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Jaylib

掲載: 2003/10/30

ソース: 『bounce』誌 248号(2003/10/25)

デトロイトの鬼才J・ディラと、LAの怪人マッドリブ。そんな2人のユニティーがジェイリブに結実した。ネーミングはそのまんまだけど、音のほうは果たして……!?

文/大前 至

距離なんて関係ないよ

 ソロ、あるいはグループで別々に活動しているアーティスト同士が、あることをきっかけに意気投合し、いっしょに制作活動を行う。その活動がそれぞれのメインの活動、かつパーマネントなものになってしまえば、それは〈グループ〉と呼ばれるものになるのかもしれないけど、その一歩手前の非常に曖昧な状態がいわゆる〈ユニット〉。ユニットという存在は、パーマネントではないだけに、その活動自体が常に気まぐれであるし、逆にその気軽さが、非常におもしろい結果を産むことも多い。トライブ・コールド・クエストのプロデュース・チーム=ウマーや、自身のグループであるスラム・ヴィレッジの活動で注目を浴び、現在はソロや質の高いプロデュース/リミックス・ワークでその名を知らしめる、在デトロイトのジェイ・ディーことJ・ディラ。そして、ワイルドチャイルドおよびDJロームスとのグループ=ルートパックでデビューし、変名ソロ・プロジェクトのカジモト、そして魅惑のジャズ・プロジェクトであるイエスタデイズ・ニュー・クィンテットなどによって、ヒップホップ界のみならず、幅広い層から注目を浴びているマッドリブ。この2人によるユニットがジェイリブである。

  「ディラのソロ・プロジェクトに参加するために、いっしょにスタジオに数日籠ってたことがあるんだ。結局、その時にレコーディングしたものはリリースされなかったんだけども、それ以来、お互いにビート・テープを送りあってたんだ」(マッドリブ)。

 この2人の出会いがジェイリブに発展するのに、実はもうひとつ事件が起きている。

  「俺のビートのテープを使って、マッドリブがデモを作っていたらしいんだよ。それがブートレッグでリリースされたんだ。それで(マッドリブの所属する)ストーンズ・スロウに電話をしたんだ。俺の承諾なしにリリースされたからね。けど、話すうちに会話がポジティヴな方向に進んでいって、マッドリブとコラボレーションすることになったんだ」(J・ディラ)。

 そのブートレッグとは、ストーンズ・スロウがプロモ・オンリーでリリースしたレコードに収録されている“The Message”という曲であり、これが実質的にジェイリブの原型である。ストーンズ・スロウ側が勝手にリリースしたことで、双方は一触即発の危機の可能性もあったのに、最終的にはいっしょにアルバムを作る方向に進んでいったわけだから、運命とはおもしろいものである。

 その成果がこのたびアルバム『Champion Sound』としてリリースされたわけだが、制作の手順は“The Message”と同様の形を採用している。つまり、お互いが何も話し合わず、それぞれが作ったビートに勝手にラップを乗せるという、実に単純明快な方法だ。

  「制作中はまったく話し合わずに作業を進めたんだ。彼が俺のビートの上でラップして、俺が彼のビートの上でラップしただけ。お互いにデトロイトとLAで離れて作業を進めたけど、まったく問題はなかったよ。そのほうが自分の作業に没頭できるし、会わないでやったほうが良かったと思うよ」(ディラ)。

  「そうだね、実はいっしょにいて作るより簡単だよ。2人ともプロデューサーとして、理解し合っているし、音楽的な方向性も近いから、距離なんて関係ないよ。彼は俺のもっとも好きなプロデューサーのひとりだから、自分の曲と同じような感覚で作れた」(マッドリブ)。

 例えば、ゲスト参加するアーティストなどとまったく会わずにレコーディング作業を行うという例は多々あるが、アルバム一枚をまったく別々に作業するのは前代未聞だろう。しかし彼らはそれを成し遂げ、素晴らしい作品を作り上げた。

 ▼最近ローカル・リリースされているディラ・ワークスの一部を紹介。
謎のインスト集『The Official Jay Dee Instrumental Series』(Bring47.com)


『Champion Sound』に客演したタリブ・クウェリの『Quality』(Rawkus/MCA)。ディラがプロデュース参加している


俺たちのほうがクリエイティヴだ

 この2人の偉大なプロデューサーの共通項となっているのは、サンプリングへのこだわりであり、だからこそ、バラバラな作業を経ながらも、アルバム全体には統一感がある。

  「俺はいろんな音楽をチェックしていて、どんなジャンルのレコードからでもサンプリングするんだ。今回はほとんどをボスのSP303(通称:Drサンプラー)っていう玩具のようなサンプラーで作ったんだけど、つまり何を使うかが重要じゃなくて、どう使うかが重要ってことなんだよ」(マッドリブ)。

  「いまのヒップホップの世界では、俺たちがやっているみたいなサンプリング・メインのプロダクションは軽視される傾向にあるんだ。それは音楽業界全体に関わる問題でもあるし、常にそういうことでレコード会社と戦っているよ。けど、絶対に俺たちのほうがクリエイティヴだと思うし、ふたたびこのスタイルが評価されると思うよ」(ディラ)。

