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掲載: 2008/05/15 更新: 2008/07/17
ソース:『bounce』誌 298号(2008/4/25) |
ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!
文/北爪 啓之、冨田 明宏
| | THE DOORS『Live In Pittsburgh 1970』DMC/Rhino |
僕は阿智本悟。大学卒業と同時に生まれ育った北国を離れ、先月東京(北区)に越してきたばかり。就職先に東京を選んだ理由は、ロックを感じたかったから。そう、ストロークスと出会って以来、僕はロックという熱病に侵され続けているのさ! 阿智本「……ックショイッ! グズッ。ダメだ、鼻水が止まらないや」
どうやらすっかり風邪をひいてしまったらしい。理由はすぐに思い当たった。週末になると連れ回される〈新人歓迎会〉という名の飲み会で、僕は心身共に疲弊していたからだ。その飲み会では、いつもメチャメチャ飲まされた挙句に全裸にさせられ、世間の流行から三拍半ほどズレた部長の要望により、小島よ○おのモノマネを延々とやらされる。まさに生き地獄だ。ドン引きしながらも同情の視線を投げてくる同期の女子たちの顔を、思い出すたびに死にたくなる。ああ、これが五月病なのかな?
阿智本「こんな思いをするために東京にやってきたんじゃないのに……。オイ、北区! オシャレなお店やロックなクラブはどこにあるんだよ!!」
うっ、頭に血が上ったら意識が朦朧としてきた。風邪薬のせいで少し頭がボンヤリする。でも、何だか気持ちが良いなぁ〜。気がつくとフラフラとした足取りで僕は河川敷を歩いていた。と、その時!!
阿智本「こ、これは! マッシヴ・アタックの曲じゃなかったか?」
ヴァージョンは全然違うけど、絶対にあの曲だ。僕はその音楽が流れてくる方向にフラフラと近づき、看板が見えたところで足を止めた。
阿智本「〈居酒屋れいら〉!? 何だ、ボンゾさんの店か……」
前回〈こんな店、二度と来るか!〉と飛び出してきた手前、入りづらい気もする。でも、この不思議な旋律があまりにも気持ち良くて、僕は誘われるように〈居酒屋れいら〉の引き戸を開けた。
ボンゾ「っしゃい! って、お前かよ。酷いツラしやがって、大丈夫か?」
白髪のオールバックに口髭、それにレイバンのティアドロップをかけたオヤジ=ボンゾさんがそこにいた。この前のことは気にしてないみたいだ。
阿智本「そんなことよりボンゾさん。いま流れてるこの曲、マッシヴ・アタックだよね? 『Protection』の10曲目に入っていた、確か……そう、“Light My Fire”だ!」
ボンゾ「お、ちょっとは勉強してきたようだな! だが、そのマッスル・アタックってヤツは、きっとカヴァーだぜ。何せ“Light My Fire”といやぁ、ドアーズの大名曲だからな!」
ドアーズ!? 本で読んだことがあるから名前は知ってるけど、確か〈サイケデリック・ロック〉って書いてあったような。しかしこのオルガン、頭の中をグルングルン回って、スゲェ〜気持ちイイィィィ!
阿智本「ほへぇ〜、これがサイケかぁ〜。音的にはアーケイド・ファイアとかキルズみたいな〈ダークでニヒリスティックなロック〉って感じ?」
ボンゾ「おいおい、少し聴いたくらいで知ったような口きくんじゃねぇよ。ドアーズは確かにサイケだが、哲学や文学性をロックに取り込んだバンドとして偉大なんだ。ちなみにこのアルバムは、70年のピッツバーグ・ライヴを収録した奇跡の発掘音源だ……おし!」
頭がクラクラして何を言っているのかサッパリ聞き取れない。ボンゾさんは壁に掛けてあったレコードから盤を抜き、ジャケットを僕に手渡した。
ボンゾ「西海岸サイケの真髄、ジェファーソン・エアプレインを聴かしてやる!」
ぶっひゃ〜〜〜! モノ凄いリヴァーブ! そして、なんだこの幻想的なコーラスは! こんなロック聴いたことないよぉぉぉぉおおおおおん!
ボンゾ「ふっ、昔を思い出すぜ。ワケもわからずラヴとかピースとかいってチューリップ帽を被ってたあの頃を……って、オイオイ! お前、顔色悪すぎるぞっ!」
まったくボンゾさんたら何を言っているんだよ。僕は素直に感動しているんだ。何かこう、熱いものが下から込み上げて……いまにも溢れてきそうで……あ、れ?
