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Wyclef Jean

掲載: 2008/01/17

ソース: 『bounce』誌 294号(2007/12/25)

幾多の辛苦を乗り越えて完全復活! 色とりどりのワールド・ビートが賑やかに入り乱れる、ポジティヴでエクレクティックなカーニヴァルの幕開けだ!! 

文/新谷 洋子

あの時と同じだと思った


 ワイクリフ・ジョンがアルバム『The Carnival』でソロ・デビューしてからの10年を振り返ると、その前半と後半は対照的だと言えるのかもしれない。最初の5年間は同作品に寄せられた賛辞とフージーズ人気の追い風を受け、プロデューサーとして大活躍。しかしその後は、父の事故死、フージーズ再結成の失敗、故郷ハイチの政情悪化……と暗いニュースが続いて創造意欲を喪失し、混迷する世界情勢も相まって一時はかなり落ち込んだという。

 「だから、そろそろ何かを変えなきゃならないって感じていたんだ。でも必要なのは〈変わる〉ことじゃなくて〈戻る〉ことだった。オレは初心を、自分の使命を忘れてたのさ。で、冷静になって考えてみたら、すべて戻ってきたよ。オレの使命は人々に日常生活の辛さを忘れさせ、心に火を灯し、ポジティヴなメッセージを発することだったんだ……ってね」。

 そんな転機にあった彼をさらに後押ししたのは、娘の誕生、そして現時点で〈21世紀最大のヒット〉と認定されているシャキーラとのコラボ曲“Hips Don't Lie”だった。〈オレもまだ捨てたもんじゃない!〉と奮起したクリフは、フージーズのためにためていたアイデアもすべて注ぎ込んで、6枚目のソロ作に着手。それが今回リリースされたニュー・アルバム『Carnival Vol. II : Memoirs Of An Immigrant』だ。ただ、「当初は続編を作るつもりはなかった」と彼は強調する。

 「でも、曲を作ってるうちに世界中の音楽の影響が混ざってきて、〈あの時と同じ感覚だ〉と気付いたんだ。『The Carnival』は世界旅行みたいなアルバムで、〈ヒップホップ・ワールド・ビート〉の原型になった。今回も同じことだよ。ほら、いまは〈愛はどこに行ったんだ?〉と言いたくなる状況だろ? そんな世の中を巡るさまざまな問題について語っていて、みんなをひとつに結ぶアルバムなのさ。ボブ・マーリーと同じようにオレは〈ワン・ラヴ〉を信じてるからね」。

これがオレだ、と言えるアルバム

ワイクリフ・ジョンのニュー・アルバム『Carnival Vol. II : Memoirs Of An Immigrant』(Columbia/ソニー)

 けれど続編とはいえ、10年分の見聞を活かしたスケールアップぶりには圧倒されずにいられない。『The Carnival』は彼のルーツであるカリブ音楽に根差していたが、今回はヒップホップ〜レゲエ〜ロックを軸にしつつ、中東やインドのフレイヴァーからテハーノ音楽やソカに至るまで恐ろしく雑多な様式を導入しており、コラボ相手も前作以上に人種/国籍/ジャンルを縦断。シズラにエイコン、ポール・サイモンにノラ・ジョーンズ、メアリーJ・ブライジにウィル・アイ・アム、はたまたシステム・オブ・ア・ダウンのサージ・タンキアン、ボリウッド映画音楽家のアデッシュ・シュリヴァスタヴァ、そしてT.I.やリル・ウェインといったMC勢……。

 「それでいて、ちゃんと流れがあるっていう点に注目してもらいたいね。オレのアルバムは散漫だと批判されることが多いから、まとまりのあるアルバムってのに挑戦したんだ。相変わらず折衷的だけど、理に適ったキャスティングを意識して、できることをあれこれひけらかすんじゃなく焦点を定めて、〈これがオレだ〉と言えるようにね。歌モノに専念したのもそのせいだよ」。

 そう、本作の大きな特徴は歌モノ中心に構成されていること。アコギの響きと人懐っこいメロディーに乗せて、USの都市からハイチやイラクまで世界を包むヴァイオレンスを憂う曲の数々は、〈ワン・ラヴ〉のメッセージをクリフらしい飄々とした語り口で発信。その目線はいまも、貧しい移民の子供という自分の出自を忘れず、常に弱者に向けられている。彼は「ラップしたくないわけじゃないんだ」と前置きしてから、意図を説明する。

