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コーネリアス

掲載: 2002/06/27
更新: 2003/03/07
「自分内ブーム」を超えた新世界へ──コーネリアス

以前は生活の中で音楽が常に鳴っている状態だった。 いまは鳴ってないときがあって、鳴ってるときがある、という感じになってきた。

文/川崎 和哉



 オリジナルアルバムとしては通算で4枚目、実に4年ぶりになるコーネリアスのアルバム『Point』がリリースされた。


 その印象を端的に表現するなら、厳選された素材を使って無駄なく組み上げられた、家具のような音楽、といったものであった。前作『ファンタズマ』において既に見られた傾向ではあるが、その音楽は従来的なポップスのフォーマットを逸脱し、音のファブリックそのものや、その配置によって生れる空間を体験させる方向へと歩を進めていた。素材は日常的なリアリティの中から選ばれているのだが、目の前に広がるのは、これまでになく「たおやかさ」を感じさせる繊細で美しい新世界だ。

 この音楽に、もはやかつての小山田作品のようなリファレンス(参考文献)・リストを付けることは難しい。が、あえて挙げるならカエターノ・ヴェローゾの名前は唐突だろうか。音楽的にカエターノのスタイルを模倣しているという意味ではないのだが、音に対する感受性という意味で、ある種のブラジル音楽を思い出させるところがある。


 詮索しても切りがない。とにかく本人に訊いてみよう。コーネリアスに会ってきた。

音数が少なくても、鳴るべき場所で鳴っていればそれでいい

 ──こういうインタビュー、久しぶりじゃないですか。


 そうですね。すごい久しぶりかも知れない。

 ──前のアルバムからずいぶんブランクが空きましたけど。

 うん、でもリミックスとかの仕事が多かったから、暇な時間はそんなになかったけどね(笑)。僕自身あんまり「久々に出す」って感じでもないし。

 ──じゃあ、自分の中にたまってた「やりたいこと」を詰め込んだ作品、という感じでもないんですか。

 レコーディングはいつもやってたんで、そういうフラストレーションがたまることはなかったですね。『Point』のレコーディングも1年以上やってたし。

 ──今回はドラムの音とアコギの音が特に印象に残りました。音の質感はもちろんですけど、どの位置・どのタイミングで、なにを鳴らすのかということにも細心の注意が払われていて、ある意味、シンプルで優れた家具のような音楽だと思いました。本人としてはいかがです?

 うん。そういうのはあるかも知れない。『ファンタズマ』を出した後、もっと音を整理したいなっていう気持ちが出てきた。『Point』を作る時は、音数が少なくても鳴るべき場所で鳴っていればそれでいいっていう姿勢があったかな。

コードの数がすごい少ないんだけど、その中でいかにメロディーを作るかに興味があった

 ──『ファンタズマ』と比べると歌の比重がかなり減りましたね。歌のスタイルも、従来的なポップスの様式、つまり、メロディーがあってそこに歌詞が乗るというものとは違ってます。


 歌ってる時間は『ファンタズマ』とそんなに変わんないんだけど、ただ、歌の入れ方というか、使い方が変わってるというのはあるかな。
音全体の中で、人間の声が他のトラックと変わりなく有機的に絡んでる感じにしたかった。と言っても、「声も楽器のひとつ」という意味じゃなくて。人間の声って、言葉を歌うと意味が出てくるから、やっぱり楽器とは違う面白さがあると思うし。そういうことも含めて、有機的に絡んでる感じにしたいな、と。

 ──すごく卑俗なレベルから言えば、今までのアルバムには少なくともカラオケで歌える曲が何曲か入っていたけど、今回は歌えそうな曲がない。コーネリアスというアーティストはもうそこまでイキ切ってしまっていい、と。

 んー、カラオケでもひとりで歌うんじゃなくて、3人くらいで合唱みたいにすると歌えないこともないじゃないですか(笑)。ボーカルを重ねて入れたりしてるから、そういう楽しみ方もあるんじゃないかな。

