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Panic At The Disco

掲載: 2008/04/24

ソース: 『bounce』誌 297号(2008/3/25)

〈ディスコ・エモ〉なる新たなサウンドと共に一大ムーヴメントを巻き起こした4人組が、早々にシーンと別れを告げて今度はサイケ・ロックに挑戦だ! そう、まだまだフィーヴァーは止まらないよ!!

文/インタヴュー・文/山口 智男、キーワード解説/宮原 亜矢

〈きれい。ヘン。〉? 〈かなりヘン〉?


 ニュー・アルバムの制作に着手したパニック・アット・ザ・ディスコ(以下PATD)が手始めに作った新曲を聴いた際、彼らの所属しているフェルド・バイ・ラーメンのレーベル・オーナー、ジョン・ジャニックは心配でたまらなかったそうだ。

 「バンドがどういう方向に進みたいのか、まったく理解できなかったんだ。PATDを見い出したピート・ウェンツ(フォール・アウト・ボーイ)も僕と同じ意見だったみたいだよ」(ジョン)。

 どうやらその気持ちはバンド・メンバーも同じだったらしい。彼らは、ダンサーを加えたシアトリカルなショウの延長上で〈新作をミュージカル仕立てのコンセプト・アルバムにしたい!〉とのアイデアを膨らませ、ファンタジー風のラヴストーリーを軸にした曲をまずは5〜6曲作ってみたという。しかし、ジョンやピートに聴かせる以前から、当の本人たちが確かな手応えを感じられずにいたようだ。そこで最初のアイデアをボツにすると、発想を180度逆転させてそれぞれ異なるタイプの曲を集めたアルバムを作ろうと決意。さまざまな影響を反映させた曲を一気に書き上げると、地元ラスヴェガスでレコーディングを行い、最後にアビー・ロード・スタジオでオーケストラを重ねて、このたびの新作『Pretty. Odd.』を完成させた。その間わずか5か月!

 「新作を作るにあたり、昔から持っていたアイデアや新旧さまざまな音楽から得た影響をとことん突き詰めていったんだ」(ブレンダン・ウーリー、ヴォーカル/ギター/キーボード)。

 ストリングスとホーンをフィーチャーした先行カット“Nine In The Afternoon”を通じて、すでに彼らの変化に驚いたファンも多いことだろう。しかし、それは序章にすぎなかった。〈きれい。ヘン。〉とも〈かなりヘン〉とも受け取れるタイトルを掲げた2年半ぶりのニュー・アルバムを聴けば、これが今年いちばんの話題作にして問題作であることを思い知らされるはずだ。いちエモ・バンドとしてデビューした時のPATDを知っていればなおさらのこと。
パニック!アット・ザ・ディスコの2005年作『A Fever You Can't Sweat Out』(Decaydance/Fueled By Ramen)


おのずと音楽だって変わるんだよ

 2005年にリリースしたデビュー・アルバム『A Fever You Can't Sweat Out』のたった1枚で、エモ・シーンにダンサブルなエレポップ・ブームを巻き起こしたこの4人組は、あっという間にブレイクを成し遂げた。そのセンセーショナルな人気は、まさにロック・シーンの寵児という言葉が相応しいだろう。

 「デビュー・アルバムに比べて、今回の新作を耳にする人が増えることはわかっていた。正直、ちょっと怖いとも思ったよ。だけどそれが新作に影響したかというと、しなかったと自信を持って言えるね」(スペンサー・スミス、ドラムス)。

 その言葉どおり、彼らはダンサブルなエレポップ・サウンドをあっさりと切り捨てて〈脱エモ〉を図ったと共に、全編にオーケストラを配したサイケ・ロックな音作りに挑んでいる。

 「両親の影響でビートルズを聴いていたから、もともとそういう曲を作りたいとは思っていたんだ。いかにもなバンド・サウンドじゃなくて、もっとスロウな曲をね。デビュー・アルバムを作った時もそういうアイデアはあったんだけど、時間とオーケストラを雇う予算がなかったんだよ(笑)」(スペンサー)。

