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 掲載: 2003/06/05
ソース: 『bounce』誌 243号(2003/5/25) |
奔放な音楽的野心と慎重さ、平常心……もろもろのうえで編まれたポップスの数々で、リスナーとの信頼関係を築いてきたCymbals。〈これまで〉を振り返りつつ、ニュー・アルバム『Love You』に込めた情熱を語る!
文/フミ・ヤマウチ Read Me! 本文に入る前に読んでほしい、Cymbalsの〈これまで〉回想&メンバー語り下ろし
69年5月18日生まれの沖井礼二(ベース/ギター)、76年3月22日生まれの土岐麻子(ヴォーカル)、70年12月24日生まれの矢野博康(ドラムス)の3人によってCymbalsが結成されたのは97年6月のこと。しかしながら、ある日突然出会って結成されるわけもなく、そこに至るまでのプレ・ヒストリーというものがございます。
94年、沖井が違う音楽サークルで活動していた矢野をバンド(非Cymbals)に誘うことから始まります。
「面識はなかったんだけど〈あそこのサークルに矢野ってドラマーがいるぞ〉って聞いて(笑)。共通の知り合いを通じて電話番号を聞きだし、ある日突然電話をして、〈いっしょにバンドをやらないか?〉と」(沖井)。
「隣のたまり場に、メジャー・セブンス系のコードをギターで鳴らしながら、うちのサークルではあんまり語られてなかった『女性上位時代』(ピチカート・ファイヴの91年盤。当時、好き嫌いを超えてその斬新な構成が各方面に衝撃を与えた)について語ってる人がいる、とは思ってた。電話で話をしてるうちに、たぶんその人なんだろうなあ……と(笑)」(矢野)。
「それで、いちばん好きな白人といちばん好きな黒人のレコードを訊いて(笑)。矢野さんが言ったのは、ヴァン・ダイク・パークス『Song Cycle』とスライ&ザ・ファミリー・ストーン『There's A Riot Goin' On』で……〈こいつはイケる!〉と」(沖井)。
こうして接点のできた2人の前に、大学の後輩として土岐が登場いたします。
「高校のときにバンドをやってたから、大学でも音楽サークルに入ろうって決めてたんですよ。いちばん最初に勧誘されたのが沖井さんのところで、ほかを回る気力もなかったから、まあいいかと(笑)。その新歓のライヴのときに2人のバンドを観て、気合いの入ってるバンドが世の中にはいるものだなぁって(笑)。Cymbalsとは違って、もっと男臭い感じだったんですよ。ちょっと怖い……やってる人が怖いってわけじゃなくて、気迫が(笑)」(土岐)。
これでCymbalsとなる3人が揃いました。月日は微妙に流れて97年。夜勤のバイトに勤しむ沖井の脳裏に(たぶん音楽の神様から送られた)Cymbalsのコンセプトが閃き……!
