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Jack Johnson

掲載: 2005/03/10
更新: 2005/03/24
ソース: 『bounce』誌 262号(2005/2/25)

〈ミスター・グッド・ミュージック〉を育んできた音楽的ルーツとは? その答えは、より深みを増したニュー・アルバム『In Between Dreams』のなかにある!!

文/岡村 詩野




この人がデビューしてきたとき、よもやここまでの人気を獲得することになるとは、一体誰が予想していただろう。新たな世代のシンガー・ソングライターとして、一部の熱心な音楽ファンにはそっと愛されるに違いない、という確信はあったものの、来日公演が実現したり、〈フジロック〉に出演したり、彼が手掛けたサーフィン・ドキュメンタリー・ムーヴィー「ザ・セプテンバー・セッションズ」などが日本でもDVD化されたり……なんてこと、2000年にインディーのエンジョイからファースト・アルバム『Brushfire Fairytales』がひっそりと発表されたときには、その作品を入手したおそらくほとんどの人が考えもつかなかったに違いない。

〈心を暖かくする〉アルバム

 あれから5年、ギター片手にゆらゆらとたなびくようにビートを刻んで歌をくゆらせるジャック・ジョンソンが、通算3枚目となるオリジナル・アルバム『In Between Dreams』をリリースした。基本的な作風は変わらないが、過去2作より楽曲のレンジの拡がりと表現力のアップが窺える、いわば、ミュージシャンシップの高い作品になっているのが大きな特徴だろう。

  「実はつい最近、『On And On』をよく聴いていたんだ。っていうのも、僕には1歳になる息子がいてね、彼は歌と踊りが大好きだから、試しにこのあいだ『On And On』を聴かせてみたんだ。〈お父さん〉の声がわかるかどうかもちょっと試してみたかったしね。息子といっしょに久しぶりにあれを自分で聴いてみて、改めて良いアルバムだなぁって思ったよ。で、今回のアルバムのヴィジョンは、最初に書いた5曲“Better Together”“Banana Pancakes”“No Other Way”“If I Could”“Constellations”にあったんだ。共通点は〈心を暖かくする〉ということ。物事は時にアップ・ダウンの繰り返し、人生は時に幸せで、時に不幸で……みたいなテーマかな」。

 レコーディングは昨年10月にスタート。「出来たての雰囲気を出すため」意図的に時間をかけ過ぎないよう仕上げたという。録音場所は、お馴染みハワイはオアフ島にジャック自身が所有する〈マンゴ・トゥリー・スタジオ〉。プロデューサーも前作同様、ブラジル在住のマリオ・カルダードJrで、スタッフ/メンバー周辺もほとんど変わっていない。
日本先行でリリースされたばかりのジャック・ジョンソンのサード・アルバム『In Between Dreams』(Brushfire/Universal/ユニバーサル)

「マリオは本当にユニークなアイデアをたくさん持っているんだ。僕のヴォーカルを録るときも〈マイクに思いきり近づいて歌って〉とか驚くようなことを言ってみたりして、とにかくすごく発見が多い。それに、僕ら自身、ツアーを多くやってきているからすごくリラックスしてレコーディングに挑めたんだ」。

 それにしても、なぜ彼の音楽がここまで多くの人に受け入れられたのだろう、と考えてみる。“Better Together”や“No Other Way”といった、本人も認める本作のカギとなった曲などを聴くと、まるで彼自身のフレンドリーな性格を反映させたような暖かな歌に心が溶けていく。そうした側面が、いわゆる〈和み〉的なニュアンスを伝えているのは否めないだろうし、サーフ・ミュージック、すなわち波乗りたちの〈BGM〉として愛されているのも事実だろう。だが、彼の音楽の根底にはブルースがあり、フォークがあり、あるいはスラックキー・ギターやウクレレのプレイも取り込む音楽家としてのエゴも備わっている。つまり、人としての温もりとアーティストとしてのエゴ。その中間でゆるやかに漂うことが、この人のアイデンティティーなのではないかと思う。

  「僕の曲には2つの世界があるんだ。パーソナルな世界とソーシャル(社会的)な世界。僕が音楽の世界で成功している理由の一つは、メロディーもしくはサビの、いっしょに歌える部分を作るとき、人々の〈身近〉を感じさせるよう意識している点だと思う。たとえば家族や友達を招いたバーベキュー・パーティーがあるとするだろ? みんな食べ終わったころにアコースティック・ギターを持ち出してジャムる。すると突然いいフレーズが思い浮かんだりする。それがシンガロングに最高なフレーズだったりするんだ。そのフレーズを家に持ち帰って、必ず一人のときにじっくり調理していく。それが僕のパーソナルな世界が出るときだね」。

