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第1回 ─ 東京に失望した!


掲載: 2008/04/17

ソース:『bounce』誌 0号(//)

ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録した連載がスタート!

文/北爪 啓之、冨田 明宏



 僕は阿智本悟。大学卒業と同時に生まれ育った北国を離れ、昨日東京に越してきたばかり。いわゆるフレッシュマンというやつだ。就職先に東京を選んだ理由はいくつもあるけど、やっぱりいちばんはそこに〈ロック〉を感じたからかな。中3の時にストロークスを通じてロックを知り、以来、僕はロックに人生を捧げると決めたんだ! だからこそスキニー・ジーンズを「Gパン型スパッツ!」と言って笑いやがった地元のアホ連中に別れを告げて、心機一転東京にやって来たのさ。が、しかし、僕が就職先に選んだ北区は、想像していた〈東京〉のイメージとあまりにもかけ離れた土地だったわけで……。

阿智本「憧れの〈東京〉はいったいどこ? 来日中のアーティストはどこにいるんだ? ディオール・オムはどこで買えるんだよ! ロケしてる芸能人なんて見当たらないじゃないか! 生のエビちゃんを拝みたいぜ」

 僕は失望感に打ちのめされ、とぼとぼと荒川の河川敷を歩いていた。その時、ふと流れてきた音楽に足が止まった。

阿智本「うん? こ、このメロディーは! 間違いない、ランブル・ストリップスだ!!」

 驚いた。間違いなくランブルなのに、この僕ですらまだ聴いたことのない楽曲だったからだ。新曲?

阿智本「荒川でランブルだなんて、まるでテムズ川を意識しているかのようじゃないか! 一回失望させといてこのロックな展開とは、クールだぜ(ニヤリ)」

 僕はランブルの新曲(?)が大音量で流れる建物に向かって駆け出していた。

阿智本「〈居酒屋れいら〉? 居酒屋かあ」

 きっと最新のロック好きが集う、超オシャレな隠れ家的ダイニング・バーに決まってる。興奮を抑えることができない僕は、〈居酒屋れいら〉の引き戸を開けた。

阿智本「い、いま流れてるのは、ランブル・ストリップスの新曲ですか!?」

ボンゾ「ストリップだと? どこに目ぇつけてんだ! ウチは居酒屋だ!!」

 白髪のオールバックに口髭、それにレイバンのティアドロップ。そんなオシャレとは程遠い出で立ちのオッサンが、僕をサングラス越しに睨みつけてきた。

阿智本「〈ストリップ〉じゃなくて、ランブル・ストリップスですよ! 川繋がりでテムズ・ビートとかけたんですよね!? で、いま流れている曲はいつ出るんですか?」

ボンゾ「言っている意味がサッパリわからねぇ。こいつはニック・ロウの『Jesus Of Cool』だぜ。ブリンズレー・シュウォーツ解散後の78年に発表した、記念すべきソロ・デビュー作だ。ウチの店にはちょっと新しすぎたか? がははははは!」

 ニック・ロウって誰だ? テムズ界隈にそんな人はいないぞ。でも、パブ・ロックなら本で読んだことがある。確か70年代のUKパンク・シーンに影響を与えたとか。それにしてもこの曲、なかなかイイ!

阿智本「ポップでエモくて、まるでシャーウッドみたいだね。おじさん、生中ひとつ」

ボンゾ「俺のことは〈ボンゾさん〉って呼びな。あとな、俺は大のジャイアンツ贔屓だからエモやん(元阪神タイガースの江本孟紀のこと)の話なんかするんじゃねぇぞ。はい、生中一丁。じゃあこれはどうだ? ニック・ロウがデイヴ・エドモンズと結成したロックパイルだ。メンバーは『Jesus Of Cool』でもバックを固めているぞ」

 これまたエモい! クソ〜、なんだか悔しくなってきた。でもこれなら、僕がいまイチ押しているワン・ナイト・オンリーのほうがイケてるんじゃないか?

阿智本「ボンゾさん、ちょっとこのCDかけてみてよ!」

ボンゾ「バカヤロウ、いまロックパイルに替えたばかりじゃねえか! 大体ウチは〈本物のロック〉しか流さないんだよ!」

 ワン・ナイトが本物じゃないとでも!? なんなんだこのオヤジ! 頭ごなしに僕の知らないロックばっかり聴かせやがって!