「それで土岐に電話して。断られ気味だったんだけど、俺は強引に引きずり込むつもりだったのでそれは置いといて、矢野さんに電話して〈こういう女の子がいるんだけどいっしょにバンドやらないか〉って言って」(沖井)。
「ふたつ返事で〈いいよ〜〉って。ただ、女の子とやるって聞いてたから〈女の子次第ではパッとしないよねぇ〉とは言った(笑)」(矢野)。
「〈ヴォーカルで〉というお誘いだったので。大学ではずっとギターだったから。沖井さんはおもしろいけど、どっちかというと怖い先輩だったし、遊び半分でやってもダメだろうと思って〈私、就職するんで〉って言って。でも実際に集まって話をしてみたら、〈気楽なバンドをやろう〉っていうすごい意外な言葉を聞いたから。夜を徹して〈気楽とはなんぞや!?〉っていう話をすごいしてた(笑)」(土岐)。
その歌声を聴き知らぬはずの土岐に白羽の矢を立てた沖井の勘、なかなかの鋭いものがございます。
「土岐はものすごく冷めた人なので。明るい感じで突き放す音楽をやりたかったから、ケラケラ笑いながらひどいこと言ったりする土岐は向いてるなと。〈沖井さんって、私が見た男の人のなかでいちばんフェロモン出てませんよ、ハッハッハ〜!〉みたいな、男なら誰でも傷つくようなことを平気で言う(笑)。だから、〈ホント大嫌い〉っていうのをホント楽しく歌ってほしくて。なおかつ宅録だし、家で歌うから薄い発声になってくるんですよ。さらにそれがダブったりするとより透明感のある、かつ無表情で楽しそうな音が出来上がって」(沖井)。
こうしてCymbalsは、現在に連なるCymbalsとして始動するのです。
「最初のライヴの3曲目でベースの弦を切って、〈ぶち壊しですよ!〉とステージ上で土岐に言われ……あそこで弦が切れたっていうのがすごくおもしろくて、やり直しで会場全体の雰囲気がゆる〜くなる感じ、それが当時のCymbalsの雰囲気を決定づけた感もあるかな。そうしたくてもどうしたらいいのかわからなかったのが、弦が切れたことによって可能になった」(沖井)。
偶然をも味方につけつつ、奔放な音楽的野心と〈音楽の落とし穴〉にハマらぬ慎重さ、平常心(これ大事)、好ましい天の邪鬼さ(これも大事)でもって進んできたCymbalsのこれまでの歩み。中古CD屋でほとんど見かけぬ事実も、彼らのディスコグラフィーの充実、築き上げてきたリスナーとの信頼関係を物語ってるのではないでしょうか。あらゆるCymbals作品の賞味期限は、驚くほど長いのです。
「それは、僕たちが賞味期限の長い先輩方の音楽をいっぱい聴いてきたから、その影響がキレイに出たんじゃないですかね。ただ毎回、作品作るたびに思うのは、長く聴いてもらえるレコードを作りたい……それこそやっぱりいちばん重要なことだと思うから」(沖井)。
それと、本人たちはまったく無意識でしょうが、僕にはCymbalsの歩みが、そのときどきのムードを咀嚼して特定のスタイルに縛られない表現に昇華してきたプライマル・スクリームのそれとダブって見えてしょうがありません(音楽性の相違はもちろん認識しつつ)。とくに、2002年のアルバム『sine』は、僕にとって、その年の夏(とCymbals)を忘れられないものにしてくれた作品で、もはや〈Cymbals音楽〉としかカテゴライズできない独特のムードを放っていました。世間的なムーヴはともかく、このアルバムによって、2002年の夏は僕にとっての〈サマー・オブ・ラヴ〉になったのです。 前作と次作の架け橋たるその立ち位置が、プライマル・スクリーム『Dixie-Narco EP』を彷佛とさせるシングル“Love Thing”を経て、新作『Love You』で、彼らはいかなるアクションを起こしているのでしょうか──?(さあ、本文へ!)。
▼ Cymbalヒストリーを体現するためのディスクたち
| | 98年のミニ・アルバム『NEAT, OR CYMBAL!』(LD&K) |
| | 『Missile & Chocolate』(LD&K) |
| | 99年のシングル“午前8時の脱走計画”(ビクター) |
| | 2000年のアルバム『That's Entertainment』(ビクター) |
| | 2000年のシングル“Do You Believe In Magic?”(ビクター) |
