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Syrup16g

掲載: 2004/05/13

ソース: 『bounce』誌 253号(2004/4/25)

“My Song”“リアル”といった近作でもって、なにか新しい始まりを予感させてくれたsyrup16g。そんな彼らがいよいよニュー・アルバム『Mouth to Mouse』を届けてくれた。さて、予感は確信へと変わるのか……!?

文/麦倉 正樹




絶対零度のラヴソング“My Song”(2003年12月発表のミニ・アルバム表題曲)の衝撃も醒めやらぬなか、唐突にドロップされたシングル“リアル”。〈圧倒的な存在感/生身の感情の表現/すべての言葉しっぽ巻いて/逃げ出すほどのリアル〉、そして〈本当のリアルはここにある〉と高らかに宣言するこの曲は、syrup16gの新たなる決意を示す〈狼煙〉のようなシングルだった。その決意の内実には、果たしてどんな思いがあったのか。『HELL-SEE』以来、約1年ぶりとなるsyrup16g待望のニュー・アルバム『Mouth to Mouse』――すべての答えは、このアルバムのなかにある。

僕はすごく適当な人間なんですけど……

「やっぱり、“リアル”がアルバムのリード曲になったのがデカかったんですよね。“パープルムカデ”(2003年9月発表のシングル)や“My Song”っていう楽曲の延長線上にあるようなアルバムじゃない……なんかそれとは別のものっていうか、それ以降の〈いまの自分の気持ち〉ってものを出さなきゃ、次のアルバムは絶対にダメだなっていうのは思ってたんです。だから、“パープルムカデ”や“My Song”ももちろん入ってるんだけど、そこに“リアル”が入ることによって、アルバムとしての新しい流れが出来た気がするんですよね」(五十嵐隆、ヴォーカル/ギター:以下同)。

  “リアル”は、まさしくみずからが生み出す〈音楽〉についての歌だった。虚構や幻想、ましてや逃避などではなく、自分が奏でる音楽と言葉こそが〈リアル〉なのだと言い切ってしまうこと。アルバム『Mouth to Mouse』に収録された楽曲は、激しい曲から静かな曲に至るまでのすべてに、そんな彼らの気概と迫力が漲っているのだった。

  「最初、次のアルバムでは、これまでの自分たちにはなかったものを提示していきたいと思ってたんです。なんていうか、自分のなかの適当さみたいな部分をもっと提示していけたらなって。syrup16gって、ちょっとナイーヴでシリアス過ぎるバンドだと思われてるみたいなんですけど、実際の自分はぜんぜんそんな人間じゃなくて……だから、適当さみたいなものを出していくことによって、自分もスッとするんじゃないかなって。で、適当な歌詞をいっぱい書いてみたんですけど……どうも、それでは僕は救われないらしく(笑)。やっぱり、そんなことではいかんのかなと。メロディーとかのニュアンスは絶対崩したくないし、そこで言葉ってものをちゃんと伝えないといけないのかなって……まあ、あたりまえの話なんですけど(笑)。だから、結果として今回のアルバムは『HELL-SEE』のときよりも、もっと生々しいというか、最初に考えていた超適当で無責任な感じ……自分が思ってる〈セクシャル&ヴァイオレンス〉みたいな発想からは、すごく遠いものになりましたね」。

 セクシャル&ヴァイオレンス?

  「そうです(笑)。要するにいままでのsyrup16gに欠けていたもの……女の子とかね(笑)。そういうのないじゃないですか。やっぱり『HELL-SEE』とかを聴いてセクシャルなものを感じるかっていうと、感じないわけで。そこでコミットする人は少ないだろうなって。で、それはもうやったから、今度はその逆をやることによって、自分のなかの適当さっていうか、自分のなかの新しい感覚みたいなものが楽しめるんじゃないかと。でも……そうはなりませんでしたね(笑)。そこは自分のなかのヘンな優等生的感覚っていうか、責任感というか、やっぱり〈もっと言葉をくれ!〉っていう人たちの期待には沿わねばならんみたいな……。僕はすごく適当な人間なんですけど、音楽を通してだけは、ある種正直にっていうか……やっぱり、僕にとって音楽は、他者とのコミュニケーションをとる唯一のツールなんですよね。だから、それを通して僕と関係してくれた人にヘンなことはできないなって。まあ、それが重いっていうのもあったんですけど……でも、そこをなんとか、いつ裏切ろうかって考えながらも、結局自分のなかでギリギリ違和感のないことを言えたっていうのが“リアル”だったんです」。

