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Raheem Devaughn

掲載: 2008/02/14

ソース: 『bounce』誌 295号(2008/1/25)

このうえなくアーバンなスウィートネスと漆黒のグッド・ヴァイブがトロリと溢れ出せば、もう去年のことなんか速攻で忘れてしまうよ……新しい年、新しいソウル・ミュージックの光と道は、この天才によって拓かれている!

文/林 剛

すべてがソウルフル


 ラヒーム・デヴォーンのセカンド・アルバム『Love Behind The Melody』は、昨年6月の来日公演時には「80%完成していた」という。制作期間は1年半〜2年というから、前作『The Love Experience』(2005年)をリリースした頃から制作していたことになる。「ただ何となく頭に浮かんだ」という表題にはふたたび〈Love〉の文字が刻まれているが、聴き進めていけば、これが単なる続編ではないことに気付くはずだ。

 「もちろん前作からの流れというのもある。トライブ・コールド・クエストが大好きなんだけど、彼らは作品のアートワークに一貫性を持たせていただろ? それと同じ意味合いというか。ただ、高いクォリティーを保ちながらも常に違うものを提供していきたいんだ。今回はツアーで経験を重ねたことでリリックもヴォーカルも成長したと思う。曲のタイプによってヴォーカルのデリヴァリーも変えたし、サウンド面でも実験的なことをやったよ」。

 アルバムの冒頭曲では、堂々と〈R&Bヒッピー・ネオ・ソウル・ロックスター〉と宣言。以前からたびたび用いているこの言葉を、本人は「自分自身をマーケティングしていくために、いま俺が築いているブランド」と言い、「ラヒーム・ブランドが定着したら、そこから活動の場を広めていく」と語る。自分の音楽を特定の言葉で括られることに過剰な嫌悪感を示す狭量なアーティストよりも、それを逆利用している彼は一枚も二枚も上手なのだ。

 本人いわく「俺がやることはすべてソウルフルになると思う」──だから、無闇に尖らない。本当にソウル・ミュージックを自分のものにした人間でなければ、こんな発言だって出てこないはずだ。そして、新作のソウル濃度もすこぶる高い。テンプテーションズの名曲“My Girl”を用いてクワメが独創的に仕上げた“Friday”もさることながら、何より先行シングルの“Woman”がソウルフルで美しいR&Bだった。ラヒームはこれを先行曲にしたいとレーベルに訴え続け、その結果、同曲は来るグラミー賞の〈最優秀男性R&Bヴォーカル/パフォーマンス〉部門にノミネートされるまでに。プロデュースは現在DCに拠点を置く名手、チャッキー・トンプソンだ。

 「チャッキーは俺のメンターさ。実は俺がジャイヴと契約する前、彼のスタジオでインターンのようなことをやっていたんだ。昔から彼の音楽は大好きなんだよね」。
2月6日に日本盤がリリースされるラヒーム・デヴォーンのニュー・アルバム『Love Behind The Melody』(Jive/BMG JAPAN)


ブラック・ミュージックの未来

 今作では同じく地元ワシントンDCのプロダクション、ワン・アップにも制作を仰いでいるが、そうした身近な仲間との交流もラヒームの音楽を人情味溢れるものにしている要因のひとつだろう。もちろん、以前からラヒームを後押ししてきたケニー・ドープもふたたび参加。ケニーとは、「大統領選挙のシーズンに向けてリリースしたい」と意気込むポリティカルなアルバム(DC仲間のW・エリントン・フェルトンやビラル・サラームも参加)の制作にも着手し、インディアの英語アルバムにも共同で関わっているようで、ふたりの絆は固い。

 「彼とは一気にたくさんの曲を作るんだ。何日かいっしょにいてジャム・セッションしたりね。ビジネスの話は後回しさ。彼が作ったばかりのスタジオは居心地が良くて、俺の部屋もある。ひとつの部屋ですべてを録っていた70年代みたいな感じの、オールド・スクールなスタジオなんだ。アナログの機材もあるし、最高だよ」。

 そのケニー・ドープ経由でフィリー勢とも密な交流を図るラヒームは、前作でタッチ・オブ・ジャズ(ATOJ)一派とも絡んでいたが、今回はATOJ卒業生で旧知の仲だというカルヴィン・ハギンズ&アイヴァン・バリアスも参加。さらにスコット・ストーチがフィリー時代に培ってきたメロウなヴァイブを注ぎ込んだような“Love Drug”もある。ビッグ・ボーイが客演した“Energy”もスコット制作だ。

 「スコットはマイメンさ! 彼がルーツの初期(準)メンバーだったことを忘れてしまう人が多いと思うんだけど、彼はヒップホップ界の重鎮でもあるし、プログラミングから楽器まですべてをこなすリアル・ミュージシャンなんだよ。彼との曲はマジックのように完成した。スコットは、俺がワンテイク歌う時間と同じくらいの速さで曲を完成させる(笑)。まるでスタジオの猛獣さ。ターゲットを定めたら一気に攻めていくんだ」。

