!

磯部 俺も話すの? 何だか騙された気分だな。

上野 まぁまぁ、ビールでも飲みながら。

ブロンクス これ、やっぱり石黒(景太)*1さんのデザインがすごいね。良いパッケージだ。
*1 デザイナー。ECDの多くの作品を手がける。元キミドリとしても知られる。

磯部 でも石黒くんのその後のヒネリから考えると結構ベタだよね。だって〈ホームシック〉ってタイトルで電話してる絵だもん。

ブロンクス 確かに。

上野 石田さん(ECD)若いなあ。この時の石田さんっていくつだろう? 

ブロンクス ……35歳! この時点で相当なベテランだね。

磯部 上野くんはこれを聴いてた当時はどんな感じだったの? 俺が司会しちゃってるけど(笑)。

上野 俺は中3の終わりくらいだったけど、この時点で石田さんは相当好きでしたよ。とりあえず、封入されてたステッカーがものすごい欲しかったから、3枚くらいアルバム買って。

ブロンクス マジで(笑)? CDの3枚買いしちゃってたの?

上野 サンプル盤をめちゃめちゃ安く売ってる中古屋があって、そこで買ってたんすよ。

磯部 そんなにこのステッカー集めてどうすんの?

上野 貼って自慢してましたよ(笑)。

ブロンクス ECD君シール。このキャラは次の『LIVE at SLITS』のジャケにも使われてましたよね。
ECDのライヴ・ミニ・アルバム『LIVE at SLITS』

磯部 『LIVE at SLITS』のジャケが、阿部(周平)くんのデザイン仕事のデビューだって言ってた。

ブロンクス イルドーザー*2だ!
*2 前述の石黒景太と阿部周平を中心としたデザイン・チーム。すでに解散。

上野 『ホームシック』の時点では、まだ石黒さんの単独仕事なんですね。しかし渋いっすよ。このアルバムは。

ブロンクス 渋谷系でも宇田川系でもなく、なんか中央線系みたいなイメージがあるね。
スチャダラパーの94年作『スチャダラ外伝』。小沢健二をフィーチャーした“今夜はブギーバック”を収録

上野  これは“DO THE BOOGIE BACK”が入ってるんすよね。“今夜はブギーバック”のアンサー・ソング。

ブロンクス オザケンに聴かせたら一言「ダウナーですね」っていわれたらしい、伝説の曲(笑)。

磯部 この曲は北澤くん(KZA)と石黒君のラップの掛け合いがすごくいいよね。あとやっぱり、石田さんのラップもこのアルバムで変わったよね。フリーキーなフロウになったっていうか。当時の「ミュージックマガジン」の記事でインタビュアーが〈ラップが日本語としておかしくなっている〉みたいなことを言ってたんだけど、石田さんは〈これがリアリティなんだ〉みたいに話していて。それが印象的だった。

上野 確かに符割りとか妙なんですよね。昔の“漫画で爆笑だあ!”とかは結構わかりやすいし、笑える。

磯部 渋いスチャダラ、みたいな感じだった。でも、ここからリリックを放り出した。“いっそ感電死”とか全然意味わかんないもん。ラッパー的にはこれはどうなんですか?

上野 どうですかね……。でもラッパーとしては影響されてなかったかもしれない。言葉を詰め込んだ速いラップのやつとか、あとスチャダラっぽいやつとかは多かったけど、石田さんみたいな渋さのあるやつはいなかったなあ。

ブロンクス 石田さんは〈さんピン〉を主催してたし、日本語ラップ・ブームの真ん中にはいたけど、雰囲気はどう考えてもアウトサイダーだよね。

上野 年上だし、音楽的バックグラウンドを見ても普通のB-BOYではないっていうのもあったからかな。

磯部 でもこのアルバムに関しては割とみんな買ってたんじゃないかなあ。“MASS対CORE”も入ってるし。ECDのアルバムっていうだけじゃなくて日本語ラップ・シーンのアルバムって意味合いもあったと思う。

上野 やっぱり“MASS対CORE”はみんなリリックを暗記してるからなあ。軍歌っていうか(笑)、自分を鼓舞させるために聴く曲だった。

ブロンクス 俺にとっても、この時期の中ではベスト3に入る名曲だね。いいこと言ってるよ。これがメジャー配給じゃなかったら〈さんピン〉もなかったかもしれないよね。
〈さんピンCAMP〉の模様を収めたライヴDVD「さんピンCAMP〜THE DVD〜」

