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第8回 ─ ミナス


掲載: 2002/11/11
更新: 2002/11/14
ソース:『bounce』誌 237号(2002/10/25)

音楽王国ブラジルのなかでも一際光り輝く音楽性を育んできた地域、ミナス。この山岳地域から生まれた透明感溢れるサウンドはやがて〈ミナス・サウンド〉と呼ばれるようになった。少しづつではあるものの名盤たちがリイシューされているいま、胸を締め付けられるようなこの絶品の音たちに触れない手はない!!

文/ケペル木村



 ブラジルのミナス・ジェライス州(以下ミナス)は、リオデジャネイロから400kmほど北に上がった内陸部に位置している。州の名前は鉱物資源が非常に豊かな土地であることを示しており、ミナスの山々からは金、銀、ダイヤ、鉄鉱石をはじめ、かなりの鉱物資源が採れることでも知られている。よって、かつてこの土地ではゴールドラッシュもたびたび起こり、ブラジルのみならず世界中から一獲千金を狙う男たちがミナスへと殺到した。そして、彼らが稼ぎ出す金を目当てに酒場と売春宿ができ、労働力としてアフリカ大陸から黒人が連れて来られ、カトリック教会が続々と進出していくことになる。

 そんなミナスに最初に存在していたのはインディオたちの音楽だった。後から来た多種多様な音楽がそこにミックスされ、現在のミナスの音楽の源泉を作り上げた。ミナスの奥地に今もなお存在するアフリカ伝来の太鼓による強烈なリズム、教会の賛美歌やグレゴリオ聖歌からの影響も強いメロディーとハーモニー、そしてアラブ系移民たちがもたらした独特な節回し、それにミネイロ(=ミナス生まれの人々)が好むハーモニーや楽器などの音色から生まれる独特な浮遊感……。つまりは、ブラジルならではの〈複雑な混血〉が生み出した美しい結果として、ミナス・サウンドは生まれた。

 〈ブラジルの声〉と呼ばれるミルトン・ナシメントの声と音楽は、そんなミナス・サウンドそのものといえる美しさで人々を魅了してきた。まるで童謡のようなシンプルなメロディーをファルセットで歌うかと思えば、ある時は厳粛な雰囲気でグレゴリオ聖歌を捧げ、またある時にはアフリカの大地を疾走するようなリズムに乗って雄叫びをあげ、いつの間にか遙か雲海の彼方を漂っている……。そんなミナスでしか生まれ得ない音楽を作り出したミルトンの元には、ロー・ボルジェス、トニーニョ・オルタ、ヴァギネル・チゾ、ベト・ゲジスといった優れたミュージシャンたちが集まっていき、彼らはいつからか〈クルビ・ダ・エスキーナ=街角クラブ〉と呼ばれるようになっていった。そして彼らこそが 〈ミナス・サウンド〉の担い手となっていったのである。
67年作のデビュー・アルバム『Travessia』(Dubas)
70年代末にミナスのダンス・グループのために制作していた2枚組『Maria Maria/Ultimo Trem』(Nascimento)

文/桑原シロー、ケペル木村、長屋美保、松下耕三、ヤング針本

これぞ!! これも!?なミナス・サウンドの豊潤さを、まずはこの銀盤たちでご賞味あれ!

MILTON NASCIMENTO

Clube Da Esquina

EMI Brazil(1972)ミルトンを中心に、同郷の仲間たちが集結したクルビ・ダ・エスキーナの第1弾作品。彼らはこの作品を作るためにさまざまなアイデアを交換し合い、刺激を与え合ったのだろう。そこで生みだされた曲の数々は30年経った現在でも輝きを失っていない。切なくなる ほどの青さにたまらなく憧れる一枚。(長屋)



 
MILTON NASCIMENTO

Minas

東芝EMI(1975) 子供たちの合唱にミルトンの伸びやかな歌声が被さっていく“Minas”を聴くたびに涙がこぼれそうになる。広大なブラジルのなかでも最も美しいといわれるミナスの街並みや空が眼前に広がっていくような感覚に陥り、まるでミルトンの心の旅に同行しているかのようだ。当時の仲間たちに加え、ジョイス、ナナ・カイミも参加。(長屋)



 
LO BORGES

A Via Latea

東芝EMI(1979) かけがえのない一枚として音楽愛好家に愛され続ける名品。ローの作るブリリアントなメロディーが唯一無二の歌声で表現された完璧な作品集だ。個人的には今作をミナス派の括りだけで聴くことができなかったりするのだが、これがミナス界隈で生み出された最良形であることは間違いない。“Clube Da Esquina 2”の鮮烈な美しさよ!(桑原)



 
RONALDO BASTOS

Cais

Dubas(2001) いまやブラジルを代表する作詞家であるホナルド・バストスは、ミルトンとは35年以上の付き合い。クルビ・ダ・エスキーナのメンバーでもある彼のために盟友であるミルトンが超一流のアーティストたちを集めてプロデュースしたのが、このホナルド・バストス集だ。カエターノ・ヴェローゾやガル・コスタなども参加した豪華な一枚。(ケペル)



