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 掲載: 2008/11/20 更新: 2008/11/21 |
大人たちが想像/創造する〈15歳の女子〉という記号を超えたところで、眩いほどの輝きを放つ――。南波志帆のデビュー・アルバムには、そんな彼女のキャラクターやマインド、歌声が持つピュアネスを知性的に楽曲へと落とし込んだ、とびきり良質なポップ・ミュージックがパッケージされている。〈彼女の日常=リアル〉を〈音楽=ファンタジー〉へと変換する手助けをしたポップス職人たちの話から、彼女の魅力にほんの少しでも近づけたら……。
文/久保田泰平
南波志帆。93年、福岡県生まれの15歳。現在、中学三年生。特技はダンス、硬筆(特待生)、習字(9段)、水泳。明朗活発。優等生。目力が強い。クラスの男子はもちろん、女子でも憧れてしまうほど可愛い……と、こんな表層的な情報だけで、「きっと小学生の頃は、近所の人から〈モーニング娘。に入ったら?〉なんて言われたことがあるはず」――なんて〈萌え〉てしまったキミ! そんなキミには、彼女のデビュー・アルバム『はじめまして、私。』をぜひ聴いてもらいたい。弾けるようなサウンド、メロディー、15歳の日常が透けて見えてくるような詞世界、ピュアで清涼感のある歌声――これはもう、可愛いだけのアイドル・ポップなんかとはモノが違う。15歳女子のリアル・マインドをリアルな色合いで伝える〈有機質〉なポップス作品誕生!……というわけで、今作のプロデューサーである矢野博康氏に話を訊いてみた。
――彼女をプロデュースすることになったのは、そもそもどういうきっかけで?
矢野博康(以下、矢野) もともと彼女は地元の福岡で、小さい頃からイヴェントでダンスを踊ったり、舞台に出演したり、色々活動をしていたんですけど、TOKYO FMの「SCHOOL OF LOCK!」の企画した〈モデチャングランプリ〉に応募して、そこで準グランプリに選ばれたんですよね。それで、彼女に興味を持っていた事務所の方から、「南波志帆をCDデビューさせたい」という話がレーベルに来て、そこから僕にオファーがあったと。
――どんな作業から始めていったんですか?
矢野 まずは声を聴かなくちゃってことで、いろいろ歌わせたんですよね。30曲ぐらい歌ってもらったかな。もちろん全部カヴァーですけど、そのなかにキリンジとか、今回の制作に携わってもらったミュージシャンのものとか入れておいたりして。春先は、どんな音だったら彼女の声に合うかなっていうことを探ってましたね。
――結果、見事にハマッたのが、デビューCDに収められたようなサウンドという。
矢野 そう。温度感の高いオケだと、曲調に声が引っぱられちゃうというか、彼女ならではのものが出ないなって。もうちょっと清涼感のある、清々しいタイプのほうがハマるんですよね。原田知世の“天国にいちばん近い島”とかキリンジの“グッデイ・グッバイ”とか、歌ってもらったなかではそのへんの曲がわりと良かったな。でまあ、そうやって〈熱のバランス〉を彼女と一緒に探っていったんですけど、すごく頭の切れる子でね。最後に録ったのが“昨日の君のひとりごと”っていう曲なんですけど、その頃には僕もシンガーとして接してましたよ。「もうちょっと大人っぽくやろうか」とか、「子供っぽくやろうか」みたいな漠然とした注文も理解できる感じになってたし、「ここはこういう感じがいい」とか自分の意志もところどころ入れるようになってきて。レコーディングはデリケートな作業ではあったけど、僕が言ったことを彼女なりに理解できるし、ダンスをやってるせいか身体で理解しようとするところもある。で、「わかりました!」って言ったあとに歌ったテイクは大抵ズレないというか、僕としては「ああ、わかってくれたんだ」みたいな。すごく器用ですよ。ピッチもいいしね。