上野 あの熱量はすごいですよね。〈さんピン〉のビデオの冒頭に、石田さんのタワレコでのインストア・イベントが入ってるじゃないですか。最初でいきなり音が止められちゃう。俺、あの場にいたんですよ。あのときのアカペラの“MASS対CORE”はハンパなかったですね。

ブロンクス あそこにもいたんだ。ぬかりないな〜。

上野 あと、このアルバムはかなりアナログを切ってますよね。“DO THE BOOGIE BACK”は7インチで出して、“バイブレーション”と“MASS対CORE”も12インチで出してた。

ブロンクス よく覚えてるね(笑)。

上野 石田さんとシャカゾンビの、横浜でのインストア・イベントが中止になったことがあって、そのお詫びとしてテープが配られたんすよ。ツボイさんがひたすら『ホームシック』をぶった切ってめちゃくちゃにしてるっていう内容で。それが異常すぎて、高一の俺にはすごい衝撃だった(笑)。



病んだ音をシーンに提示したカンパニー・フロウの97年作『Funcrusher Plus』

磯部 “いっそ感電死”は、カンパニー・フロウより早かったって、トラックを作ったクボタ(タケシ)さんが自分で言いまくってるよね(笑)。

ブロンクス 確かに、この違和感っていうかザワザワした感じのセンスは相当早いよ。

磯部 このドラムの打ち方とかもエルP*3っぽい。
*3 カンパニー・フロウの中心人物。現在はソロで活動。

ブロンクス 黒人ばっかりのNYのヒップホップ・シーンの中にエルPがいる感じと、自分より若い人達の中で活動してた石田さんのアウトサイダー的な立ち位置はちょっと似ている気もしなくはない。

磯部 ニューウェイヴっぽい感じとかね。

ブロンクス 自分のルーツを隠さないし、隠せないという。

上野 石田さんはそもそもレゲエDJですもんね。

ブロンクス 〈アンダーグラウンドDJコンテスト〉に石田さんは「レゲエDJはDJだ*4」って出ちゃったのもすごいよね(笑)。それで優勝してるし。
*4 レゲエにおける〈DJ〉は、一般的にヒップホップにおける〈MC〉を指す。

磯部 当時はDJブームだったんだよね。とにかくDJが脚光を浴びてる時代で、ラップは添え物みたいな。

上野 DJブームの中で、TINY PUNXとかと石田さんってどういう関係だったんだろう?
ECDの音楽的自伝「いるべき場所」

磯部 石田さんは近田春夫のボーヤだったんだよ。その辺のことについては、最近出た石田さんの自伝「いるべき場所」に詳しいよ。

ブロンクス 〈いるべき場所〉っていうのは、『ホームシック』の頃にはエイベックスでヒットも夢見たけど、あれから色々あって、いまに至って。結局、俺がいる場所はあそこじゃなくてここだった……っていう意味でしょうね。

磯部 そうだろうね。でも、根本はあんまり変わってないんだけどね。参加している人もツボイさんとかクボタさんだし。

ブロンクス 渋い!! いつか「タモリ倶楽部」にゲストで出ないかな。空耳スペシャルとか。

磯部 『BIG YOUTH』のネタは全部和モノって聞いたけど。外国の曲も、日本人がカヴァーしてるものをサンプリングしてるって。“バイブレーション”は笠井紀美子ネタだけど、そういう和モノ使いも、このアルバムから本格的に始まったよね。

上野 そうすね〜。“バイブレーション”の元ネタ聴いたときは「やられた〜」と思いましたもん。「超かっこいい!」って。

ブロンクス この時なんか魚眼の写真のポスター無かったっけ?
ECD“DO THE BOOGIE BACK”の広告

上野 それ“DO THE BOOGIE BACK”の短冊シングルのジャケでしょう。ここにフライヤーがありますけど。

磯部 これだ。この頃の石田さんおしゃれだねえ。横に写ってんのはリカだっけ?