 ──なるほど(笑)。ただ、かつては、歌詞らしい歌詞があって、歌らしい歌の体裁をとっていたじゃないですか。でも、『Point』ではもはや、作り手としての興味がポップスの手法ではなくて、音のテクスチャーやその配置や編集といったものに移行してしまっているようにも思えるんですが。

 でもね、歌詞なんかは実は最初の頃よりも興味はあるかな。
分量的には減ったけど、音との絡みでなにかを伝えることとか、できるだけ余計なことは言わないでシンプルに選りすぐった言葉で相手に伝えようとしているから。以前よりも全然考えて作っていると思う。
それに、音のテクスチャーにも興味はあるけど、音楽ってそれだけでもないと思うから。例えば、「AメロがあってBメロがあってサビ」っていうポップスの基本型に従ってるからって、必ずしもメロディーに興味があるってことにはならないでしょう。今回はコードの数がすごい少ないんだけど、その中でどういう順番で和音が重なっていってメロディーを作ることができるかっていうことに興味があったし。
単純に、歌詞の分量が減ったから、メロディーがポップス形式じゃないから、興味を失ったってわけでもないんですよ。

 ──レコーディングは1年かかったって言ってましたけど、比較的ゆったりしたペースですよね。

 今回は作曲してレコーディング、その後にミックスする、っていう形じゃなくて、ミックスも含めて作りながら進めていった。それと、わりと余裕を持ってやりたいな、と思っていた。『ファンタズマ』の時は外のスタジオで録音してたから日程に制限があって、「残り何時間で作らなきゃ」とか、とにかく時間に追われてたのがキツかった。今回は自分のスタジオがあったから、そういう部分で自由にやれたかな。
脱線も好きなようにできるし、家からもちょうどいい距離だし、お腹が空いたらご飯を食べればいいし、眠くなったら帰れるしね。

以前は自分内ブームに結びついたものを作っていた。いまはそういうことがあまりなくなった


 ──実際に「Brazil」ってスタンダード・ナンバーが入ってるせいもあるんでしょうけど、どこかしらブラジルの音楽を連想させるところもあったと思うんですが。


 「Brazil」は、ホンダの2001年の正月のCMでロボットの「ASIMO」が出るやつがあったんですが、その音楽を頼まれて、「この曲をアレンジしてくれ」って言われて作ったんです。それが面白かったから、今回フルサイズで作ってみた。

 ──ブラジル音楽はお好きなんですよね?

 ブラジル音楽は前から好きだったんだけど、この「Blazil」を作ったときはブラジル音楽が自分の中で盛り上がっていたってわけでもないんですよ。この歌はノスタルジックな歌というか「昔のブラジルに帰りたい」という内容らしいんですけど、2001年にロボットが「昔のブラジルに帰りたい」って歌うっていうのが面白い。
 CMを作った人がこの曲を選んだのは、映画『未来世紀ブラジル』の中で印象的に使われてたからだと思うんです。あの映画では文明社会に対するアンチテーゼっていうような意味合いでこの曲を使ってたと思うんだけど、実際にロボットを作ってる企業がそんな曲を使うのが面白いなーと。

 ──そうでしたか。今回のアルバム全体が、とくにアコギの音を聴いてるとカエターノ・ヴェローゾなんかのニュアンスに近いような気がしたもんですから。

 カエターノっぽい感じっていうのはなんとなくわかります。ブラジル音楽ってアコギでリズムを作ってる曲とかあるじゃないですか。ボディの音とか弦のタッチの音で。そういう部分は割と近いのかもしれないですね。

 ──でも、とくにブラジル・テイストを入れようというような考えはなかったと。

 そうですね。『ファンタズマ』の頃までは自分の中のブームみたいなのがあって、そういうものと結びついたものを作ってた感じがあったんですけど、今回はそういうのがあんまりなかったかも知れない。

 ──若いときはいつも自分のヒーロー的な人がいて、その人に自分を重ねたりするでしょう。いま、コーネリアスにとってのそういう存在はいますか。

 そういうのはだんだんなくなってきてる感じがするかな。ふつうに今でも好きな人はいるけど、若い頃みたいに憧れに近い感覚で「この人が好きだ」って言える無邪気さはなくなってきてるのかもね。

 ──その意味では、『Point』は、これまでよりも「素」の自分が表れてるって言えるんじゃありません?