阿智本「うぷっ! うぇ〜〜っ!!」
ボンゾ「ぎゃーっ! 俺の青春が詰まったレコードに何しやがるんだ、テメェ!! いますぐ出てけーーーっ!!!」
〈居酒屋れいら〉を追い出され、どうにかアパートまで辿り着き熱を測ってみたら、何と40℃もあったとさ。母さん、東京の生活は過酷です……。
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文/阿智本 悟 ヤングな耳で聴くアダルト盤
JEFFERSON AIRPLANE 『Surrealistic Pillow』 RCA/Magic(1967) 冷静になって聴いてもこの音は凄いな〜。楽しげな感じもするけど、ドアーズとは全然違う危険な匂いもうっすら漂わせている。これがサイケの真髄なのかぁ……。
QUICKSILVER MESSENGER SERVICE 『Happy Trails』 Capitol(1969) これ、マイ・モーニング・ジャケットみたいじゃない? 他のサイケと比べると少しハードで渋みがあるね。個人的にはジェファーソンのほうが好みだけど。
VANILLA FUDGE 『Vanilla Fudge』 Atco(1967) ドラムとオルガンの音がデカッ! ギター以外の楽器がここまで前に出てくるロックって斬新かも。奇妙でオドロオドロしい感じもあって……その不気味さはサイケってこと?
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文/ボンゾ アダルトな耳で聴くヤング盤
MASSIVE ATTACK 『Protection』 Circa/Virgin(1994) 妙にフワ〜ンと宙に浮かぶような音楽だな。最近ではこういうのをサイケって呼ぶのか? “Light My Fire”のカヴァーはリー・ペリーとクラフトワークのセッションみたいだ。
THE ARCADE FIRE 『Neon Bible』 Sonovox(2007) 何だか一筋縄ではいかね〜。雑多な要素を感じるサウンドだが、全体的にサイケデリックではあるな。ドアーズに似ているかどうかはともかく、なかなかおもしろいじゃねえか!
THE KILLS 『Midnight Boom』 Domino(2008) ほう、ドアーズほどの文学性は感じないがどこか退廃的な匂いもあって、男女デュオという小編成にしちゃイカしたロックンロールじゃねえか! ところで何、コイツら付き合ってんの?
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文/内山田 百聞 再発先生奇談 続々とリイシューされる幻の名盤や秘宝CDの数々──それらが織り成す迷宮世界をご案内しよう
〈居酒屋れいら〉に若者が入って来て騒がしくなったので店を後にした。私は内山田百聞。売れない三文作家であるが、道楽のリイシュー盤収集にばかり興じているゆえ、周りからは〈再発先生〉などと呼ばれている。そのあだ名を自分でもまんざら悪くないと思っているから始末に負えないのだが……。
さて、店を出た私がホロ酔い気分のまま赤羽の商店街を遊歩していると、ふいに背後から肩を叩く者があった。
「あら、再発先生じゃありませんの!」。
振り返るとそこには近所に住む緑川家の若奥さんが、妖艶な微笑みを湛えて佇んでいた。
「アタシ、こんな機会をずっと待っていましたのよ」。
その言葉にドキリとした私を尻目に、夫人は長葱と大根が覗く買い物籠からおもむろに何枚かのCDを取り出した。
「実はアタシも先生と同じ道楽者なの。特に執心しているのは女性ヴォーカルもの。その筋では〈青蜥蜴〉と呼ばれているんですの、ホホホ」。
青蜥蜴? 何のことだかサッパリわからないが、私は彼女の妖しい魅力と迫力に気圧されて一言も発することができないでいた。
「ねえ、先生、こんなのどうかしら? 60'sガールズ・ポップのシャングリラス『Leader Of The Pack』(Charly/VIVID)よ。当時としては珍しいアバズレ感がとっても素敵。
同じ頃にスウィンギン・ロンドン・シーンで活躍していたルルの65年作『Something To Shout About』(Decca/Revola)でのシャウトも、男勝りで痺れますわね。
英国では後にフリートウッド・マックに参加するクリスティン・パーフェクトのソロ音源集『The Complete Blue Horizon Sessions』(Blue Horizen/ソニー)もブルージーで浸れるし、米国なら謎多きシンガーのスーザン・カーターが70年に発表した『Wonderful Deeds And Adventures』(Epic/ソニー)もジャジーで雰囲気があるわ。
でも、先生はコクトー・ツインズの83年作『Head Over Hills』(4AD/Beggars Japan)みたいな静謐な幻想世界のほうがきっとお好みなのよね、ウフフ……あら、いけない! お肉屋さんが特売日だったのを忘れていたわ。では先生、またいつか。ごめんあそばせ!」
〈青蜥蜴〉こと緑川夫人はそう言った後、私に向かって一瞬妙な流し目を送ると、そのままヌルリと足音も立てずに雑踏の中へ姿を消していった。その後ろ姿は確かに一匹の艶めかしい、大きな爬虫類のようであった……。
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