 また、アリシア・キーズの『As I Am』にも関与していたジャック・スプラッシュやマーク・バトソンの起用も話題だろう。

 「最高だろ? ジャックは、俺のA&Rが〈スゲエ変な男がいてさ。だけど最高の音楽作るんだよ〉って言ってきて、好奇心で会ってみたら俺と同じ変人だった(笑)。それに、彼が率いるプラント・ライフは俺がアーバン・アヴェニュー31でやろうとしてることにも似ているって気付いたんだ。つまり、ふたりともヒッピーなんだよ。ジャックは俺のウッドストック・フレンドさ! クレイジーだぜ」。

  “Marathon”で美声を添えているのはコンビを解消する直前のフロエトリーで、ラヒームが直接声を掛けたのだという。さらに“Empty”を手掛けたブライアン・マイケル・コックスも「実は以前から曲をいっしょに作っていた」そうで、とにかくすべてが意味のあるコラボレートとなっているのは、己の進むべき道が見えているラヒームならではだ。メジャーからアンダーグラウンドまで志を同じくするアーティストからの共演依頼も多く、DC名物のゴーゴーにも挑戦するというラヒーム。ブラック・ミュージックの未来は、こういう男にこそ託したくなるってもんだ。今回の新作を聴いて、その思いはさらに強まった。
▼関連盤を紹介。
ケニー・ドープの2006年作『Black Roots』(トイズファクトリー)
プラント・ライフの2004年作『The Return Of Jack Splash』(Counterflow)


文/林 剛

『Love Behind The Melody』から滲み出る王道のソウル感覚

 新作でのテンプテーションズ“My Girl”の引用というベタなオールド・スクール感の打ち出しもソウル愛を感じさせるが、その振る舞い自体からソウルの鼓動を伝えてくるのがラヒームだ。特にファルセットで官能的な歌を聴かせる点は70年代以降のマーヴィン・ゲイやアイズレー・ブラザーズ(のロナルド)と重なり、そのあたりは前作に関与したドゥウェレや、新作に客演したビッグ・ボーイの盟友でもあるスリーピー・ブラウンが放つ匂いとも共通する。また、前作でネタ使いしていたアース・ウィンド&ファイア“Can't Hide Love”はディアンジェロやビラルも取り上げていたもので、いずれもプリンスを愛する歌い手たちがEW&Fやマーヴィンに回帰していく様子は興味深い。さらに、スライ的なヒッピー性を強調しながら極めて真っ当にソウルの王道を行く姿はトニ・トニ・トニにも近く、彼らがネタ使いしたアル・グリーン“Love And Happiness”での艶かしく情熱的な歌にもラヒームとの接点を見い出すことができよう。ラヒームもまた〈ソウルの申し子〉なのである。
テンプテーションズの65年作『The Temptations Sings Smokey』(Motown)
マーヴィン・ゲイの76年作『I Want You』(Motown)
アイズレー・ブラザーズの75年作『Go For Your Guns』(T-Neck/Columbia)
アース・ウィンド&ファイアの75年作『Grattitude』(Columbia)


トニ・トニ・トニの93年作『Sons Of Soul』(Mercury)
アル・グリーンの72年作『I'm Still In Love With You』(Hi)

文/出嶌 孝次

ラヒームと共に上昇してきた〈ネオDC〉の有望アーティストたち

 〈ネオDC〉なんて言葉があるのかは知らないが……ラヒームのブレイクとシンクロして、ワシントンDCの新たな才能たちが浮上してきているのは事実だし、高いミュージシャンシップやオールド・ソウルとヒップホップを繋ぐ感性を兼備した顔ぶれの台頭には、ルーツやジル・スコットら〈ネオ・フィリー〉の登場時を重ね合わせたくなる。その現状を見ていくと、ラヒームとの来日経験もあるW・エリントン・フェルトン(父親は元ソウル・サーチャーズの一員)やビラル・サラーム、パナシアのK・マードックらクロスローズ周辺の面々はもちろん、各々の作品で演奏しているケイアリンあたりはまず押さえておきたいところ。彼らと縁深いDC版ジル・スコット(?)=ウェイナも重要だ。彼女のようにメリーランド出身ながら隣接するDCで活動する(その逆も)人は多く、先述の名前と絡むことも多いケヴ・ブラウンやロディ・ロッド(マスパイク)を擁する注目の地下集団=ロウ・バジェット・クルーには、MCのケン・スターやサイ・ヤング、人気トラック職人のオディッシーらDC出身者も多数在籍している。そういう意味だと、DCの勢いはメリーランドの面々も含む大きなコレクティヴのなかで捉えるのが的確なのかもしれない。ともあれ今後も要注目の一群だが、なかでもラヒームとの共演歴もあるタビ・ボネイや、マーク・ロンソンのレーベルと契約したワレイといった新進MCの名前は絶対に覚えておいてほしい。〈ネオDC〉は燃えている!
W・エリントン・フェルトンの2006年作『Outrospective: Me Then, Me Now』(Genesis Poet)
ビラル・サラームの2007年作『Blah』(OCTAVE)
ケイアリンの2005年作『Verse 1, Chapter 3』(Elektrik Soul)
ウェイナの2004年作『Moments Of Clarity -Book I』(Quiet Power)