 必ずしも格好良いものが、多くの人の目に触れるわけではないという、この矛盾した世界だけど、その一方で、今回のプロジェクトをきっかけにディラがマッドリブのビートをバスタ・ライムズに聴かせたところ、バスタが気に入り、マッドリブのビートが次作に起用されるという。凄い!
ジェイリブのアルバム『Champion Sound』(Stones Throw)。パーシーPやフランク&ダンクが参加

そして、本作での成功で、ジェイリブというユニットは、次のステップに駒を進めることとなった。これも実に喜ばしいことだ。

  「次作については、すでに話し合っているんだ。いろいろとアイデアはあるけども、まずはインストのコラボレーションを最初にやることになると思うよ」(ディラ)。

  「今回はCDを送り合って、その上にヴォーカルを重ねただけだから、かなりロウ(生)な音質になったけど、インストはマルチ・トラックでやったり、まったく違う方法でやることになると思うね。ただ、間違いなくドープなものができると思うよ」(マッドリブ)。

 う〜ん、そちらも楽しみ。ディラは他にQ・ティップとのコラボレーションを予定していたり、マッドリブは元KMDのMFドゥームとのユニット、マッドヴィレインでのアルバム・リリースや、本作にも参加したNYの伝説的なMC=パーシーPとのコラボレーションもすでに制作済みとのこと。この2人が、これらの作品によって、どう化けていくのかが、実に楽しみであるし、彼らがアンダーグラウンドとオーヴァーグラウンドの間の壁を完全に崩してくれることを期待したい。

 ▼マッドリブ・ワークスの近作を一部紹介。
ダイヴァース『One A.M.』(Chocolate Industries)
サン・ラーのトリビュート盤『Dedication : The Myth Lives On』(Kindred Spirits)

文/轟 ひろみ

遠く離れても心は……ふたつ。J・ディラとマッドリブのあゆみを、主要ディスクガイドと共に紐解いてみよう その1

 ディラことジェイムス・ヤンシーはウマーの一員として、その〈冷たい〉とも評されたビートで名を上げたが、ジェイムス・ポイザーらと組んだソウルクエリアンズとしては〈温かい〉音をあつらえていたり、そのプロダクションは思った以上に柔軟で振れ幅が広い。これまではインテリな捉えられ方をする機会が多かったものの、ここ最近の単独仕事ではかなりロウで粗雑な部分を前面に出しており、まだまだ見えてない〈素〉があるようにも思える。いずれにせよ、真摯にヒップホップに取り組みつつ、どうやってもその典型にはなりえないのが流石だ。

 片やマッドリブは、〈素〉の見えなさが逆に〈素〉なのだという認知も定着。ダッドリー・パーキンスがジャイルス・ピーターソンに愛されたり、ビートレスやキング・ブリットの作品にMCとして招かれたり、クロスオーヴァーの度合いも深まっているが、ディラ以上にヒップホップという様式に対する無意識のこだわりを感じさせるのも興味深い。

 なお、共に日本での人気も高いせいか、ディラはZOOCOやSHAKKAZOMBIEを手掛けた経験アリ。マッドリブはDJ Mitsu the Beatsに“m.o.o.d. for Otis”を捧げられていて、この後には共演の噂も……ジェイリブならぬミツリブに発展するかも?



 

Q-TIP 『Amplified』 Arista(1999) ほぼ全曲をティップとディラが共同プロデュース。後期ATCQの体脂肪率を下げたようなビートがフィジカルでフレッシュ!! ディラ印のミニマルなベースがツボにジワジワ効いてくる感じ。



 

SLUM VILLAGE 『Fantastic Vol. 2』 Goodvibe(2000) 98年頃に完成していたものの、プロモ音源がブート流出するなどして延期を重ねたスラム・ヴィレッジ初のフル・アルバム。コラプトをフィーチャーした“Forth & Back”などソリッドなファンク色が際立つ仕上がりではあるが、ビートの構造以上に一音の〈音色〉に耳を惹かれる傑作。ディアンジェロを迎えたモロにソウルクエリアンズ調の曲などもグーよ!!



 

A TRIBE CALLED QUEST 『The Love Mo-vement』 Jive(1998) テクノのレコードのようなジャケが雄弁に語るモコモコした音の位相こそがディラ効果。デトロイト好きなら“Find A Way”や“4 Moms”をぜひ。



 

J-88 『Best Kept Secret』 Gr-ooveattack(2000) スラム・ヴィレッジの変名ユニットによる唯一のアルバムで、SVよりはネタ感強め。マッドリブが手掛けた“Get It To-gether”と“The Things You Do”のリミックスも収録……前者はディラの勝ち。後者は五分かな。



 

J. DILLA 『Welcome 2 Detroit』 BBE(2001) ここからジュラ期ならぬディラ期へ。ドゥウェレやカリーム・リギンズら地元の後進を適所に配し、シンプルで真っ黒い音を披露。揺らぎ感は薄らいだが、下品でズルムケた新しいディラ節がキクゼ!!