――15歳の女の子が歌うポップスとして、最近聴いたことのないテイストのものに仕上がりましたね。
矢野 作ってて僕もそう思いましたね。彼女自身、すごく可愛らしいんですけど、イマドキのアイドル・ポップスにはしたくないなって。いわゆる〈萌え〜〉な感じとかね。そうじゃなくて、本当の意味で15歳らしいポップスを作り上げたかったんですよね。 |
――その昔は斉藤由貴とか原田知世とかね、知性を感じさせる……けど、アーティスティックな面を露呈するわけでもない十代のガール・ポップがあったじゃないですか。南波志帆の世界観はその類を感じさせるんです。〈つたなさ〉もあるけれど、十代なりの精一杯な〈凛々しさ〉もあって……例えば生徒会長とかのイメージにも通じる、一目置きたい存在感があるんですよね。
矢野 僕も性格上、作るにあたっていろいろ聴いて。武部聡志さんがアレンジしてた頃の斉藤由貴や、80年代の原田知世とか、ファン目線で聴いて、参考にしながらいろいろやってみました。そのへんの曲はちょっと〈賢い系〉というか、それは歌ってる本人のキャラクターもあったんだろうけど、そういう空気感や温度感は出していかないとなっていうのは漠然と思ってましたね。そういう意味では〈生徒会長〉っていう表現もアリですよね。実際、彼女は優等生で、同級生の男子から〈南波さん〉って呼ばれているらしいんですよ。〈南波!〉って呼ぶ男子は、女子から〈南波じゃなくて、南波さん〉ってたしなめられるみたいで(笑)。本人はどっちでもいいみたいですけど。まあ、ホントおもしろい子ですよ。
――〈15歳らしいポップス〉という話のつづきですが。
矢野 たぶん、大人たちが勝手にイメージを描いている、型を設けている〈15歳〉っていうのは、あからさまな萌え狙いのものが多かったりするので、彼女の場合、そういうレギュレーションは完全に捨てなきゃいけないなって思って。大人が思う15歳らしい歌をあてがっちゃうと、あまりイマジネーションが広がらないものになっちゃうし、彼女自身、ずっと歌っていきたいという意志があるので、型にハメちゃうのはもったいないなって思ったんですよ。違うわけじゃないですか、大人が描いている15歳と実際の15歳の実像って。だからまあ、曲を作るにあたって、〈夢日記〉というかたちで彼女に取材をしたんですよね。普段どんなことを夢見たり、考えたりしてるのかっていうことを毎朝メールしてもらって、それをとっかかりにしてイマジネーションを広げていこうと。彼女のなかから生み出されるものに合わせてこっちも考えていく、っていう状態をまず作りたかったんですよ。教えてあげるところは教えてあげるけど、基本的には彼女ありきでやっていかないとつまんないかなって。その時、その年頃にしかできないものっていっぱいあるから、彼女の成長とか変化をみながら、歌う内容とか作家のことも考えましたね。
| | 11月18日にリリースされた、南波志帆のデビュー・アルバム『はじめまして、私。』(Living Records Tokyo) |
――そこで参加してくれた作家陣が、キリンジの堀込泰行、宮川弾、土岐麻子、ノーナ・リーヴスの奥田健介と西寺郷太、羊毛とおはなの市川和則というメンツで。
矢野 作り方が作り方なので、僕とのコミュニケーションがとりやすいミュージシャンと一緒にやりたいなと思って、このへんの方々。僕個人が共同作業したことがある人たちにお願いしたんですね。曲も、こんな感じでってオーダーしたものもあれば、おまかせのものもあり。ファンタジーな詞もあるけど、とはいえ、マインドが透けて見えるような塩梅では作っているというか。まったく彼女と無関係な設定はしてないですね。妙にツッパッた歌とかないし(笑)。まあ、そういうものを引き出してくれたのは、彼女のキャラクターだと思うんですよ。曲を作る前に会ったのは僕だけですけど、僕からの説明だけでなんとなく〈あっ、そういうこと〉みたいな感じでイメージしてくれた作家の人たちもさすがですよ。
