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一十三十一

掲載: 2007/04/05

ソース: 『bounce』誌 285号(2007/3/25)

さまざまなコラボを通じて強烈なオリジナリティーを見せてきた才色兼備の実力派次世代女性シンガー・ソングライターが、第2章の幕開けに相応しい傑作を完成!!

文/ダイサク・ジョビン

ドライヴィング・ミュージック

写真/Sayo Nagase

 「ドライヴが大好きなんですよ。特に夜の高速道路にはスピードと変化と自由とキラキラ、私の好きな全部がある!と思ってて。動いてる感じ、流れてる感じ、それにトンネルも抜ける感じとか。景色もいろいろ変わるんだけど、(自分自身は)一定してる感じがありますよね。なので『TOICOLLE』は特に、自分の曲の中でもドライヴィング・ミュージック的なものを集めました」。

 今年の1月に16曲入りでシングル6曲のプロモ・クリップ+2曲のライヴ映像も収録のDVDを加えた〈コレクション・アルバム〉ことベスト盤『TOICOLLE』をリリースした一十三十一(ヒトミトイ)。本作を聴くと、一十三十一というシンガー・ソングライターがいかに強烈なオリジナリティーとユニークな才能を持っているのかが改めて確認できる。山下達郎や吉田美奈子、大貫妙子、荒井由実など70〜80年代にジャパニーズ・ポップスの礎を築いた偉大なる先輩たちによるアーバンでメロウなシティー・ポップ〜リゾート・ミュージックといった普遍的な音楽性を継承しつつ、同時に最先端のクリエイターたちと次々とコラボをして非常に実験的かつ先鋭的なサウンドを作り上げたりもする。人の心に強く訴えかける独創的なメロディーと歌詞とリズムの一体感はどの曲でも高い完成度を見せているし、アッパーなリズム・トラック上でも音数を最低限に絞ったスロウ・ナンバーでも常に一定のテンションをキープするニュートラルさを持ち、一語ずつハッキリと発音される歌唱法は独特で、ほのかな色気を醸し出す溜め息交じりで高く突き抜けるスウィートな歌声も実に個性的だ。ただ歌が異常に上手いというだけでなく、男は恋焦がれて女は共感するといった切ない恋心を鋭く描き出すソングライティング能力や、陰りのないポップでキャッチーなメロディーメイカーとしての比類なき才能も併せ持っている。もちろんキュートな容姿にも恵まれているのだ。

 そんな多面的な魅力を放ちながら活動してきた彼女は、コアな音楽フリークからクラブ・ミュージック好き、一般のポップス・ファンまでジャンルを越境した支持を集めてきたが、そのあまりにヴァラエティー豊かな全方位(360°)的音楽性や、初めてだと判読不能であろうシンメトリックな漢数字での名前、加えて実家がスープカレー・ブームの火付け役であるカレーショップ〈マジックスパイス〉という音楽以外のトピックもあって、多種多様に眩しく乱反射する彼女のイメージが一般のリスナーには掴みづらいという側面もあったかもしれない。だが、最先端のサウンドメイクとハイクォリティーなポップ性を併せ持つハイブリッドな音楽が日本のポップ・ミュージック・シーンの主流となりつつある昨今、時代はようやく一十三十一が持つフレッシュな感覚に追い付ける状況になってきたといえるだろう。
1月にリリースされた一十三十一の〈コレクション・アルバム〉ことベスト盤『TOICOLLE』(徳間ジャパン)


柔らかくて新しいポップスをめざしたい

 「本当に気持ち良く、勢い良く短期間で一気に書いたので、8曲でありつつも1曲な感じ……ひとつのストーリー的な、独特な〈ガールフレンド〉感っていうかムードがある」と語るニュー・コンセプト・アルバム『Girlfriend』が、ベスト盤に続いて登場した。一十三十一の第2章の幕開けとなる今作で彼女がコラボ相手として指名したのは……。

 「前作の『Synchronized Si-nging』は私がいろんなアレンジャーと遊んで実験して作ったアルバムなんですけど、次はひとりの人と向き合って、シンプルで力強くて骨太なものを作りたいなと思って。なおかつ柔らかくて新しいポップスをめざしたい……そう考えたときに私はやっぱりASA-CHANGだなって思ったんです。ASA-CHANGとのレコーディングはすごく楽しいし、自分にもすごく合ってるなと思ってて。ASA-CHANGは私の書いた詞を見ながらアレンジをしていくから、新しい曲の詞を送るごとに変わっていくんですよ。それがすごくおもしろくて」。