いまの流れ、いまの自分

 登場以来、その美しく完成されたソングライティングとは裏腹に、みずからの内面に渦巻く偽善や欺瞞を暴き立てるような言葉を歌い続けてきたsyrup16g・五十嵐隆。しかし、彼にとって音楽とは、なにも鬱屈した思いを吐き出すための手段などではなく、自分に残された最後のコミュニケーションとして機能するような、なによりも崇高で美しいものであったのだ。内面に渦巻く厭世的な思いを誤魔化すことなく、自分にとって嘘のないギリギリの〈リアル〉を誠実に言葉に換えてゆくこと。syrup16gは本作において、まるでヘドロの中で砂金を掬うかのように、希望や夢、そして未来さえも、みずからの〈リアル〉な音楽によって掬い出そうと試みるのだった。
新たなステージへと突入したsyrup16gのニュー・アルバム『Mouth to Mouse』(REBELS)

「これまで、自分の感情みたいなものを切り取る、ってことをやってきて、そのなかでいちばん不得手としてきたのが、前向きさとか希望みたいなものだったんですよね……。そういうものに手を染めた時点で、自分の作品が薄くなったりするんじゃないかっていう。聴いてくれる人からも〈ウソツキ!〉とか言われるんじゃないかって。だから、そう言われないために、“希望”とか“夢”とか、そのものズバリをタイトルにして、それに対して〈俺はこう思う〉みたいなことを正面からちゃんと言い切ろうと思ったんです。だから、今回のアルバムには『HELL-SEE』みたいな狂気はないかもしれないですけど、“リアル”や“夢”や“希望”って曲を書いても、そんなに罪悪感がない自分がいるんで、それでなにか言われたり石とか投げられたりしても、そんなに痛くないだろうなっていう気持ちになってるんですよね。まあ、もう30歳になっちゃったんでね、10代のころの情熱とかリビドーみたいなものはやっぱり薄くなってるので、そこに対して突っ込んだ部分っていうのは薄れてるのかもしれないけど……でも、自分の人生はそうやって流れてきちゃってるんでね。それに沿ったものをやってかないと、それはそれで作品を薄くする行為なんじゃないかなって思うんです。だから、トータルで考えて、人間はこうなっていくっていう、ひとつのモデルケースにはなってるんじゃないですかね(笑)。人間ってものは、結局最後に夢とか希望とか、そういう救いを求めてしまうんだっていう……その、すごく絶望的な感じをね。〈そんなの関係ないぜ! 俺は30歳で死ぬぜ!〉っていうのじゃない〈リアル〉を、今回のアルバムで提示できたんじゃないかなと。それはもう、〈ロックンロール〉じゃないのかもしれないけど、自分のなかで〈ロックンロール〉であれば、それはそれでいいんじゃないかなって。だから今回のアルバムは、完成度とかとは違う意味でのマスターピースになったとは思うんです。いまの流れっていうか、いまの自分っていうものに辿り着くまでの作品にね」。

 爆発寸前の狂気を真顔で歌う〈ダーク・ヒーロー〉としてではなく、日々やるせない無力感や絶望に苛まれながら、それでも明日を夢見てしまう、ひとりのあたりまえの人間として、誠実に音楽を奏で歌うこと。聖なる音楽と俗物たる自分の間で引き裂かれ続けてきたsyrup16gが、ようやく辿りついたひとつの真実。本作に収録された楽曲が、これまでのsyrup16g以上に力強い輝きと美しさを放っているのは、なにも偶然ではないのだ。

文/内田 暁男

syrup16gの銀盤たちをおさらい!

『COPY』

DAIZAWA/UKプロジェクト(2001)
初期クリエイション的な気怠いメランコリアとニルヴァーナ以降のささくれだったオルタナティヴ精神を纏ったファースト・フル・アルバム。独特のコード感を持ったリフとその上に描かれる印象的なメロディー。そしてそれを豊富な音楽言語で裏付けるバンド・アンサンブル。五十嵐隆の類い稀な才能は本作ですでにあきらか。



 『coup d'Etat』

トライアド(2002)
当時、五十嵐が「ギター、ベース、ドラムスだけでできることはまだまだあると提示したかった」と語った本作は、ときに実験的ですらある3ピースのアンサンブルがさらに意外性を増している。とくにメロディー楽器としてのベースが有効的で、ヴォーカルのブチ切れ具合もスゴイ。過激な詞世界はある意味ショック療法的なものとも思われる。



 『delayed』

REBELS(2002)
『coup d'Etat』の3か月後にリリースされた本作は、デビュー前に書き溜めてあった楽曲をまとめたというもの。サイケデリックで甘美なメランコリアが全編を覆い、希代のメロディーメイカーとしての五十嵐の才能を確認できると同時に、オルタナティヴ性を強めていくことになる彼の出発点に、こんなにも優しく詩情に溢れた世界があったことに驚く。



 『HELL-SEE』

REBELS(2003)
前作『delayed』から半年後という短期間ぶりも相まって、その早急すぎるリリースに狂気じみたものを感じずにはいられないわけで、おそらくもっとも〈逆ギレ指数〉の高い内容。思いつきをそのまま焼きつけたようなアレンジにもヴァリエーションがあるのは、音楽的身体能力の高さゆえか。なんとなくニルヴァーナの『Incesticide』を思い起こす。

文/久保田 泰平

おまけインタヴュー! 五十嵐隆の人生、その傍らにあった音楽をプレイバック!