 「今回は自分たちが思うように曲を作ることができたよ。ビートルズ、ゾンビーズ、クイーン……昔のロックもたくさん聴き、凄いと思えるスタイルはどんどん吸収していったんだ」(ブレンダン)。

 「自分たちが楽しいと思える楽曲を、ただひたすら作ったって感じかな」(ライアン・ロス、ギター/キーボード)。

 『Magical Mystery Tour』を意識したと思しき“Nine In The Afternoon”に顕著なように、中期ビートルズからの影響はあきらかだ。しかし、本作にはそういったサイケ・ロック・ナンバー以外にも――例えばバウンシーなソウル・チューン“She's A Handsome Woman”、オールド・タイミーなジャズ曲“I Have Friends In Holy Spaces”、ミュージカルの名残が聴き取れる“Behind The Sea”、カントリー・フレイヴァー濃厚な“Folkin' Around”、クラシカルなチェンバー・ポップ“She Had The World”、ファンキーなロックンロール“Mad As Rabbits”などなど――バンドの目論見どおり多彩な楽曲が収録されている。だが、それだけいろいろな曲が揃っているにも関わらず、不思議なほど統一感を感じられるところが本作の完成度の高さと、そして何より彼らが確固たる世界観を持ってサウンド作りに臨んでいることを物語っているのではないだろうか。

 「これを聴いたら、ファンはきっとビックリすると思うんだよね。でも僕たちもずいぶん成長して、考え方も変わったんだ。前作と同じようなサウンドを作ることはファンに対しても自分たちに対しても偽ることになる。バンドが成長すればおのずと音楽だって変わるんじゃないかな」(ライアン)。

 新作における変化と著しい成長は、ロック・シーン全体を驚かせるに違いない。しかし、新しい音楽を作り上げる喜びをたくさんの人と分かち合いたいと願うメンバーのポジティヴなヴァイブが作品全体から滲み出ているこの『Pretty. Odd.』は、驚き以上に多くのリスナーを虜にするはずだ。

 「前よりもいいと思える作品が完成したという意味で、『Pretty. Odd』はデビュー・アルバムよりも気に入っているよ。だからこそ、みんなに聴いてもらいたいんだ」(ブレンドン)。
パニック・アット・ザ・ディスコのニュー・アルバム『Pretty, Odd.』(Fueld By Ramen/Atlantic/ワーナー)


KEYWORD 1:MUSICAL

 ラスヴェガスで育ったPATDの面々は地元のエンターテイメントの他にも、ブロードウェイ・ミュージカルやシルク・ドゥ・ソレイユといった大掛かりな舞台に強く影響を受けてきた。加えて、「サウンド・オブ・ミュージック」に刺激され、ブレンダンはヴォーカリストを志すようになったという。初来日公演こそシンプルなバンド・セットだったが、人気の上昇に伴って予算が使えるようになると、ステージも「ムーラン・ルージュ」の世界観を思わせるショウ形式へと進化。ダンサーを従えて華麗に舞うブレンダンは演技も達者で、ギターのライアンにキスをする場面もお馴染みとなっている(ちなみに一時ゴシップ誌を騒がせた2人の熱愛報道はまったくのデマだそう!)。新作でも、まさにショウの幕開けのような華々しい冒頭曲をはじめ、情景や感情描写が豊かなミュージカル風の楽曲が多数披露されているが、それもこれも彼らのルーツを考えれば自然な結果だったと言えよう。
▼サントラ盤を紹介。
65年作『The Sound Of Music』(RCA)
2001年作『Moulin Rouge』(Interscope)