| | “Highway Star, Speed Star”(ビクター) |
| | アルバム『Mr. Noone Special』(ビクター) |
| | 2001年のカヴァー・ミニ・アルバム『RESPECTS』(ビクター) |
| | EP『Higher than the Sun e.p.』(ビクター) |
| | リミックス・アルバム『Well-done』(ビクター) |
| | 2002年のシングル“Wingspan”(ビクター) |
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『Screamadelica』に〈愛の夏〉の記憶を封じ込めたプライマル・スクリームが、その次に向かった先はアメリカ南部、メンフィスの地。自身の、あるいは根源的に〈ダンス〉のルーツ探究の果てに彼らが持ち帰ったのは、躍動感溢れるサザン・ソウル・アルバム『Give Out, But Don't Give Up』だった。一方、われらがCymbals。一大叙事詩『sine』明けとなるニュー・アルバム『Love You』は、こちらの予想(『sine Part.2』でもエエなあ)を心地良く裏切る、これまでのCymbalsにはあるまじき(?)レコードとなっていた。南部詣のプライマル・スクリームに対し、彼らはどこに向かっていたのだろうか。 |
聴き手や音楽との誠実なコミュニケーション
「どこだろう?(笑)……まあ、〈毛穴感〉という意味では(プライマル・スクリームの南部詣と)いっしょですけど、語りにくいレコードではあるんですよ。これまでは、アルバム作る前から理論武装できちゃったりしたけど、今回は丸裸ですからね。ホントは、〈出ちゃった〉とか〈出さざるを得なかった〉とか、そういうもんばかりなんですよ。たとえばビートルズでいうと、『St. Pepper's Lonely Hearts Club Band』を出したあとの〈ホワイト・アルバム〉(『The Beatles』)って感じですね。あれもたぶん、曲の流れとかどんなアルバムを作ろうかとかぜんぜん考えない、すごい散らかった作品だと思うんですけど、ただ、どのアルバムよりも〈ビートルズとはなんぞや?〉ということが、逆にわかりやすくなってる。あれはすごいオープンなレコードだと思うんですけど、そういうレコードを作ろうとすると、結果としてそういう手法をとらざるを得ないという」(沖井礼二)。
Cymbalsの船頭(?)、沖井をしていまだ客観的な視座を持ち得ないのがこの『Love You』。かつての〈Mr.Noone〉のような案内役に代わってアルバムを牽引するのは、曲そのもののカロリー、あるいは曲の連なりが生み出す感慨。小説でいえば短編集。TV番組や映画でいえばドキュメンタリー。Cymbalsらしさは厳然とそこここにありつつも、これまでとはまったく別種の気分を呼び起こすこの作品は結果、ポップ・ミュージック、ロック・ミュージックというものの伝統的なあり方に対して、非常に真摯に、ヤンチャに、情熱的に斬り込んだ印象に。
「〈開いたもの〉を作ろうと思ってるときに、それ以外のやり方が出てこなかったんですよ。それはたぶん、僕らが受けた音楽の恩恵に対する恩返しっていうかね。〈コンセプト〉って作品をわかりやすくするものではあるだろうけど、今回のアルバムはいままでと違って、コンセプトを作らずに自由連想法的に曲を作って。あたりまえのことかもしれないんですけど、Cymbals的にはすごく冒険だった。狙ったのはただひとつ、聴き手や音楽との誠実なコミュニケーション、それだけは守らなくては、と」(沖井)。
| | Cymbalsの通算4枚目となるアルバム『Love You』(ビクター)。タイトルが示すとおり、誠実な愛情を込めて作られた珠玉のポップ・ソング全12曲収録 |
なにしろタイトルから『Love You』だからして。Cymbalsと楽曲、楽曲とリスナー、それぞれの距離感が、つまりはCymbalsとリスナーの距離感に比例していく。その距離が、今回はこれまで以上に近い、と。翻ってみると、高度にコンセプチュアルに編集された作品を送り出してきた一方で、ショウマンシップ溢れるステージングでオーディエンスを魅了してきたのもまた、Cymbalsの本質だったりする。