 「何枚かラップ中心のアルバムも作ったけど、その後“If I Was President”を書いた時は反応が違ったんだよね(注:前作『Welcome To Haiti Creole 101』に収録の、米政権批判を含むヴォーカル曲。USの人気トーク番組で初披露して大きな反響を呼んだ)。人々はこういう曲をオレに求めているんだと気付いて、若い世代と接点を築けたように感じたのさ。だからソングライティングをもっと極めたいと思った。冒頭の曲ではラップしてオレの原点の所在を知らせて、あとはほぼ歌に徹したんだよ」。

 もちろんいまは、複数のジャンルを網羅することなど珍しくない時代だ。それでも本作ほど冒険的な作品を探すのは極めて困難だろう。ある意味リスナーのオープンマインドさを試す挑戦的なアルバムではあるのだが、そこは稀代のヒットメイカー、完全にポップ・アルバムとして成立している点も驚きに値する。ここにきてやっとフージーズの呪縛から解かれたワイクリフ・ジョン、デビューから15年を経ていよいよ真価があきらかになってきた。

 ▼『Carnival Vol. II Memoirs Of Immigrant』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
シズラの2007年作『I-Space』(Greensleeves)
エイコンの2006年作『Konvicted』(Konvict/SRC/Universal)
ポール・サイモンの2006年作『Surprise』(Warner Bros.)
ノラ・ジョーンズの2007年作『Not Too Late』(Blue Note)


サージ・タンキアンの2007年作『Elect The Dead』(Serjical Strike/Warner Bros.)
リル・ウェインの2005年作『The Carter II』(Cash Money/Universal)
カミリオネアの2007年作『The Ultimate Victory』(Chamillitary/Universal)


文/出嶌 孝次

カーニヴァルを推進してきたクリフの10年


 そもそもワイクリフ・ジョンのカーニヴァルが始まったのは10年前だ。97年のファースト・アルバム『The Carnival』(Ruffhouse/Columbia)は、プロモ・クリップにボブ・ディランを招いて話題となったフォーク調の“Gone Till November”など純然たるクリフのソロ曲も含まれていたとはいえ、ローリン・ヒルやプラーズ、ジョン・フォルテ、妹のメルキーらを含むレフージー・キャンプのオールスター作品という意味合いも兼ねていたに違いない。ただ、そこにセリア・クルーズやネヴィル・ブラザーズ、アイ・スリーズといった各界の大物を招いて、〈ヒップホップをベースにした世界音楽〉の具現化を開始したクリフは、フージーズの活動停滞に反比例してトータル・プロデューサーとしての株を上げていくことになる。

 その地位を確固たるものにした2000年、冒頭に“Where Fugees At?”なる曲を据えた2作目『The Ecleftic : 2 Sides II A Book』(Columbia)ではソロ・アーティストとして腹を括って(?)前作以上にエクレクティックな音楽性を推進。ハイチ人としてのアイデンティティーを核にしながらボブ・マーリーとピンク・フロイドを共存させるような野心的な試みを展開し、セネガルのユッスー・ンドゥールからカントリー界の大御所であるケニー・ロジャース、サモア系プロレスラーのロック様までゲストの顔ぶれも予想外の広がりを見せた。

 その路線は2002年の3作目『Masquerade』(Columbia)でも継続。父の死に触発されて自身の第2のルーツであるブルックリンを見据えたクリフは、ストリクトリーなNYヒップホップとディランのカヴァーを並列で聴かせ、後にT.I.の元からデビューする濃い口シンガーのガヴァナー、イスラエル出身のヒップホップ・ヴァイオリニストであるミリ・ベン・アリといった新進アクトも積極的に抜擢している。

 2003年、サンタナ仕事を通じて関係を深めたクライヴ・デイヴィスとの縁からすでにJ傘下に自身のレーベル=クリフを立ち上げていた彼は、みずからもJに移籍して『The Preacher's Son』(Clef/J)を放つ。ここではエレファント・マンやブジュ・バントンらをフィーチャーし、自身のレゲエ志向をダンスホール寄りにアップデートしてみせた。