 僕、すごいレコードとか好きで(笑)、前はバカみたいに買ってたんだけど、そういう感じはあんまりなくなってきたかも知れない。
前は音楽が常に鳴っている状態だったんだけど、今は鳴ってない時があって鳴ってるときがある、という感じになってきた。

「子供のための曲を作ろう」とは考えなかったけど、でも子供が生れたことの影響は受けてると思う

 


 ──そういう生活環境みたいなものとか、余裕のあるレコーディング環境といったことが、今回の音に反映してると思います?

 その時の環境とか気分は音に影響してくると思いますよ。体調とかも関係してくるし。これを作ってるときもぜんぶがリラックスして調子よかったわけでもないし、普通に暮らしててもテンパってる感じのときはけっこう多いし、そういうことがぜんぶ悪いわけじゃないんだけど、今回はよけいなプレッシャーがない状態でやりたいな、とは思ってましたね。

 ──鳥の声とか虫の声とか犬の遠吠えとか、フィールドの音がたくさん入ってましたが、そのへんの力の入れ具合というか抜け具合もこれまでと違うのかな、と感じたんですけど。

 あの「アオーン」っていう犬の鳴き声に関しては日本っぽいというか、夕方っぽいと言うか、ウナギイヌみたいな(笑)、そういう感じなんですけどね。

 ──ええ、あれは狙ってるな、と思いましたけど(笑)。

 僕も自分で作ってて笑いました(笑)。
なんか、こう『ファンタズマ』だと空想とか夢っぽいというか、ちょっとボーっとしてる感じってあったと思うんだけど、今回は入り口が「こっちの世界」みたいな感覚はありますね。鳥の声とか犬の声とかはわかりやすいじゃないですか。イメージも具体的だし。そういう入り口がちゃんとある感じですかね。

 ──結婚して子供が出来ると、独身のときとはやらなきゃいけないことが変わったりするじゃないですか。そういうことは関係している?

 そうだね、それはあるね。「子供が産まれたから子供のための曲を作ろう」とかは考えなかったけど、でも影響はやっぱり受けてると思う。
単純に休みの日の過ごし方が変わったりしてるし。例えば、前だったら休みの日にはどっか遊びにいったりしてたんだけど、今は子供を連れて公園に行ったりする。前は公園なんか行っても楽しめなかったと思うんだけど、今はふつうにそういうのを楽しめるようになってる。ひとりだと別に行ってもやることがないけど、子供を連れていくとそこにいる権利があるというか。遊んでみたらけっこう楽しかったりする(笑)。

 ──これから、子供をダシにしておもちゃを買ったりできますよ(笑)。

 そうそう(笑)。子供が欲しがってるからって言って自分が欲しいものを買ったりね。

 ──最近聴いた盤で面白かったものがあったら教えてもらえますか。

 最近衝撃だったのはねー、ASA-CHANG &巡礼 の『花』(笑)。あれ聴いた? あれはすごかったねえ。聴いた後になんの言葉も出てこない。「ズドーン」とくる感じがありましたね。

 ──一時期仕事場で聴いてましたが、仕事になりませんでした(笑)。

 あとは砂原(良徳)君の『Lovebeat』もすごいよかったな。最近リミックスをやったんだけど、Avalanchesの『Since I Left You』もよかった。夏の歌って感じで。それと、ジャネット・ジャクソンの「Someone to Call My Lover」が好きなんですよ。





コーネリアス/Point



「I HATE HATE」QuickTime Movie(1648k)
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Cornelius-sound(オフィシャルサイト)
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