 『Synchronized Singing』で一十三十一がASA-CHANGとコラボした2曲は、聴いたこともないフレッシュでマジカルなポップ曲となっていたので、現在のポップス・シーン随一の斬新なアイデアに溢れるエキセントリックな異才同士によるアルバム全編に渡るコラボは、まさに必然だったと言えるだろう。その結果『Girlfriend』は、ASA-CHANG&巡礼の作品にも通じる、壮大で深遠で神秘的なギリギリの美しさを湛えた、聴き流すことのできない緊張感のあるドラマティックで映画的な作品となった。また、得体の知れない大きなものに対峙しつつもそこから前に突き進んでいくような繊細かつ幻想的な感覚を見事に描いたものや、恋をする女がさまざまなシチュエーションで体験する、正直でシリアスな一瞬の感情の揺れや心象風景の詳細なスケッチなど深みを増した歌詞と、希求する心の切ない想いをそのまま変換したように美しいメロディーなど、これまでに見たことのない生々しくてネイキッドな一十三十一が露わになっている。

 「ASA-CHANGは、ひとつひとつの詞にすごく感動してくれてて。〈見ちゃいけない日記を見ちゃったって感じだよね〉って(笑)、そのくらい赤裸々感が出てる。『Synchronized Singing』は蛍光色のソーダ水の中で私が気持ち良く泳ぐといったイメージのすごくカラフル・ポップでコスメティックな感じで、今回はクールで赤裸々な部分を出したいなぁって思ってたから。まず私がいて、その身体に塗るオイル/クリーム的なアレンジっていう感じの密着度だからリアリティーがある」。

 というように、ASA-CHANGお得意のストリングスとエレクトロニクス+ヘンなノイズによって過剰にドラマティックにすることで逆に不思議な静けさを演出するといった曲から、スティールパンにチープなラッパたち(ホーンのことね)や名も知れぬオモチャ楽器みたいな音が自由に遊びまくって楽しすぎる曲まで、グッと異次元へと連れていってくれるイマジネイティヴで研ぎ澄まされた言葉の数々も相まって、どの曲も醸し出す世界観が非常に濃厚な『Girlfriend』。でもド真ん中にあるのは、天然のヒーリング〜リラックス効果があるというか、心地良く瞑想に導かれる歌声そのもの。その唯一無二の艶かしい一十三十一の歌声が今作でもやっぱり最高なのだ。
リリースされたばかりの一十三十一のニュー・アルバム『Girlfriend』(徳間ジャパン)


文/ダイサク・ジョビン

一十三十一の〈趣味はハモり〉な音楽遍歴を振り返ってみよう!


『360°』
全18曲というヴォリュームで、まさにタイトルどおり全方位を向いて円環する壮大な音楽世界を提示してシーンを驚愕させた、一十三十一が2003年にリリースしたファースト・アルバム(boogaloo)。アコースティックなサウンドの中で、自由自在かつ有機的に踊り、泳ぐ、才気迸るその歌声とメロディーにただただ圧倒される。トライバルなリズムで原始(幻視)的に解釈したビートルズ“Across The Universe”のカヴァーも収録。(残念ながら今作は現在入手困難)。



野崎良太(Jazztronik)
最新アルバム『Beauty-Flow』(Knife Edge/ポニーキャニオン)も絶好調なJazztronikこと野崎良太。2002年にリリースされた一十三十一の記念すべきデビュー・シングル“煙色の恋人達”のアレンジは彼の手によるもの。カップリング曲“フライデイ”では作曲も手掛けた。



『 (フェルマータ)』
2004年にリリースされた、一十三十一のメジャー・デビュー作となるミニ・アルバム(徳間ジャパン)。タップダンサーとのコラボによるジャジーなナンバーや、“DOWN TOWN”“渚にて”といったキャッチーでメロウな美メロ曲など6曲を収録。音数を絞ったアレンジによって、彼女の歌声とメロディーの美しさがグッと迫ってくる一枚。



堀江博久(ニール&イライザ)
〈フェルマータ〉の共同プロデューサー。Coccoや岸田繁(くるり)と結成したSINGER SONGERで『ばらいろポップ』(スピードスター)をリリースしたことでも話題になったが、最近では木村カエラや彼女も参加したサディスティック・ミカ・バンドでキーボーディストとして活躍。コーネリアスから横山健、HARVARDにまで関与する一流ポップ職人!



