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ASA

掲載: 2008/05/15

ソース: 『bounce』誌 298号(2008/4/25)

熱い空気を含んだアコースティック・ソウルが風に舞う・・アフリカ音楽の新たな表情を提示するナイジェリア出身の女性シンガー・ソングライターが登場!

文/松山 晋也




 力んでいるわけじゃないのだが、そのまったりとしたナチュラルな節回しは、クールネスやメランコリーを湛えながら、実にソウルフル。言葉のひとつひとつが、静かにゆっくりと心に沁み入ってくる。そして、フォークとソウルを軸に、レゲエやジャズやアフロなどのさまざまなエレメンツがまろやかに溶け合ったサウンドは、品のいい都会的マナーに拠りつつも、大自然の中で育まれた野生児的な大らかさと土臭さを滲ませている。〈アーバン・アフロ・ブルー〉とでもいったキャッチフレーズが相応しい魅惑的な歌声だ。 

  「さまざまな音楽を聴いて育ったから、どんなスタイルの音楽にもオープンなの。また私は、本来の母国語であるヨルバ語も習った。それによっても独自の表現方法が形成されたと思うわ」。

 ファースト・アルバム『Asa』が昨年秋にまずフランスでリリースされて以来、この半年ほどで、ヨーロッパ中のヒット・チャートを席巻してきたナイジェリア出身の女性シンガー・ソングライター、アシャ。ゴールデン・ウィークの直前に、満を持して日本盤化される。 
4月27日に日本盤がリリースされた、アシャのファースト・アルバム『Asa』(Naive/プランクトン)

 寂寥感はジョーン・アーマトレイディング、ブルース感覚はニーナ・シモンやジーン・リー、前向きな力強さはローリン・ヒルやエリカ・バドゥ、フォーキーなカジュアルさはトレイシー・チャップマン……などなど、「私のお気に入り」と語るこうした先達からの強い影響は、誰もがすぐに聴き取れるはず。だが、そうした先例のお手軽なパッチワークなどに堕していないからこそ、ここまでの大反響を起こしているわけで。欧米の優れたポップ・ミュージックに学んでそのエッセンスを巧みに取り込みつつ、しかしアシャの軸足は常にアフリカの大地をしっかりと踏みしめてきた。

  「盲目でグレイトな人。ナイジェリアでは地元のミュージシャンのプロデュースをたくさんやっている」と彼女が全幅の信頼を寄せるアレンジャー/プロデューサー/マルチ・プレイヤーのコプハムズ・エマニュエル・アスークォによるサウンド・プロダクションは、随所でアフリカン・テイストが散りばめられているし、また一部ヨルバ語を用いた本人による歌詞も、母国ナイジェリアをはじめとするアフリカ諸国の不条理とも言うべき貧困や不正などをモチーフとしている。もっとも「自分の周り、社会で実際起きていることを歌っているだけで、特定の人や組織を非難しているわけではない」という発言どおり、表現はあくまでもポエティックだが。そして何よりも、圧倒的な母性と包容力、ポジティヴィティーに溢れたアシャの大らかな声が、アフリカそのものではないか。 

  「ビジネスや金銭が優先される産業社会にいる以上、私は自分のキャリアのベストを尽くすためにもオープンな姿勢で新しいことを試し続けたいと思う。でも、私はヨルバ族であり、ナイジェリア人。部族出身ではないのに偽って歌おうとする、迷子のアフリカ人ではないの。自分がどこから来たのかということを私はわかっているし、そこから逸脱したくない。〈暗黒大陸〉からだってたくさんのポジティヴなこと、美しいものが生まれているってことを世界に見てもらいたい。いつだって、私の歌を聴くすべての人々が希望を持ってくれればと祈っているの」。 

 グローバルで都会的なポップ・ミュージックをめざしつつ、しかし意識はどこまでも前向きなアフリカン。己のルーツを知る者はやはり強いということか。
ジョーン・アーマトレイディングの76年作『Joan Armatrading』(A&M)
ニーナ・シモンの71年作『Here Comes The Sun』(RCA)
エリカ・バドゥの2008年作『New Amerykah Part One(4th World War)』(Motown)
トレイシー・チャップマンの2005年作『Where You Live』(Atlantic)


文/佐々木 俊広、本橋 卓

アシャに通じる世界各国の女性シンガー・ソングライターを紹介


YAEL NAIM 『Yael Naim』 Tot Ou Tard(2007)
6月の来日公演ではアシャと共演の予定もあるヤエル。最小限のバンド編成(と音数)で、フォーキーなサウンドとシルキーな歌を紡いでいくという近似性は、互いにパリ育ちならではの身体に染み付いたセンスなのか、それとも単なる偶然か。
(佐々木)



CORINNE BAILEY RAE 『Corinne Bailey Rae』 EMI(2006)
アシャもフェイヴァリット・アーティストのひとりに挙げている彼女。R&Bやジャズのソウルネスを持った楽曲をオーケストラルな薄皮で美味しく丁寧に包み込む匠の技を、アシャは彼女からきちんと学び取っているようだ。
(佐々木)



AYO 『Joyful』 Polydor(2006)
サウンドの核にフォーキーなギターがあり、そしてアフロ・ルーツを有するなど、アシャとの共通点が多いフランスの歌姫。土臭さやルーツ・レゲエへの傾倒ぶりにより顕著に表れているかも。両者とも可憐さと力強さの同居する歌声が独特の味なんだな!
(本橋)



MARTHA WAINWRIGHT 『Martha Wainwright』 Zoe(2005) R&Bの影響を強く感じさせるアシャ。でもその魅力を手繰っていくと、隠し味的に効いてるのはロッキンな疾走感と焦燥感だ。この胸の締めつけられ具合は以前にも確かどこかで……と思い返せば、デジャヴの源は今作でした!
(本橋)



SOUAD MASSI 『Mesk Elil』 Wrasse(2005)
アニメ映画「アズールとアスマール」の主題歌でも知られるアルジェリア出身のシンガー・ソングライター。フラメンコやアラブ歌謡など、地中海の大らかな開放感を感じさせるサウンドのなかに現れる力強いコブシ回しにアシャを連想したりも。
(佐々木)



湯川潮音 『湯川潮音』 EMI Music Japan(2006)
声質は全然違うけど、牧歌的でフォーキーな音作りや間の取り方が絶妙なところから類推すると、この人にもアシャとの共通項が見い出せる。歌にちょっと愁いのある感じや、サウンドが特定の場所を想起させないところなども近似してるよね!
(本橋)



KT TUNSTALL 『Eye To The Telescope』 Virgin(2006)
アシャの歌を何回も繰り返して聴きたくなる理由って、語尾にちょっぴり現われる土臭さにあるのかも。中国とスコットランドをルーツに持つこのシンガーがフレーズの終わりに効果的に使うコブシもまた、得も言われぬ中毒性があり!
(本橋)



YUSA 『Breathe』 Tumi(2005)
〈キューバのトレイシー・チャップマン〉とも評される彼女。欧米ポップスのエッセンスの咀嚼方法やブラック・ミュージックを土台にした音楽性はもちろん、スペイン語、英語、仏語が混在するマルチ・リンガルなおもしろさも、アシャに負けず劣らずである。
(佐々木)

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