――さきほど斉藤由貴や原田知世の名前が挙がってましたけど、『はじめまして、私。』の作風は、作家陣が80年代のアイドル・ポップを体験している世代だからこそ、ですよね。
矢野 うん、僕らが30歳未満だったら、こういうまとめ方にはならなかったかも知れないですね。もしかしたら、単純に〈音の世界〉だけでまとめていたかもしれないです。やっぱり、これからずっと歌い続けてほしい女の子だし、音の面が最初からコンセプチュアルになり過ぎちゃうと、あとで融通が利かなくなるというかね。やっぱり、歌い手のマインドや成長に合わせた曲を与えてあげて、それを自然なかたちでパフォーマンスしてもらう――その積み重ねが本当の意味でのアーティストのキャリアになると思ってるし、僕らはポップス・ファンとして、そんなストーリーを楽しんできた世代ですからね。 |
文/bounce.com編集部 15歳女子のリアルがファンタジーに変わるまで――
本作は、いわば〈素の南波志帆〉をサウンドに投影させることで完成した作品。それを実現可能としたのは彼女と作家陣とで図られた密なコミュニケーションだったわけですが、今回、そのツールとして使用されたのが本人による夢日記。〈15歳女子の日常〉が目一杯に詰め込まれたその日記が、どのようにファンタジーへ――ひいては質の高いポップ・ミュージックへと変換されたのか? ここでは、以下に寄せられた作家陣のコメントから、本作が誕生するまでの過程を追ってみます。
■堀込泰行(キリンジ)
彼女自身は、明るくて無邪気。擦れてない。まだ本人以外の何者でもないという印象です。すでにほぼ完成しているいくつかの楽曲を聴かせてもらい、アルバム全体のイメージや彼女の歌声の感じから、「自分が関わるとしたら、どんな曲がいいだろう?」と考えて曲を作りました。歌詞に関しては、ヤングな女の子の気持ちはわからないのですが、〈サンダル〉や〈髪を切る〉などの女の子っぽいキーワードを別のものに変えることで、思いどおりに生きられない老若男女みんなが共感出来るようなものにしようと。結果的には、ポップなロックンロールになりました。
| | 12月10日にリリースされる、キリンジのベスト・アルバム『KIRINJI 19982008 10th Anniversary Celebration』(コロムビア) |
■宮川 弾
“あたらしいくつ”のもとになったのは、〈寝坊した朝、靴にロケットが付いてて、学校まで飛んでいって遅刻せずに済んだ〉という夢日記です。読んだとき、僕自身が中学生の頃に新しい靴を買ったときの感覚を思い出しました。理由の無い万能感。「明日これで走る!」という短いスパンの未来と不安。小さな欠片が繋がって、いつの間にか僕は大人でした。そんな地続きを、通学路から始まる〈物語〉として描いたのが“ストーリー”です。志帆ちゃんに教わりました。未来は突然やって来るんじゃないって。
| | 2009年1月28日にリリースされる、宮川 弾のニュー・アルバム『ニューロマンサー』(cutting edge) |
■矢野博康
彼女は、大人の背筋をピンをさせるくらいピュア。優しさと凛々しさを併せ持っている女の子です。曲に求められている歌唱を常に自分でイメージしながら歌う姿勢も素晴らしいです。
15歳の彼女にとってのリアルとファンタジーが垣間見えたら、という意図から書いてもらった夢日記を、アルバムに参加していただいた作家陣に資料として見てもらい、それぞれの作家が〈南波志帆像〉を想像して作詞、作曲に生かしてくれました。実際に彼女が見た夢を題材にした“あたらしいくつ”のような曲もあります。また、実際の彼女(キャラクターや歌唱)と曲の世界観とのブレをなくしたいという思いから、作家陣にはヴォーカル録りにも立ち会ってもらいました。結果、いまのありのままの南波志帆が透けて見えるような作品になったと思っています。
▼その他の作家、プレイヤー陣の作品
| | ノーナ・リーヴスの2007年作『DAYDREAM PARK』(ジャパン) |
