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福富幸宏

掲載: 2004/11/11

ソース: 『bounce』誌 259号(2004/10/25)

ハウス、クロスオーヴァー、ジャズ……いくつもの形容を得ながらも、一貫してフロア・ミュージックを生み出し続けてきた福富幸宏。待望の新作がついに完成!!

文/若杉 実




〈職人、福富幸宏〉――ついそんな呼び方をしたくなるDJ。もちろんこっちの勝手な見方だけど、「あんまり器用じゃないんで……」と謙遜しながら新作『equality』に言及するあたり、やっぱ職人肌じゃないかな。本当に不器用なら自分からは言いません。昔から変わらぬスタンスでやってるところにも、堅牢なイメージをこちらに抱かせるものがある。近年はクロスオーヴァー系からの信頼も絶大ながら、福富の根幹にあるのはNYハウスを枢軸にしたダンス・ミュージックだ。

  「ダンス・ミュージックって〈踊れればOK〉という自分なりのルールがある。当たり前なんだけど、でも最近の12インチ・シングルは踊れないものも多いじゃないですか。すごくスロウなものとか、ビートがヨジれてるものとか」。

 まったくもって同感。踊るに踊れないあの寸止め感、ちょっとイラつきません? ところでここでの話は、3年ぶりの新作『equality』について。その3年間、プロデュースやらリミックスやらミックスCDやらでなにかと引く手あまたの福富だったから、〈そんなに経った!?〉というのが世間での相場なのでは。しかしそんな空白を補って余るほどの課外ワークスが、ある意味ここでのカギにもなっていたりする。ずばり〈equality〉の意味を訊きだしてみることに。
福富幸宏のニュー・アルバム『equality』(ファイル)

「辞書を引くと〈対等〉とあるけど、ここでは音楽の〈等価性〉を意味してるんです」。

  〈BPM125〉に全体が統一(ここも今回のポイント)されてるぶん、上モノに引用される素材の豊富さが逆にコントラストな形で明確にされていて効果的――というのが新作に対する筆者なりの見解だ。ではその素材、今回はどんなところから調達しているのだろうか。

  「具体的にドコというものでもないんですよ。もちろんDJもやってるから周りの動きにはそれなりに敏感でいるし、制作にもそういうものが少なからず反映されてるだろうとは思いますが。でも聴く耳を持つのはどっちかっていうと、作品を出したときに戻ってくるリアクションのほうかな。ヨーロッパのジャズ系からの好反応があると、けっこう見逃しませんね」。

 で、それを集約してるのがタイトル曲“equality”だとか。

  「最初に手掛けたトラックという意味でもね。例えば西ロンの音を聴いて、同時にフェラ・クティを聴いて、さらにアート・アンサンブル・オブ・シカゴを聴いて、ファンク期のマイルスとかUSハウスも聴いて、そういうのが渾然一体となって……」。

 ……できた??? 普通の人なら、ここでアタマのなかに知恵の輪を描いてしまうはず。でも最終的には、福富流〈equality〉を媒介に具現されたものと考えれば、こちらの見方も着地に困らない。だから今回、イザベル・アンテナに唄わせている曲もあったりするが、これが往年のクレプスキュールを思い浮かべてしまうと大いにコケる。原体験した〈元祖コジャレ系〉は要注意。

  「いわば僕流ネオアコですよ」。

 そんなアンテナを筆頭に福富の交友録をドバッと反映させながら、世界各国のシンガーを客演させているという点もここでの特徴だ。

  「それがまさに〈equality〉。USの黒人とスウェーデンの白人とフランスの女の子が一枚のCDに入っていて、なおかつ統一感も出せた」。

 思えばこういう人選感覚って、実に日本人っぽい。日ごろの福富のプロデュース術すらよく現れている。でもその引き出しの多さは、どちらかというと自分名義の作品では抑えてませんか。

  「他人をプロデュースするのと自分の作品とでは住み分けがハッキリしてるんです。主人公のアイデアが絶対のところで成り立つのが僕のプロデュース。和食の料理人なら自分の店のメニューにオムライスはないけど、要望があればオムライスも作りますよって感じ。でもいいのかな、〈オムライス〉で(笑)」。

 福富さん、いいと思います。なにより『equality』の隠れキーワードには〈日本人〉があると確信を得たから。そういうお箸の国のDJが作る洋定食メニューの王道のような自然体のカッコ良さが、このアルバムにもあるんじゃないかな、きっと。

 ▼福富幸宏の近作を一部紹介。
2000年作『On A Trip』(cutting edge)
2001年作『Timeless』(cutting edge)
2002年作『Love Each Other』(King Street)



 ▼福富幸宏の関連作品を紹介。
福富が参加したJAFROSAXの最新作『JAFROSAX』(コナミ)
福富、沖野好洋、坂尻憲治、野崎良太によるミックスCD『INSPIRATION』(徳間ジャパン)
11月10日にリリースされる最新ミックスCD『The Crossing』(flower)


文/池谷 修一

『equality』参加メンバーのセレクトから見える、福富幸宏の現在のヴィジョン

 ソウルフルで黒くって、文字どおり〈ミュージカル〉。そして先端をいくクラブ・サウンドの成果が血肉化された作品。福富幸宏の新作『equality』はそんなふうに紹介できる。また、長年自由な立場で音作りを追求してきた福富が、はっきりとした意図を持ってゲストの魅力を活かしきった作品だともいえる。ここでは参加した面々に触れつつ、今の福富の志向するところを追ってみよう。まずはイザベル・アンテナ。ニューウェイヴ世代には懐かしい名前だ。80年代初頭、彼女を中心としたグループ、アンテナはボサノヴァを取り込んだエレポップの種子を蒔いて、今のクラブ・サウンドのひとつの原型を示した。だから同じくあの時代に活動を始めた福富が、ハウスを経由してブラジル音楽を取り込んだ音を作るのもわかる気がする。一方、この方面での今の声の主役、ヴィクター・デイヴィスの起用にも注目。ブロークンビーツ調サンバに乗った実にセンシティヴな歌声が出色だ。ブラジルとハウス、またはジャズとの密なる関係。これは今の福富のなかで不可分なのだ。そのバックボーンが、〈ソウル〉への熱い希求なのだと思う。もともと福富作品は黒いが、洗練された音の表情からかその部分はこれまでさほど指摘されなかった。が、新作は〈濃さ〉が違う。クロスオーヴァーのディーヴァと囁かれるレディ・アルマのパワフルな喉、ギル・スコット・ヘロンを彷彿とさせるリッチ・メディーナのディープなリーディングはその代表だ。その一方で、〈ミュージカル〉な充実具合も聴き逃せない。吉澤はじめの流麗な鍵盤、またorange pekoeとはひと味違う藤本一馬のファンキーなギターに代表されるように、これまで以上にふんだんに生演奏を散りばめているのも福富の今の志向がよく反映されているところなのだ。

 ▼文中に登場したアーティストの作品。
イザベル・アンテナのベスト盤『L'Alphabet Du Plaisir』(Crepuscule)
ヴィクター・デイヴィスの2003年作『Hoxton Popstars』(People)
レディ・アルマとリッチ・メディーナが参加したキング・ブリットの2003年作『Adventures In Lo-Fi』(Rapstar/BBE)


吉澤はじめの2002年作『Hajime Yoshizawa』(ユニバーサル)
orange pekoeの最新作『Poetic Ore; Invisible Beautiful Realism』(BMGファンハウス)

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