須永辰緒
Sunaga t experience名義での2003年作『DOUBLE STAN-DARD』(レディメイド・インターナショナル)収録のビターなジャズ・ナンバー“路地裏”に、一十三十一はゲスト・ヴォーカルとして参加。妖艶で気怠い歌いっぷりが最高!



『Synchronized Singing』
2005年にリリースされた一十三十一のセカンド・アルバム(徳間ジャパン)。CICADAやASA-CHANGといった鬼才からflex lifeなど実力派バンドともコラボしたカラフルでエレクトロニックな作品で、ニューミュージックの大御所・尾崎亜美作曲によるアンニュイな名曲“プラチナ”も収録。また、GR-OUPによる静謐な演奏をバックにしたスマッシング・パンプキンズの美しいスロウ・ナンバー“Beautiful”や、パードン木村によるアヴァンギャルドに解釈された山下達郎“時よ”のカヴァーも披露している。



流線形
2006年にリリースされるやいなや、そのシティー・ポップ〜AORサウンドの完全再現っぷりがウケてロングセラーとなっている流線形の『TOKYO SNIPER』(Happiness)。ヴォーカルは江口ニカなる美大生となっているが、一十三十一の変名なのでは!?というウワサが。



宮川 弾
安藤裕子への楽曲提供や宮川弾アンサンブル名義での2006年作『pied-piper』(cutting edge)などで注目のポップ・マエストロ。『TOICOLLE』に収録された、爽やかでキャッチーなダンス・ナンバーの新曲“Mangosteeeen!”“デイライト”の作曲/アレンジは彼が手掛けています!



山下達郎
吉田美奈子による名バラード“時よ”。一十三十一がライヴのラスト・ナンバーとしてよく取り上げるこの曲は、山下達郎が78年にリリースしたライヴ盤『IT'S A POPPIN' TIME』(BMGファンハウス)のヴァージョンをカヴァーしたもの。『TOICOLLE』収録の船上ライヴ映像でも、同ナンバーを完全に自分のものとした圧巻の名カヴァーっぷりが楽しめます。



大貫妙子
一十三十一がライヴでよく取り上げるのが、大貫妙子の77年作『SUN SHOWER』(クラウン)に収録されている不朽の名曲“都会”。ジャパニーズ・ポップス界のクイーンとプリンセスともいえる2人のコラボは、NHKの歌番組でのデュエットとして実現しましたね!

文/編集部

超個性派音楽家にして人気者のASA-CHANG


 今回、一十三十一が『Girlfriend』を制作するにあたってコラボ相手に指名したのがASA-CHANG。エレクトロニカなサウンドにタブラやオモチャ楽器の音なんかを加え、エディットしまくった〈声〉を乗せるという極めて前衛&実験的で珍妙&変ちくりん、なのに聴き応えは可愛らしくて激ポップという世界的に見ても類を見ないサウンドを誇るASA-CHANG&巡礼での活動で有名だ。また、SAKEROCK、高田漣と共にサケロックオールスターズとしてエキゾな作品を発表。さらに、LITTLE CREATURESの鈴木正人やネタンダーズ/SLY MONGOO-SEの塚本功、スカパラやブラックボトムブラスバンドなどなど豪華なメンバーを招集したビッグバンド=ASA-CHANG&ブルーハッツを結成し、ホットでスウィンギーなサウンドを「8時だヨ!全員集合」的ドタバタ感で披露。プロデュースやレコーディング、ツアー・サポートなどで参加したのはフィッシュマンズからハナレグミ、小島麻由美、UA、原田郁子、日暮愛葉、LEYONA、Chara、MISIA、安藤裕子、土岐麻子、YUKI、安室奈美恵……と素晴らしい歌を聴かせてくれるアーティストばかり。ASAS-CHANG独特のブッ飛んだおもしろアイデアや、歌を効果的に引き立ててくれる抜群のセンスをみんな求めているのだ。
ASA-CHANG & 巡礼の2005年作『みんなのジュンレイ』(キューン2)
サケロックオールスターズの2006年作『トロピカル道中』(CHORDIARY)
ASA-CHANG & ブルーハッツの2006年作『真冬の夜のブルーハッツ』(nowgomix)

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