| | 2009年1月14日にリリースされる、土岐麻子のニュー・アルバム。タイトルは未定。(rhythm zone) |
| | 7月にリリースされた、羊毛とおはなのアルバム『LIVE IN LIVING '08』(Living Records Tokyo) |
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文/久保田泰平 南波志帆が歌う世界観――〈生徒会長〉的ポップスで時代を彩る女性シンガーたち
歌い手のキャラクターとマインド、歌声が持つピュアネスを〈賢く〉活かした世界観――つまりそれが南波志帆が歌う〈生徒会長〉的ポップスのキモであるわけだけど、大人のオモチャ的なコスプレ・アイドルやダンス・ユニットが多くを占める昨今、こういったリアルで賢いティーンエイジ・ポップスもなかなかお目にかからなくなりました。思えばアイドル・ポップ全盛の80年代には、歌い手のマインドと作家が編む世界観がナチュラルなかたちで直結した優等生作品がいっぱいあったように思います。
まずは、薬師丸ひろ子や原田知世をはじめとした、いわゆる〈角川娘〉。〈銀幕女優であり歌手〉だった彼女たちは、映画のなかでも歌のなかでもナチュラルな魅力を放ち、ユーミン、大滝詠一、筒美京平、林哲司など、超一流のポップ・クリエイターたちのバックアップによって高品質なポップスを数多く残しました。女優との〈二枚のわらじ〉といえば、斉藤由貴も思い出されますね。〈不思議ちゃん〉の元祖とも言えるほわほわっとしたキャラクターでしたが、歌は意外と情熱的。武部聡志がプロデュースしたシングル曲はいずれも傑作で、近年、つじあやのが“悲しみよこんにちは”、土岐麻子が“青空のかけら”をカヴァーしています。
女優兼……ではなく生粋のアイドル歌手としてデビューしたオンナのコで、リアリティーある〈十代女子〉を賢く表現していたのが岡田有希子。竹内まりや、松任谷正隆、かしぶち哲郎らによる楽曲は言わずもがな高水準ですが、わずか2年の活動のあいだにオンナのコとしての成長ぶりも見事楽曲に落とし込んでくれました。続きが見たかったなあ……。おニャン子クラブは本項の主旨から逸れるけど、比較的賢そうにみえた渡辺満里奈はアリでしょう。二十歳を過ぎてからフリッパーズ・ギターや大滝詠一とのコラボレーションを果たした彼女ですが、そこへ至ったのには、十代の時に歌ったピュアネス全開のポップス、それをとおしての〈等身大の表現〉が礎としてあるんじゃないかと、いまにして思います。
さて、90年代以降はどうでしょう。天真爛漫な曲の世界観が疑うことなくキャラクターと直結した広末涼子の諸作や、意外な低体温感が妙なリアリティーを感じさせる新垣結衣の『そら』(2007年)など、いずれも豪華な作家陣にサポートされた〈賢い〉ティーンエイジ・ポップがありましたが、絶対数は80年代に比べて少ないですね。もっとあってもいいはずなのにねえ……個人的には、綾瀬はるかには歌を続けてほしいと願ってます。
▼文中に登場したアーティストの作品を紹介
| | 薬師丸ひろ子のベスト・アルバム『Essential Best』(エキスプレス) |
| | 原田知世の82〜91年の作品を集めたベスト・アルバム『原田知世ベスト〈2000 BEST〉(ソニー)』 |
| | 斉藤由貴のベスト・アルバム『MYこれ!クション』(ポニーキャニオン) |
| | 岡田有希子のベスト・アルバム『オール・ソングス・リクエスト』(ポニーキャニオン) |
| | 渡辺満里奈のベスト・アルバム『ベスト・コレクション』(ソニー) |
| | 広末涼子のリミックス・アルバム『RH Remix』(ワーナー) |
| | 新垣結衣のファースト・アルバム『そら』(ワーナー) |
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