 その頃にはプロデューサーとしての最初の旬もゆるやかに過ぎていくが、今度はMC/シンガーとして国籍も音楽カテゴリーも不問の客演を活発化させ、2004年には故郷のハイチ建国101周年を祝う『Welcome To Haiti Creole 101』(Sak Pase/Vik)をリリース。自己のルーツをしっかり見据えることによって世界中の音楽(家)に分け隔てなく向き合う姿勢を保つという意味で、そこでのルーツ回帰や翌2005年のフージーズ再結成といったプロセスは、さまざまな音楽が入り乱れるカーニヴァルの新しい門出に相応しい前フリだったとも言えるのではないだろうか?

 ▼ワイクリフのプロデュース/参加作品を厳選紹介!
マイケル・ジャクソンの97年作『Blood On The Dance Floor』(Epic)
グロリア・エステファンの98年作『Gloria!』(Epic)
ネヴィル・ブラザーズの99年作『Valence Street』(Columbia)
クイーンのベスト盤『Greatest Hits Vol. 3』(EMI)


シニード・オコナーの2000年作『Faith And Courage』(Atlantic)
ユッスー・ンドゥールの2000年作『Joko』(Elektra)
ビーニ・マンの2000年作『Art And Life』(Virgin)
ミック・ジャガーの2001年作『Goddess In The Doorway』(Virgin)


ジミー・クリフの2004年作『Black Magic』(Artist Network/Unique Corp/ビクター)
リーラ・ジェイムスの2005年作『A Change Is Gonna Come』(Atlantic)
シャリッサの2005年作『Every Beat Of My Heart』(Virgin)
タルカンの2006年作『Come Closer』(Hitt)


ビッグ&リッチの2007年作『Between Raising Hell And Amazing Grace』(Warner Bros.)
エロス・ラマゾッティの2007年作『E2』(Ariola/BMG JAPAN)
ミッチの2007年作『Original Yard Man』(Taxi/ポニーキャニオン)

文/出嶌 孝次、山西 絵美

10年分のプロデュース/参加作品を厳選して紹介するよ! その1


CANIBUS 『Can-I-Bus』 MCA(1998)
LLクールJに噛み付いたバトルMCのデビューをクリフが完全バックアップ。強烈な“Second Round K.O.”など5曲を手掛けるも、なぜか話はLLとクリフのビーフへと発展し、〈偽ボブ・マーリー〉と罵られることに……。
(出嶌)



WHITNEY HOUSTON 『My Love Is Your Love』 Arista(1998)
ここではボブ・マーリー“No Woman No Cry”風味の表題曲を提供。そうとう満足のいく出来だったのか、自身のソロ2作目では同曲のダブ・プレートを収録し、悦に入っている様子が窺える。
(山西)



SANTANA 『Supernatural』 Arista(1999)
“Smooth”の異常ヒットで知られる御大の復活作だが、ここから生まれたもう1曲の特大ヒットこそ、クリフ制作の“Maria Maria”である。レフージー軍団のプロダクトG&Bを配したラテンの哀愁味が心地良い。
(出嶌)



CITY HIGH 『City High』 Booga Basement/Interscope(2001)
〈第2のフージーズ〉として自身のレーベルから送り出した当時18歳の3人組。当然この初作にも全面参加し、スムースな楽曲を開陳しているが、紅一点ヴォーカルの私生活にまで闖入したとの噂も!
(山西)



TOM JONES 『Mr. Jones』 Gut(2002)
同年の『Masquerade』に招いた帝王を、お返しに全曲プロデュース! 多彩な手捌きで御大からブルージーな魅力を引き出し、ボブ・シーガー“We've Got Tonight”をゴスペル仕立てで歌わせるなどの巧さがクリフらしい。
(出嶌)



SHAKIRA 『Oral Fixation Vol. 2』 Epic(2006)
レッド・ワンと共同で手掛け、自身もマイクを握ったレゲトン調の“Hips Don't Lie”がサッカー・ワールドカップのテーマ曲として世界的ヒットを記録! 本作のユーロ盤などにボーナス収録されてます。
(出嶌)