〈ジャック・サウンド〉の2大要素

 音楽をフィーリングで楽しむ人たちにも、コアな音楽ファンにもアピールできる包容力を持っているのがジャック・ジョンソンの魅力であるとして、では、そんな彼の音楽に個性を与えている2大要素はなにかといえば、やはりそのヴォーカリゼーションとギタープレイだろう。ジャック・ジョンソンがデビューしてきたときエリオット・スミスを思い出した、という人も少なくないだろうが、その柔らかくフェミニンな歌い回しは『In Between Dreams』でも一際輝きを増している。気候の温暖なハワイに暮らしていることも彼のそんなヴォーカルの特徴と無関係ではないのかもしれないが、意外にも長い間、彼は自身の歌にコンプレックスを抱いていたという。

  「正直言うとね──決していまはそんなことはないけれど──前までは自分のヴォーカルにまったく自信がなかったんだ。作詞・作曲という意味では自信があったけどね。いまの立場になるまで一度だって自分が歌手になるなんて夢にも思っていなかったから、たとえば声など大事にしたことも気にしたこともなかったんだ。でも、僕はジミ・ヘンドリックスとかボブ・ディランが大好きなんだけど、彼らは決して究極の美声を持っているわけではない。なのに、印象深く個性のある声だよね。いまでは、僕もそうなれればいいなと思っているよ。やはり独自のスタイルは大事で、僕の場合はリラックスしてナチュラルな自分を出すってことを大切にしている。それがファンに受け入れてもらえているのかも知れないな」。

 そして、ギタープレイ。ジミ・ヘンドリックスのギターが好きという彼だが、たとえば新作のなかだと“Good People”のようなブルース・マナーを出した曲はあるものの、空気含有率が高そうなライトなタッチのカッティングはハワイのスラックキー・ギターの奏法を模したものだ。

  「そう、トラディショナルなスラックキー・ギタリストのプレイには影響されているよ。なぜスラックキー・ギターが好きかというと、自然を代弁するメッセージみたいなものだからなんだ。だから、スラックキー・ギタリストと共演するのも好きだよ。ハワイアンのカヴィキ・カキアポっていうミュージシャンに言われたことがあるんだ。〈君の音楽はスラックキー・ギターを重ねて初めて完成するんじゃないか?〉ってね。彼とはこないだいっしょにセッションしたんだけど、彼が僕の歌の上にトラディショナルなスラックキーのギターを重ねてくれたんだよ。最高の音色、そしてハーモニーでね。僕にとってハワイアン・ミュージックはとても身近なものなんだ。たとえば車の運転中、いつもローカルのラジオ局でハワイアンを聴いているし、両親は僕が子供の頃からハワイアンのレコードを家でかけていた。思えば僕のまわりには常にハワイアンとサーフィンがあったね。楽譜が読めて〈調和〉のなかで音楽が奏でられる人が真のミュージシャンと呼べるのかもしれないけど、楽譜さえ読めない僕の音楽を聴いて気持ち良く踊ってくれる人もいるし、だから僕がやっているそれはやはり音楽といえるモノであり、まぎれもなくミュージシャンの奏でる音楽なんだと思うよ。のんびりしてはいるけどね(笑)」。

 確かに、ジャック・ジョンソンの音楽は特有の時間軸のもとに流れているように聞こえる。そこだけ時間の経過が遅いような、スロウモーションで動いているような、そんな生活のなかに彼の音楽は息づいているのだ。

  「そういうマイペースな気持ちで音楽に向かっているのには、実は医学的な裏付けがあるんだよ。今日、病院に行ったんだ。耳鼻科。サーフィンで耳をやられちゃってね。で、病院で血圧を計ったんだけど、先生は言ったよ。〈君は通常よりかなり低血圧だし、脈拍が遅い〉ってね(笑)」。
▼ジャック・ジョンソンの関連作を紹介。
2001年作『Brushfire Fairytales』(Enjoy)
2003年作『On And On』(Moonshine Conspiracy/Universal
Gラヴやドノヴァン・フランケンレイターとのデュエットが収録された2004年のコンピ『Tropicalize - Volume One』(ユニバーサル)