阿智本「オシャレな店かと思ったら、客も僕1人しかいないし、ボロボロのチケットの半券だの、ヨレヨレのレコードだのが壁にかかった、薄汚い居酒屋じゃないか!」

ボンゾ「な、なんだと〜! もう1人いた客は、お前がウルサイからさっき出ていっちまったんじゃねえか! 営業妨害だぞ、コノヤロウ! カネはいらねぇ、お前もとっとと出ていけ!!」

阿智本「言われなくても出ていくよ! こんな店、二度と来るか!」

 そう言い捨てて僕は店を飛び出した。涙で濡れた頬に、東京の夜風はまだ冷たくて……。

今月の激突盤!!
ニック・ロウの78年作『Jesus Of Cool』(Radar/Proper)


文/阿智本 悟

ヤングな耳で聴くアダルト盤


BRINSLEY SCHWARZ 『The New Favorites Of Brinsley Schwarz』 United Artists/Repertoire(1974)
ジャック・ぺニャーテとラリキン・ラヴを足したような感じ!? でもこれパブ・ロックでしょ? あんまりパンクと結びつかないよ。



ROCKPILE 『Seconds Of Pleasure』 F-Beats/Columbia(1980)
ランブルとピペッツを足したような感じ!? こういうポップなメロディーは好きかも。だけどこのコーラスは、古臭くて、甘すぎて……ちっともロックを感じないな。



ELVIS COSTELLO 『This Year's Model』 Stiff/Universal(1978)
コステロは知ってる! ここにニック・ロウって人も絡んでるんだね。それにしても、アークティック級に速い曲(“Lipstick Vogue”のこと)もあったなんて! ちょ〜ロック!!

文/ボンゾ

アダルトな耳で聴くヤング盤


RUMBLE STRIPS 『Girls And Weather』 Fallout/Island(2007)
〈テムズ・ビート〉ってやつはマージー・ビートのパクリか? でもホーンやピアノが入った酔いどれ風情はモロにパブ・ロックだな。ニック・ロウには劣るが悪くはねぇ。



SHERWOOD 『A Diferent Light』 MySpace(2007)
〈エモ〉って〈エモやん〉じゃなくてエモーショナル・ハードコアの略語ね。すげえポップだけど本当にハードコアなのか、コレは。そもそもエモーショナルじゃないロックなんてあるのか? 



ONE NIGHT ONLY 『Started A Fireer』 Mercury(2008)
バカ正直なほど直球なメロディーと歌いっぷりは、ニック・ロウを思わせなくもないが、別物だな。それにしても、英国特有の湿ったサウンドは今も昔も変わらねぇな。

文/内山田 百聞

再発先生奇談
続々とリイシューされる幻の名盤や秘宝CDの数々──それらが織り成す迷宮世界をご案内しよう


 〈居酒屋れいら〉に若者が入って来て騒がしくなったので店を後にした。私は内山田百聞。売れない三文作家であるが、道楽のリイシュー盤収集にばかり興じているゆえ、周りからは〈再発先生〉などと呼ばれている。そのあだ名を自分でもまんざら悪くないと思っているから始末に負えないのだが……。

 さて、店を出た私が夜霧に包まれた荒川べりの公園で一服吹かしていると、知らぬ間に隣のベンチに腰掛けていた男が、唐突に話しかけてきた。

 「もし、あなたは再発先生じゃございませんか? ああ、やはりそうだ。実は私も同じ道楽に明け暮れている者でして、ぜひ私の収集した逸品を先生にご覧いただきたいと常々思っていたのですよ」。

 一方的に喋り続ける男は唖然としている私を尻目に、いきなり懐から何枚かのCDを取り出した。

 「私はいにしえの英国ロックに目がございませんでしてね、へへ。まずは元アニマルズのエリック・バードンが74年に録音した『Mirage』(Universal/ストレンジ・デイズ)。実はこれ、映画のサントラなんですがね、映画自体がボツになりまして、当然サントラもお蔵入りしていた幻のブツなのです。

 ボツといえば、ジョージー・フェイムの未発表アルバム『Daylight』(77年制作)の音源を多数収めた2枚組の編集盤『Geogie Fame』(Island UK/ユニバーサル)も驚きですよ。この頃の彼は蕩けるようにポップでございますね。フェイムの盟友といえばヴァン・モリソンですが、彼の諸作もボーナス・トラックを追加して続々リイシューされてますな。

 なかでも私は70年代の最後を飾る佳作『Into The Music』(Polydor/ユニバーサル)が好みでして。

 さらに渋いところだとアンディ・フェアウェザー・ロウ率いるフェア・ウェザーが唯一残した70年のアルバム『Beginning From An End』(Neon/Esoteric/シュガーマウンテン)も英国スワンプの秘宝といえましょう。おお、そうだった! クリームのラスト・ツアー時のライヴ音源『The Farewell Tour 1968』(Woodstock Tapes)が発掘されたのはご存知ですか? 私などもう感無量で、それこそ涙が出るほど嬉しい一枚でした。……おや!? 川上から何やら流れてまいりますな、アザラシのタマちゃんでしょうか?」。

 男の言葉でふと荒川を眺めてみたが、どんなに眼を凝らしても何もない。ふたたび男のほうを振り返ると、そこにはただただ濃密な夜の闇だけが充満していて、男の姿など影も形も見えなかった……。

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