――まずはベタな質問ですけど、物心ついて最初に反応したと思われる音楽って何ですか?

 「ずっと恥ずかしくて言えなかったんですけど(笑)……ユーロビートって呼ばれる前のユーロビートとでもいうか。デッド・オア・アライヴとか、そういった感じの音楽を好んで聴いてましたね。小4とか小5ぐらいかな。最初に買ったレコードは……風見慎吾の“涙のtake a chance”だったんですよ(笑)。のちのユーロビート好きにも繋がるんでしょうけど、イモ欽トリオとかYMOみたいな音が好きでしたね」

 ――親が好んで聴いている音楽に影響を受けた、っていう例もありますけど……。

 「親は、ぜんぜん音楽好きじゃなかったな。そのくせ、ステレオだけは良いのがあって。だから、学校が終わったら、帰って音楽を聴くのが楽しみでしたね。部活とかはね、〈残業〉ってイメージがあって。6時間目終わっても、まだかよって感じ(笑)」

 ――自分で選曲したカセットテープ作ってみたり?

 「もう、それが楽しくて。いまだにやってますから。実家に帰ると、ダビングしたカセットテープが何千本ってありますね。ダブル・カセットとかでダビングしてたから、劣化した、ほぼ中域しかないようなノイズ混じりのモコッとした音で。でも、あの音が好きで、『HELL-SEE』を作るときも、そういう音がいいなあって思ったんですよね。

 ――そういった編集テープを女の子とかにもあげたりとか?

 「ええ(笑)。でも、いま考えるとすごく恥ずかしい。シカゴとか……バラード系はわりと受け入れられましたね(笑)。当時はAORみたいなコンプがかかったギターの音とかがすごく好きで、TOTOとかクリストファー・クロス、REOスピードワゴンとか聴いてましたね。syrup16gをやり始めたころは、AORを3ピースのギター・バンドでやった感じでしたから」

 ――そのころは、いかにも〈ロック〉な音はあまり聴いてなかったようですけど、その後〈ロック〉として認識した音楽というのは?

 「ポリスとか……ニューウェイヴですかね。スミスも好きでした。メロディーが曖昧だったんで、いいと思えるようになるまでには時間がかかったんですけど。ギターが歌っちゃってるというか、ジョニー・マーのギターはすごく大好き。もちろん、モリッシーの声もすごく好きで、ソロになってからの作品も好きで聴いてましたね。あと、プリンスは別格に好きでした」

 ――日本のアーティストで好きだったのは?

 「唯一シンパシーを感じていたのは、バービーボーイズ。音がスカスカなんだけど、ギターのいまみち(ともたか)さんはスミスとかポリスとか好きなんだろうなって。ポップじゃなかったりする曲もあるんですけど、バンドとしておもしろいなって思う」

 ――自身がバンド活動を始めたことによって、日本のアーティスト、それもバンドへの興味も強くなったのでは?

 「そうですね。エレファントカシマシとか……よく言われるんですけど、僕と宮本(浩次)さんは、タイプこそ違うけれど人種は同じだって。それから、ナンバーガールやZAZEN BOYS、bloodthirsty butchers……バンド以外では、KICK THE CAN CREWですね。メンタリティーとか僕とはぜんぜん違うんですけど、ぜったい80'sの洗礼を受けてる人たちでしょうし、洋楽の泣きの部分を知っている人だと思う。80'sの泣きの部分に共感するところが大きくて、言葉遊びとかもダイレクトにやれて、すごく前向きなことも言えるし、憧れも含めて大好きなんですよね」

 ▼ジャケット掲載順
デッド・オア・アライヴの85年作『Youthquake』(Epic)
風見慎吾“涙のtake a chance”収録のコンピ『青春歌年鑑 '85 BEST30』(ポニーキャニオン)
シカゴの82年作『Chicago 16』(Full Moon)
TOTOの82年作『TOTO Vl』(Columbia)


ポリスの83年作『Synchronicity』(A&M)
モリッシーの94年作『Vauxhall And I』(Sire)
プリンスの86年作『Parade』(Paisley Park/Warner Bros.)
バービーボーイズのベスト・アルバム『BARBEE BOYS』(エピック)


エレファントカシマシの最新作『扉』(東芝EMI)
ZAZEN BOYSの最新作『ZAZEN BOYS』(MATSURI STUDIO)
KICK THE CAN CREWの最新作『GOOD MUSIC』(ワーナー)

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