上野 リカ(笑)! リカも短冊シングル出してましたよね。“キス/この道”。

ブロンクス 〈元祖渋谷系ラッパーECD〉って書いてある(笑)。

磯部 俺は“AM I SEXY?”のラップが一番好きなんだよね。これはトラックを作ってるクボタさんについて延々ラップしてて、ディス・ソングのパロディになってる。子供心にもユーモアのレベル高いなあと思ってた。

ブロンクス そうなんだ! いや、いま謎が解けましたよ。「Fine」誌の〈MC教室〉でこの曲の説明を見て「これ誰のことディスってるんだろう?」ってずっと思ってて。

磯部 分かるだろ。普通……。

ブロンクス 磯部くん、ちょっと他にもECD豆知識を教えてくださいよ。

磯部 なんと言っても、このアルバムが重要なのは、こんなすごいのに、石田さんはこのとき童貞だったっていう。

ブロンクス えっ!? マジで?

上野 やばいなー。先輩さすがだなー。

磯部 〈さんピン〉の時だってそうだったんだから。「J-RAPは俺が殺した」とか叫んでるとき童貞だったんだもん。それはすごい偉大なことだと思うよ。詳しくは小説の「失点イン・ザ・パーク」を読みましょう。童貞をこじらせてる人は勇気付けられるよ。

ブロンクス 現代の宮沢賢治だね。俺だったらサバ読んじゃうよ。石田さんがアル中から復帰したのはいつ頃なんですか?
ECDの2002年作『Season Off』

磯部 『Season Off』かな。その前の『Thrill Of It All』を作ってる途中で倒れたんだよね。退院してから残り半分を作った。「あれ(『Thrill Of It All』)が一番おかしい」って言ってたよ。

上野 昔のロックとかだったらそういう話もよくあっただろうけど、20世紀から21世紀をまたごうとしている時期にそれって熱いな(笑)。吉野にもそういうストーリーを背負わせようかな。

ブロンクス ヒップホップは特にストーリーが大切だよね。よくよく考えるとLB系とさんピン系をつなぐミッシング・リンクみたいな役割もあった人だよね。

上野 アルバムにどっちの人も参加させてますからね。「実は仲いいんだ」みたいな。



ECDの99年作『MELTING POT』

磯部 俺が最初に石田さんと話したのが、東中野の映画館に鈴木清順特集かなんかを観に行ったときだったんだけど、『Melting Pot』が出たばかりで、ちょうどアルバムを持ってたのね。すごい好きだったから「サインしてください」って言ったら、ブックレットの真っ白なページを開いて「ここサイン用なんだよね」って言って、〈FUCK 1999〉ってサインしてくれた。で、そのときも昼間っからすごい酒臭かった。

ブロンクス 鈴木清順! やっぱり中央線系じゃん。渋谷系はそんなとこで昼間から酒飲んだりしないよ(笑)。

磯部 「いるべき場所」を読んでも、細かく書いてるのって、この辺までなんだよね。この後は結構さらっとした感じで。単にアル中で記憶がないだけなのかもしれないけど、日本語ラップに一番思い入れがあったのもこの頃までなんだと思う。
今月のスナップ:ECDのTシャツを無理やり誇示!

ブロンクス それは読んどくべきだったなあ。不覚だった……。上ちょ(上野)は読んだ?

上野 実はまだ全部は読んでないんすよ。

磯部 あれは結構ハードル高いかもね。聴いてきた音楽の話だから、前半はパンクとかニューウェイヴとかの話だし。

ブロンクス それこそ逆に読みたいなあ。元々パンクとかニューウェイヴの人なんですか?

磯部 そうそう。タコの山崎春美とかと演劇もやってたんだよね。

ブロンクス 山崎春美ってあの自販機エロ本の「HEAVEN」とか作ってた人ですか? なるほどねー。『ホームシック』の中ジャケってちょっと自販機エロ本の匂いがする(笑)。

磯部 確かにアンダーグラウンド・カルチャーの影響はあるよね。

ブロンクス アンダーグラウンドじゃなくて〈アングラ〉って感じ。

上野 そうやって考えると〈アンチJ-RAPここに宣言〉*4ってやっぱりいいフレーズっすね。高校のとき、みんなでこのフレーズ使ったりしてましたもん。〈アンチJ-RAPここに宣言してやるぜ〉とかって(笑)。みんなそんな風に言ってたのに、昨日ネット見てたら〈成熟を増してきたJ-RAPシーン〉とかって書いてあって(笑)。
*4 ECD“MASS対CORE”中の名フレーズ。

ブロンクス 〈J-RAP〉ってみんなが嫌ってた言葉なのに、なんで普通にまかり通っちゃったんだろうね。
m.c.A・Tのベスト・アルバム『m.c.A・T Best Singles+』

磯部 〈J-RAP〉ってよく言われてるように、m.c.A・Tがほんとに作った言葉なのかな? 出典を調べてるんだけど、出てこないんだよね。

上野 そんなの調べてるんだ(笑)。すごいなー。たぶん言ってないんじゃないすかね?