KEYWORD 2:STORYTELLING

 ほぼすべての歌詞を手掛けるライアンは、ヘミングウェイやオスカー・ワイルドを好む大の読書家。こと作詞においてはアダム・デュリッツ(カウンティング・クロウズ)とトム・ウェイツを憧れの対象に挙げている。ジャケもそっくりなカウンティング・クロウズ『Hard Candy』からは甘くホロ苦い思い出に浸らせるストーリーテリングの技法を、トム・ウェイツからは繊細な情景描写のノウハウ(とりわけ新作で比喩や形容に月や太陽が用いられている点は、デビュー作『Closing Time』を参考にしたのでは?と推測できる)を習得。なお、トムはジャック・ケルアックの小説をきっかけにビートニクへ傾倒するのだが、PATDの“She's A Handsome Woman”にも〈Beat Backbones(ビート派のバックボーン)〉なる一節を発見!
カウンティング・クロウズの2002年作『Hard Candy』、(Geffen)
トム・ウェイツの73年作『Closing Time』(Asylum)


KEYWORD 3:LOVE THE BEATLES

 自他共に認める新作の最大の特徴は、これまでのどのエモ・バンドよりも大胆かつ巧みに採り入れられたビートルズ・サウンドだ。ストリングスを含むレコーディングの最終作業をアビー・ロード・スタジオで行うなど、徹底ぶりも話題となっている。実演の難しさを想像せずにはいられない、凝ったサウンド・プロダクションがなされているあたりは66年作『Revolver』を連想させ、最新シングル“Nine In The Afternoon”では『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』と『Magical Mystery Tour』が同居したようなマジカル・サイケ・ワールドを大展開! いまのミュージック・シーンが失いつつあるオリジナリティー溢れる音楽の創造をめざしたPATDが、デビュー・アルバム制作後に改めて聴き返したのが、他ならぬビートルズだったという。それを踏まえて、大先輩への憧憬がこの2作目でモロに音へと反映されているのが微笑ましい限りだ。
▼ビートルズの作品を紹介。
66年作『Revolver』(Apple/Capitol)
67年作『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』(Apple/Capitol)
67年作『Magical Mystery Tour』(Apple/Capitol)


KEYWORD 4:CHORUS

 新作で試されたバンドの新たなアプローチのひとつに、全員参加のコーラスが挙げられる。なかでも“Nine In The Afternoon”でのそれは、クイーンの“Bicycle Race”への回答なのかと思えるほど! なお、ライヴではクイーンのカヴァーをレパートリーに入れていたくらい、ビートルズ同様に強い影響を受けたと本人たちも公言している。ひょっとすると彼らは声を重ねる楽しさを、その時にステージ上で知ったのかもしれない。オーヴァー・ダブが施された各パートの音も確かに印象的だが、実はメロディー・オリエンテッドな本作。シーン屈指のヴォーカリストを盛り立てるコーラスは、楽曲の深みと爽やかさに一役買っていることは間違いないだろう。
クイーンのベスト盤『Jewels』(EMI Music Japan)


KEYWORD 5:NEXT TO EMO

 PATDに先駆けてビートルズやクイーンの影響を前面に打ち出したマイ・ケミカル・ロマンスを皮切りに、ヒップホップの要素を導入したフォール・アウト・ボーイ、今年のグラミー新人賞にノミネートされたパラモアなど、シーンを飛び出し、メインストリームを意識した作品を発表するエモ・バンドが後を絶たず、それぞれ高い評価と名声を獲得している。そんななかPATDも新作で変貌ぶりを見せているわけで、従来のファンは大きな衝撃を受けること確実だ。さて、先述のバンドと同じく、PATDもこれを機にさらなる成功を収めることができるだろうか? まあ、その答えはすでにわかりきっているのだが。
マイ・ケミカル・ロマンスの2006年作『The Black Parade』(Reprise)
フォール・アウト・ボーイの2007年作『Infinity On High』(Island)
パラモアの2007年作『Riot!』(Fueled By Ramen)


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