YING YANG TWINS 『Chemically Imbalanced』 Collipark/TVT(2006)
Mrコリパークと共に5曲をプロデュース。特にホール&オーツ“Man-eater”使いの“Dangerous”が素晴らしく、パーカッションが入り乱れて突如テンポアップする展開に即死デス!
(山西)



T.I. 『T.I. vs. T.I.P.』 Grand Hustle/Atlantic(2007)
サウス勢との相性の良さを痛感したか、キングと手を組んだクリフはズルズルの名曲“You Know What It Is”をプロデュース。逆にT.I.はクリフの新作で共同エグゼクティヴ・プロデューサーも務めている。
(出嶌)



KEVIN MICHAEL 『Kevin Michael』 Downtown/Atlantic(2007)
黒人とイタリア人のダブルでユニークな折衷性を備えたシンガー……ってことで好相性も当然か。クリフは“It Don't Make Any Difference To Me”をレゲエ調に仕立て、ユルい絡みも披露している。
(出嶌)

文/出嶌 孝次、山西 絵美

10年分のプロデュース/参加作品を厳選して紹介するよ! その2


DESTINY'S CHILD 『Destiny's Child』 Columbia(1998)
いち早くデスチャの才能に目を付けたクリフは、みずからもマイクを握った“No, No, No Part 2”で彼女らに初のヒットをプレゼント。同曲を含む2曲のプロデュースを進んで買って出たそうよ!
(山西)



HOW STELLA GOT HER GROOVE BACK 『Soundtrack』 Flytetyme/MCA(1998)
クリフがスティーヴィー・ワンダー本人と共にリメイクした“Masta Blasta '98”収録。スティーヴィーを触媒にクリフのボブ・マーリー愛が滲んでくる、アーシーな好演だ。
(出嶌)



BLACK EYED PEAS 『Bridging The Gap』 Interscope(2000)
ファーギー加入後はフージーズ道を邁進しているBEPが、それに先駆けて“Rap Song”の制作&ゲスト参加を依頼。(当時の)彼ららしい、アコギを活かしたオーガニックな一曲に仕上がっている!
(山西)



JIMMY COZIER 『Jimmy Cozier』 J(2001)
ジャマイカ人の母を持つR&Bシンガーの初作で、エグゼクティヴ・プロデューサーを担当。ピアノの音色を効かせた哀愁のイントロがクリフらしい“Heartfelt Letter”など、直接手掛けた3曲はどれも絶品だ。
(山西)



PRAS MICHEL 『Win Lose Or Draw』 Geffen(2005)
フージーズ仲間である彼とはいまも仲良しなようで、初ソロ作に続いてこの2作目でも4曲をプロデュース。特に両者の掛け合いもキマリすぎなルーツ・レゲエ調の“Angels Sing”が素晴らしい。
(山西)



LIONEL RICHIE 『Coming Home』 Island(2006)
人種を問わない歌心という点で相通じるクリフとリチ男。ゆえに、そんな両者の共演となる本作収録の“I Apologize”がなぜか哀愁ラテン風味なのも不思議じゃない。ギターの枯れた味わいも流石だ。
(出嶌)



LUMIDEE 『Unexpected』 TVT(2007)
NYはスパニッシュ・ハーレム出身のシンガーによる2作目。ここに収録されている“The Whistle Song”にラップ&プロデュースで参加し、タイトルどおりサビに口笛を用いた耳タコな一曲に仕上げてやがります。
(山西)



ELEPHANT MAN 『Let's Get Physical』 Bad Boy/VP(2007)
過去にも何度か絡んできた両者は、ディディを交えた本作からの先行カット“Five-O”でも強力なコンビネーションを披露。強いキックで攻撃的に攻めるビートとクリフの歪んだギターが熱い!
(山西)



CARTEL 『Cartel』 Epic/ソニー(2007)
間もなく日本盤もリリースされるエモ・バンドのメジャー移籍作。ちょっぴり意外な組み合わせだが、“Wasted”のリミックスを担当し、ホーンの響きも軽快なスカ仕立てに調理。クリフの雄叫びにテンションも上がる!
(山西)

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