 

BUSTA RHYMES 『It Ain't Safe No More...』 Flipmode/J(2002) もはやバスタに欠かせない御用達ビート職人となったディラ。ダイナミックな表題曲もカッコイイけど、“What Up”のメカニックなクールネスが駆けめぐる変態ビートは真にプログレッシヴ!



 

COMMON 『Electric Circus』 MCA(2002) 7曲をジェイムス・ポイザーらと共同プロデュース。デトロイト・テクノとスウィング・ジャズが融合した“Soul Power”や、幻想的な“New Wave”のモコモコ揺らぎつつも硬いボトムなんかはあきらかにディラの仕業だ。



 

T-LOVE 『Long Way Back』 Virgin(2003) 4曲のプロデュースを手掛け、ドゥウェレの歌唱をフィーチャーした表題曲をはじめ、主に簡素なループでソウルフルな効果を上げている。シングル曲“Who Smoked Sunshine?”の土臭くも宇宙的な広がりが気持ちいい。



 

SLUM VILLAGE 『Trinity』 Capitol(2002) グループからは抜けたものの、プロダクション面ではもちろんサポートを惜しまない仲間思いのディラ。4つ打ちからデトロイト・ファンクまでを自在に行き交うチンポ……じゃなくテンポの扱いも実にお上手。



 produced or remixed by
J. DILLA aka JAY DEE

文/轟 ひろみ

遠く離れても心は……ふたつ。J・ディラとマッドリブのあゆみを、主要ディスクガイドと共に紐解いてみよう


LOOTPACK 『Soundpieces: Da Antidote!』 Stones Throw(1999) 純粋なラップ作品に限れば、コレがいまなおマッド博士の金字塔か? 安っぽさゆえに拡がったアイデアがSP-1200を通じてズ抜けた野蛮さを表出。ラップも力強い。



 

PEANUT BUTTER WOLF 『My Vinyl Weighs A Ton』 Stones Throw(1999) 所属レーベルのボスであるピーナッツ・バター・ウルフの初アルバム。大物揃いのなかマッドリブはパシリ程度の参加ながら、“Definition Of Ill”シングル化の際にはリミックスで鬱憤晴らし。



 

QUASIMOTO 『The Unseen』 Stones Throw(2000) よくわからん変名を用いたソロ作で、ラッパーとしても本領発揮。近所にカジモトさんという人が住んでいたら、こんな奇人じゃないことを祈るしかないな。翌年出たインスト盤もオモロいぞ。



 

DECLAIME 『Andsoitis-aid』 Landspeed(2001) 後にみずからマッドメンを結成するデクレイムだけあって、マッド対決の序章は上々の仕上がり。と同時に、ここでのマッドリブ仕事がディラの音像を何となく模倣してるのもおもしろい。



 

ZERO 7 『Simple Things Remixes』 Ultimate Dillema(2001) ハマりすぎる組み合わせが揃ったリミックス集にて、博士は“Distractions”をリミックス。YNQ同様のジャズ・コラージュが用いられていて、遠い星からかかってきたイタ電みたいに迷惑。



 

MADLIB 『Blunted In The Bomb Shelter Mix』 Antidote(2003) 趣味丸出しでトロージャン音源から50曲ぐらいを選び、思いつくままにユル〜くミックスしたモックモクLOVEメール……というか、タイトルのまんまの仕上がり。許可したヤツは誰だ! ホメてやるよ!



 

MADLIB 『Shades Of Blue』 Blue Note(2003) ブルー・ノート音源を趣味丸出しで好き勝手に引きずり回したリミックス集的ソロ作。本来とは違う意味でジャジーなヴァイブが感性をほぐしながらズブズブ沈み込んでいくような湯加減がたまりません。許可したヤツは誰だ!(以下略)



 

YESTERDAYS NEW QUINTET 『Angles Without Edges』 Stones Throw(2001) 彼の〈別格感〉を決定づけたマッド博士のジャズ楽団。メランコリックでアブストラクトな小爆発を繰り返す音像が目映いばかりのサイケデリアに姿を変えていくから、ひとりでもさみしくないぜ。



 

YESTERDAYS NEW QUINTET 『Stevie Volume 1』 Stones Throw(2002) ジャケも含めてスティーヴィー・ワンダーをカヴァーした垂涎のインスト作。いまのところお店では買えないので要注意! 間もなく公式リリースされるとのことですので……。



 

WILDCHILD 『Secondary Protocol』 Stones Throw(2003) ルートパックのMC、暴れん坊の初ソロ・アルバム。盟友のマッド博士も半数近くの曲をプロデュースしており、シーンの古株パーシーPを迎えた“Knicknack 2002”のズルムケたパーティー感とか聴きどころ多数。



 

DUDLEY PERKINS 『A Lil Light』 Stones Throw(2003) デクレイムの酔歌を料理したサイケデリアというかサイゼリア。小林亜星ばりに即効性があってクセになる、どうしようもないソウル・トラッシュ。2003年の裏ベスト……聴いてるうちに表になりそうで怖い。



 produced or remixed by
MADLIB

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