「ステージは、なにかしらの空気が生まれてこそ、というところはありますね。それを作るのが演出だったりすると思いますけど」(矢野博康)。
「お客さんがいてこそステージが成り立つんだから、そこは〈コミュニケーションの場〉でありたいんですよね。そこで今回のアルバムに繋がっていくんですけど。コミュニケーション・ツールとしてのアルバムっていうことで、まさに今回のアルバムはドンピシャなんですよね。それがとにかくやりたかったなって。いままでもそれは絶対に気持ちのなかにあったはずなんですが、やっぱりどうしても箱庭になっていくんですよ。それはそれでものすごくおもしろい箱庭かもしれないですけど、今回はもう〈開いた作品〉を作りたいということで。ライヴ会場に来ているような感覚を持ってもらいたいですよね」(沖井)。 |
地面を歩く感じにしたかった
演奏や構築の雑さというものとは無縁に、このアルバムにライヴリーな感触を与えているのは、ひとえに〈温度〉ということに尽きる。メンバーそれぞれの、あるいはメンバーの総体であるはずのCymbalsという〈人格〉の人となりが見えてくる感じ。つまり、演奏や楽曲に残る演者や作者の体温がこれまで以上に高いと。そして、Cymbalsの矜持ともいうべきドリーミー(悪夢も含めて、ね)な音楽性はそのままに、向上した肉体性を含めたリアリティーが、このアルバムの一貫したトーンを形作っているのだ。 「今回は、踊れたり自然と体が動いたり、そういうものにしたかった。ファースト〜セカンド・アルバムは、演奏とかの感情とヴォーカルの感情が真逆で、熱い演奏に軽いヴォーカルっていうアンバランスを考えてやってたんですけど、今回は、ストレートに曲の感情を引っ張っていくという。そういう歌い方で、聴いてる人を踊らせたり歌ったりさせたいっていうのがあったんで、自分の肉体的なところを鍛えてアップさせてやってみました(ニッコリ)」(土岐麻子)。
「コンセプトではないんですけども、すごく意識したものは〈地面〉。〈地面のレコード〉を作りたいな、とは思ってて。要は、空を飛ぶ夢を見るとかっていう〈妄想〉ではなく、地面を歩く感じにしたかったってことなんですけど。それは、オーディエンスとこのレコードを共有したいから。〈共有〉ってのがすごい大きなもので。いま、ネットでレコーディングのドキュメントをやってるのもそれなんです。なんでそれをやりたいと思ったかっていうと、作品が未完成のまま世に出るっていうのが作家としてどうか?というのもホントはありつつも、そういうところも含めて見てほしかったし、僕らが思ってるのと同じような感じでこのアルバムを聴いてほしかった。それがやりたかったんですよね」(沖井)。
ある意味、これほどまでにCymbalsらしいCymbalsのアルバムはなかったのではないだろうか? コンセプトの消滅、戦争がすぐそこにある日常(TVつけりゃいとも簡単)を反映したような時事性、生活のひとコマを切り取ったジャケット・フォト(土岐の笑顔といったら!!)など、これまでのCymbals観を更新させるようなポイントはいくつかあるものの、結局のところ、CymbalsをCymbalsたらしめているものはそういう些末(でもないんだけどさ)なところではなかった、ということだ。メンバー自身も内面に斬り込まざるを得ない瞬間があったことを想像させるような『Love You』ではあっても、さり気なく気分を変えてくれるようなポップスのミラクルと、軽く笑い飛ばせるようなユーモアが貫かれているのだから。 「そこで結成当時の話に戻るんですけど、〈気楽に楽しく〉っていうのが大事なんですよ。僕らがCymbalsに求めてる要素はそこですから(ニッコリ)」(沖井)。
最後にひとつ。このレコードで、音圧やスピードやスリル、あるいは知識量やテクニックだけでは計ることのできないポップ・ミュージックの可能性や魅力にひとりでも多くのティーンエイジャーが気付いてくれたらな、と。そんな10代が10年後に作るレコードを聴けたら、僕も、もちろんこの『Love You』も、本望だ。 |

 ・Cymbals オフィシャル・サイト
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