磯部 「SPA!」の記事でm.c.A・Tが「なんでこんなに叩かれるのかわからない」って嘆いてる記事は見つけたんだけど。

ブロンクス でも石田さんもm.c.A・Tを「実はいいやつそうだから、会いたくない」って言ってましたよね(笑)。

磯部 〈日本語ラップ〉って、いつ頃から言うようになったのかな?
“改正開始”を収録したMICROPHONE PAGERの編集盤『MICROPHONE PAGER』

上野 やっぱりMICROPHONE PAGERの“改正開始”が一番デカいんじゃないですかね。

磯部 その言葉自体は90年代初頭から言われたけどね。「Fine」誌とかに出て来てた。

上野 いまは〈ジャパニーズ・ヒップホップ〉ですかね。J-RAP、日本語ラップ……ニップホップ(笑)。
“東京ブロンクス”を収録した、いとうせいこう&タイニーパンクスのアルバム『建設的』

ブロンクス ニップホップ(笑)! いとうせいこうの“東京ブロンクス”だ。上ちょは石田さんと交流あるの?

上野 俺、石田さんてすごい怖かったんですよ。無口な人だし。俺めちゃくちゃ好きだったから、ライヴ終わった後に「よろしくお願いします!」って言ったら、割とそっけない感じで。

磯部 でも、いつもそういう感じなんだよ。

上野 そうなんすよね。で、石田さんのいまの彼女の一子ちゃんが、友だちの友だちで、前から知ってたんです。そうしたら一子ちゃんが俺の話を結構していてくれてたみたいで、こないだ〈Mr. Melody〉に遊びに行って、石田さんにあったら「上野くん久しぶりー」とかって、フレンドリーにしてくれて。そのとき、即席ライヴをやったんですけど、次が石田さんだったんですよ。そうしたら“MASS対CORE”をいきなりアカペラでラップし始めて。

ブロンクス 熱い!

上野 「マジで?」と思って。その後もずーっとアカペラでやってたんですよ。最後に「サイプレス上野インザハウス!」とかってシャウト・アウトもしてくれて。超嬉しかった。
ECDの96年作『BIG YOUTH』

磯部 俺もライヴで“MASS対CORE”は聴いたことないなあ。『BIG YOUTH』の“俺たちに明日はない”は最近もやってたけど、いまその辺の時代の曲はほとんどやってないよね。

ブロンクス アカペラでやったってことは、〈さんピン〉のビデオと同じ状況ってことでしょ。

上野 そうだね。客の熱狂っぷりも同じだった。ダイヴしてるやつとかいたし(笑)。

ブロンクス そういえば、この連載で前にも話したけど、〈Mr. Melody〉のいしかわ(てつや)くんと磯部くんと上ちょが三つ巴のケンカをしてたんだよね。その真相をこの機会に教えて下さいよ(笑)。

磯部 ケンカっていうか、俺がひとりで暴れてただけだったんだけどね。とあるイベントの最後にみんなでバックトゥーバックをやろうってことになったんだけど、俺のあとに(いしかわ)てつやが“今夜はブギーバック”をかけたんだよ。俺はそれが気に食わなくて「なに日和ってんだ!」とか言って、あいつを壁にガンガン叩きつけて。

上野 ヒドい(笑)。

磯部 俺がいしかわくんを壁にガンガン叩きつけてたら、上野くんが「なにやってんすか?」とかって来て。それを俺が振り向きざまにバーン!って。

ブロンクス 酔っ払ってたんすか?

磯部 ベロベロだった。それで3人でやり合ってたら……。

上野 石黒さんが机持ち上げて「やめろぉー!!」って止めた(笑)。そのあといしかわのクルマでふたりでしょんぼり帰りましたよ。

ブロンクス しかし“ブギーバック”かけて怒られるというのは……。そこでかけたのが“DO THE BOOGIE BACK”だったら?

磯部 それだったら許したね(笑)。

上野 お後がよろしいようで(笑)。

ブロンクス アウディ!!

 
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