 
TONINHO HORTA

Toninho Horta

EMI Brazil(1981)パット・メセニーに多大な影響を与えたギタリストがトニーニョ・オルタ。彼の2作目となるこのアルバムでは〈歴史的出会い〉とでもいうべき2人の共演曲“Manoel, O Audaz”が収められている。パット・メセニー・グループが奏でる幻想的なメロディーは、トニーニョ、そしてミナスとの出会いから生まれたのである。(松下)



 
AFFONSINHO

Esquina Da Minas

Dubas(2002) これからのミナス・サウンドを担う期待のニューカマー、アフォンシーニョの最新作は、ミルトンの歴史的名作『Clube De Esquina』へのオマージュ!! ミルトンやロー・ボルジェスの名曲の数々をアコースティック・ギターの弾き語りによって静かに歌い上げていきます。クールなミナス・サウンドがぎっしり詰まった一枚。(松下)



 
CONJUNTO SAMBACANA

Conjunto Sambacana Vol.3

東芝EMI(1969) 美しきハーモニーはミナス産音楽のトレードマークだが、彼女たちは初期A&Mの影響を受けたと思わしき男女混合ヴォーカル・グループ。アメリカン・ポップス的ともいえるソフトな舌触りを持ち、ただただ気持良さを追求する姿勢の清々しさがストレートに胸に迫ってくる。これぞ良き時代の産物。(桑原)



 
NELSON ANGELO E JOYCE

Nelson Angelo E Joyce

EMI Brazil(1972)ジョイスの最初のご主人がこのネルソン・アンジェロ。彼はミナス生まれのギタリスト/コンポーザー/アレンジャー/シンガーで、今作はネルソンがイニシアティヴを握った一枚。ジョイスも存在感は薄めながらも美しい歌声を披露。クルビ・ダ・エスキーナの面々がバックを務めた豪華な一枚だ。(ケペル)

文/桑原シロー、ケペル木村、長屋美保、松下耕三、ヤング針本

これぞ!! これも!?なミナス・サウンドの豊潤さを、まずはこの銀盤たちでご賞味あれ! その2

SAGRADO CORACAO DA TERRA

A Leste Do Sol, Oeste Da Lua

Souhos&Sons(2000)ミナスのみならず、ヨーロッパや日本で最も有名なブラジルのプログレ・グループが彼ら。ミルトンとも共演歴のある5弦エレクトリック・ヴァイオリン奏者のマルクス・ヴィアナがほとんどの作詞作曲とアレンジ、キーボードを担当。本作はアジアン・テイストも少し加わった意欲作だ。(ケペル)



 
VARIOUS ARTISTS

Amor De Minas

Universal Brazil タイトルに偽りなしの、ミナスへの愛情がぎっしり詰まった好コンピ。収録されているのはミルトン・ナシメント、ロー・ボルジェス、トニーニョ・オルタといったミナスの重鎮たちに加え、ブラジルの国宝エリス・レジーナなどなど。名演/名唄ばかりが収められた、ミナス・サウンドの優れたサンプラーとしても最適の一枚。(ヤング)



 
TAIGUARA

Imyra, Tayra, Ipy, Taiguara

東芝EMI(1976) ヴァギネル・チゾが総監督を務め、エルメート・パスコアールがアレンジを担当した、ウルグアイ出身のタイグアラによるミナス・タッチの一枚。ストリングスの奏でる壮大なスケール感と、サウンド・コラージュの複雑な音響がプログレッシヴな不協和音を生む。浮遊感溢れる歌声は恐いくらいにロマンティックだ。(長屋)



 
UAKTI

Mapa

Point/Philips(1989) 現在もミナスを拠点に20年以上に渡る地道な活動を続けている、創作楽器を中心にした演奏集団、ウアクチ。彼らのベスト作は?と問われたら文句なしにこの作品を推す。オリジナル楽曲、演奏のクォリティー、全体を貫く独創的なアイデア、それらすべてが有機的に結びつき、限りなく自然なサウンドで表現された彼らの最高傑作だ。(ケペル)



 
WAYNE SHORTER

Native Dancer

Columbia(1974) マイルス・デイヴィスのグループやウェザー・リポートなどでの活動を経て、ウェイン・ショーターが世に放った名作。客演するミルトン・ナシメントの歌声が紛れもないミナス・ムードを演出していて、その淡くくぐもった輝きが当時のジャズ・ファンに与えた衝撃は計り知れない。ミルトンが世界的に知られるきっかけとなった一枚。(ヤング)



 
PAT METHENY GROUP

Still Life(Talking)

Geffen(1987) トニーニョ・オルタとの共演から6年を経てリリースされた名作。随所からミナス・サウンドを思わせる透明感が溢れ、マーク・レッドフォードの歌声もまるでミルトンのようだ。もちろん、パット・メセニーのギターもトニーニョからの影響を強く感じさせる美しいもので、ミナスへの彼の愛情が伝わる一枚だ。(松下)



 
NANDO LAURIA

Points Of View

Narada Equinox(1994) ニューエイジ系レーベルからリリースされていた、ブラジル北東部出身のギタリストによる隠れた逸品。透明感溢れる伸びやかなそのフレージングはパット・メセニー直系といえなくもないが、よりリアルにミナスのヴァイブレーションが伝わってくる。メセニー・グループのコア・メンバー、ライル・メイズも好演。(ヤング)

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