文/岡村 詩野

マイペースに広がるジャックのミュージック・コネクション

 Gラヴやベン・ハーパー、ドノヴァン・フランケンレイターといったアーティストとの親交で知られるジャック・ジョンソンだが、彼がほかに愛聴しているミュージシャンの作品にはどういうものが挙がるのだろうか。

  「ここ最近で影響を受けたのはグレッグ・ブラウン。メロウないい曲を書くんだ」──グレッグ・ブラウンは80年代前半に活動を開始し、これまでですでに20枚以上の作品を発表しているアイオワ出身のシンガー・ソングライター。アクの強いタイプではないが、コンテンポラリーともいえる洗練された歌が魅力だ。もちろん、ボブ・ディランやニール・ヤング、ジョニー・キャッシュといったところからの影響も認めているが、それ以上にいまハマっているのがM・ウォードというから嬉しい。昨年秋に来日公演を成功させたばかりのM・ウォードは、新作『Transistor Radio』もリリースされたばかりだが、ジャックとは意外な繋がりがあるようだ。

  「実は〈Broken Down Melody〉ってサーフィン映画で、彼の曲が使用されているんだよ。その映画には僕のサーフィンも収められているんだけどね」。

 ほかに親しくしているアーティストとして、ウィリー・K、マカナ、ジョン・クルーズといったハワイのミュージシャンたちの名前も挙げてくれたが、彼自身が運営に関わるブラッシュファイア(Gラヴ、ドノヴァン・フランケンレイターが所属)から、今後リリースされる予定の新人などはいるのだろうか?

  「契約したいって言ってくれるアーティストはいるんだけど、いまのところ予定はないんだ。趣味でやっていて儲けがないレーベルだし、いまはGラヴとドノヴァンだけで十分だよ」。
▼文中に登場するアーティストの作品を一部紹介。
Gラヴの2004年作『Hustle』(Brushfire
ベン・ハーパーの2003年作『Diamonds Of The Inside』(Virgin
ドノヴァン・フランケンレイターの2004年作『Donavon Frankenreiter』(Brushfire/Universal)


グレッグ・ブラウンの2002年作『Milk Of The Moon』(Red House)
M・ウォードの最新作『Transistor Radio』(M.Ward)
マカナの2003年作『Ki Ho'alu: Journey Of Hawaiian Slack Key』(Punahele Productions)

文/桑原 シロー

フィルムメイカーとしてのジャックが観せる〈映像的ビート感〉

 フィルムメイカーとしての顔も持つジャック・ジョンソン。スマトラ島にて撮影を行った「ザ・セプテンバー・セッションズ」はサーフィン・ムーヴィーのマスターピースとして好評を博した。それと彼の初監督作品「シッカー・ザン・ウォーター」。この2本のドキュメンタリーで、ジャックは映像作家としての確かな腕を世間に示した。よく言われることだが、波乗りならではの目線で被写体と風景を切り取っているところが素晴らしい、と。確かに彼の映像作品はまるで波に、そして波と戯れるサーファーに、直に触れているかのような感覚を観る側に与えてくれる。カメラは目の前に現れるすべてのものの呼吸をも定着させようと働き、その目的を見事に達成しているのだ。両作品は多くのサーフィン・ムーヴィーと同様に、魅惑的なスロウモーション世界が展開している。飛沫が、波光が、潮風が、こちらに向かってゆるやかなスピードで迫ってきて、優しく眼球を撫でてくれる。このスロウモーション効果だが、彼の音楽に身を委ねたときにも得られるもの、つまり彼の音楽に内包されているもののことで、両者の佇まいは驚くほどに近似している。彼の音楽が持つビート感がそのまま映像となっている、という印象を受けずにいられないのだ。しかもそれは、自分の才能に自覚的であるからこそ為せるワザだといつも思うのである。映画で使用される楽曲のセンスの良さについては、言うまでもない。最高。
DVD「ザ・セプテンバー・セッションズ」(Moonshine Conspiracy/Universal/ユニバーサル)
ザ・セプテンバー・セッションズ(Moonshine Conspiracy/Universal/ユニバーサル)


DVD「シッカー・ザン・ウォーター」(Moonshine Conspiracy/Universal/ユニバーサル)
シッカー・ザン・ウォーター(Moonshine Conspiracy/Universal/ユニバーサル)

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