ロディ・ロッドの2007年作『Cuba After Market』(Humble Monarch)
ケン・スターの2006年作『Starr Status』(Halftooth)
ミックスCD『Oddisee Presents Foot In The Door』(Halftooth)
ワレイの2007年作『100 Miles & Running』(Wale)

文/池田 貴洋、出嶌 孝次

関連作/参加作を厳選紹介! その1


RAHEEM DEVAUGHN 『The Love Experience』 Jive(2005)
ソウルの新時代を切り拓く逸材として注目されたソロ・デビュー作。ATOJ人脈のピート・クーズマを中心に、ケニー・ドープらがプロデュースを担当。〈愛〉をテーマに引き出しの多さを見せた、甘美で濃密な音世界が評判に。
(池田)



THE CROSSRHODES 『The Invitation』 Urban Ave 31(2004)
メジャー契約の傍ら、ラッパーに近いスタンスでストリート・アルバムも量産しているラヒーム。このクロスローズやアーバン・アヴェニュー31名義での諸作は、地元ノリと進取の気性を見せつける意欲作ばかりだ。
(出嶌)



DJ JAZZY JEFF 『The Magnificent』 BBE(2002)
フィリーの重鎮が放った初のアルバム。4曲に抜擢されたラヒームにとっては初のメジャー舞台だった。他にもケヴ・ブラウンやオディッシーらが名を連ねていて、ネオ・フィリーの先端からネオDCが生まれてきたこともよくわかる。
(出嶌)



『7 Heads R Better Than 1 : No Edge Ups In South Africa』 7 Heads(2003)
アングラを席巻した人気レーベルのコンピで、ラヒームはアシェル&タリブ・クウェリの佳曲“Mood Swing”に歌を添えている。なお、ここにもDC仲間のオディッシーとケン・スターが揃って参加! 
(出嶌)



ERIC ROBERSON 『The Appetizer』 Blue Erro Soul(2005)
ソングライターとしても著名な人気シンガーの楽曲集。ジャジー・ジェフの上掲作に提供された“For Da Love Of Da Game”のリメイクにて、ラヒームは粋な名唱を披露。同じケニー・ドープ周辺からVも参加している。
(出嶌)



『Om Hip Hop Volume One』 Om(2007)
ディガブル・プラネッツの才女、レディバグ・メッカによる前年のシングル曲“Dogg Starr”にラヒームは歌で参加。このコンピではケニー・ドープの流麗なリミックスがチェック可能! 
(出嶌)

文/池田 貴洋、出嶌 孝次

関連作/参加作を厳選紹介! その2


CHUCK BROWN 『We're About The Business』 Raw Venture(2007)
チャッキー・トンプソンら後進のサポートを追い風に、ゴーゴーを世に広めたDCの伝説が突如ヒットさせた快作。ラヒームも“Eye Candy”の軽快なグルーヴに身を委ねて、新旧DC交流絵巻の一翼を担う。
(出嶌)



TALIB KWELI 『Eardrum』 Blacksmith/Warner Bros.(2007)
レーベルメイトのUGKと共に“Country Cousins”に参加。ジョニー・ハモンド“Lost On 23rd Street”を敷いたメロウ・トラックに同化するような極上ファルセット・ヴォイスで、EW&F風のコーラスを聴かせている。
(池田)



UGK 『UGK : Underground Kingz』 UGK/Jive(2007)
上掲のタリブ・クウェリ曲と同じ組み合わせ(録音も同タイミング?)で、“Real Woman”を披露。ラヒーム自身のシングル“Guess Who Loves You More”のオケをまんま使用した、同曲のラップ・ヴァージョン的な仕上がりに。
(池田)



GURU 『Jazzmatazz Vol.4』 7 Grand(2007)
ジャズ・ヒップホップの人気プロジェクト第4弾にて、“Wait On Me”のヴォーカリストとして起用。多重録音のコーラス・リフレインと粘っこくもしなやかなシャウト歌唱で、楽曲全体に独特の味わい深さをもたらしている。
(池田)



PANACEA 『The Scenic Route』 Glow-In-The-Dark/Rawkus(2007)
ラヒームの初作にも関与したDC出身のK・マードックがDJを務める2人組。今作に収録の“Flashback To Stardom”にはラヒームが駆けつけ、ピート・ロック的なグッド・ヴァイブに陽炎のような歌声を美しく添える。
(出嶌)



BEANIE SIGEL 『The Solution』 State Property/Roc-A-Fella/Def Jam(2007)
フィリーのMCに招かれて2曲客演。スカーフェイスと共に参加したメランコリックな“Rain(Bridge)”は多重コーラスも交えた哀愁系で、ドレ&ヴィダル製の“Prayer”では憂いを帯びたシリアスな歌で泣かせる。
(池田)

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